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【不死の力で世界最強】永遠の魔法  作者: ららららら
序章 垣根の上に立つもの
3/92

夜空



黒い髪、黒い瞳の少年がいる。

平凡な容姿の子供であり、日本であればどこにでもいそうな子供だ。

小学校低学年ぐらいの背丈の彼は、切り株に腰を掛けながら、足をバタバタと動かして踵で切り株の側面を太鼓のように叩いている。



彼がこの村で目を覚ましてから3日が経過していた。

それから、毎晩、彼はこうして夜空を見上げている。



広大な空を見ていると、自分の身の回りのことがちっぽけに感じてくる。

自分に起きた出来事などをどうでも良いと割り切ることができ、無心な気持ちになれた。

その無心になれる時間が、彼にとっては心地の良い時間となっていた。




ーー夜空には二つの月が浮かんでいた。

仲良く寄り添う夫婦のように並んで浮かんでいる。


現世で夜空に浮かぶ月はひとつだ。

しかし、ここでは月がふたつある。


さらに、夜空の奥には街の夜景が薄らと広がっている。

まるで世界の天井から街が逆さまに生えているような光景だ。




「空に街が見える・・・」



少年はポツリと呟く。

彼の目の前に広がる夜空は、少年にここは異世界であると否応なく告げていた。




・・・やっぱり、異世界転生かな。

背丈が縮んだことも、見慣れない土地にいることも、日本語が通じているというか、日本語だと思って話していることも、それらの違和感が異世界転生ってだけで何となく片付けられる。

それでいいやって気になれる。

どうして異世界転生したのかは分からないけれど、ま、考えて分かるものじゃないだろう。




「カイル、こんなところで何をしているんだ?」



夜空を眺めながらボーッとしている少年の背後から男性の声が響く。

カイルと呼ばれた人間は、元々、日本で男子高校生をやっていた少年だ。


日本のことを説明することもできない。

異世界転生したなんてことも伝えられない。

彼は記憶喪失をそのまま装うことで、面倒な説明は省くことにした。



その結果、名前も思い出せない設定として、本名ではなく暫定的にカイルと呼ばれることを受け入れていた。


本当の記憶を思い出せるまでは、ケビン達の家族として過ごすこととなる。

本当の記憶が戻れば、その時どうするかはカイルの判断に任せるそうだ。



そして、カイルという名前は、元々、ケビンとサラには思い入れのあるものだったのだろう。

カイルと少年を呼ぶ2人はどこか嬉しそうな様子であった。




ーーカイルが振り返ると、そこには青い髪の精悍な男性がいた。

両手には木をくり抜いて作られたであろうお椀がある。


カイルはケビンに笑顔を見せると、そのまま言葉を紡ぐ。



「・・・夜空を見ていました」

「そうか、星が好きなのか?」

「そうですね。星も好きです・・・こうして夜空を眺めていると、何も考えなくて良いから楽なんです」


「・・・」


ケビンはカイルの言葉に対して、言葉を紡ぐことも、頷くこともせず、ただ彼の隣にドサっと座る。

そして、お椀をカイルへとスッと差し出した。



「ほれ、食え・・・ここに来てから何も食べてないだろ」


ケビンがカイルへ差し出したお椀の中には、香ばしく焼けた芋虫が入っていた。

カイルは苦い顔をすると、片手をお椀へ向けながら言う。



「いえ、食べません・・・」


まるで何かの罰ゲームだと、芋虫を差し出された時に考えていた。

しかし、ケビンを筆頭に、サラや他の村民も口にしていることから、芋虫がこの村の人達の主食であることに気付くと、思わず嫌悪感を露わにしてしまったことを恥じていた。


その時のことをカイルは思い出し、顔に出さないように努める。

流石に、芋虫を口と胃の中に放り込もうとまでは思えない。



「何か食べないともたないぞ」

「本当にお腹が空かないんです」



カイルは嘘を言っていない。

この世界で覚醒してから3日が経過している。

その間、ケビンの言葉通り、何も口にしていない。

それでも、お腹は空腹を訴えることもなく、手足に入る力も衰えることはない。


ケビンは平然としているカイルの言葉に黙って頷くと、迷った後に、一人で食事を始めた。

ちゃっかり、片方のお椀は、カイルの傍にそっと置いていた。



隣でプリプリの芋虫を咀嚼するケビンの姿を見ているカイルは思わず口を挟む。



「それ・・・美味しいですか?」

「いんや・・・クソまずい」


苦笑いしながら答えるケビン

本当に不味いのだとカイルは考えていた。


カイルは昼間の光景を思い出す。

この世界には魔法が存在していた。

水を生み出すことも、火を発生させることも、風を起こすこともできる。


魔法を駆使して行う農作業は、現代にも負けないほどの収穫高を誇っていた。

現に、カイルとケビンがいる切り株の少し先で、昼間には山積みの収穫物があった。

村の人間だけでは食べきれないだろうと思うほどの量があり、周囲の畑には、まだまだ収穫を待つ作物が残っている。


わざわざ芋虫なんかを口に入れる理由が見当たらない。

野菜よりも実は美味しいのかと思ったが、そうでもない様子だ。


カイルは、ふと、さらに疑問をケビンへとぶつける。



「・・・芋虫よりも野菜や穀物を食べれば良いと思います」

「国に納めんだ。食べられるだけの量は残らないな」


「え、あれだけの量を全てですか?」

「あれだけ?」


「昼間・・・ここには山盛りに作物が置いてありましたよ」

「あれだけじゃねーぞ、これから畑で獲れる作物をプラスしてどっこいってとこだな」


「そんな・・・搾取じゃないですか!?」

「搾取か・・・そうだな・・・」


ケビンさんは苦笑いしながら頷いていた。

そんな様子にカイルは苛立ちを覚えていた。

自分の価値観からすれば、ケビンは笑うのではなく怒るべきだと思っていたからだ。



「ここまで搾り取っていて・・・反乱とか・・・そういうのは起こらないんですか?」

「おまっ!物騒なこと言うな・・・」


「こんなものばかり口にしていて・・・不満じゃないんですか?」

「不満さ!不満だけどな・・・反乱なんて無理だな」

「ど、どうしてですか?」

「殺されちまうよ、あっという間にな」



「・・・他の地域の人達と協力できないですか?」

「不満なのは俺らみたいなチンケな領地に住む人間だけだからな、そうそう反乱なんて起こそうと考えているやつ、いねーな」


「え?」

「・・・元々、国に納めるのに必要な税ってのはそこまで高い金額じゃねーんだよ。だけどな、作物ってのは金にならねーんだ。だから、その高くない金額を満たすのにも、村の収穫を全て納めてやっとってとこだな」


ケビンも空を見上げながら言う。

ケラケラと笑っている様子だが、その目には確かに炎が灯っているようにも見えた。

そんなケビンに、カイルはさらに質問を重ねていく。



「税を納めないとどうなりますか?」

「ん?ああ、村長の爺ちゃんが連れてかれて、土地は没収されるな」

「抵抗したら?」

「かかかかか!!考えたくもねぇな・・・」


ケビンはカイルの質問に暗い表情を見せる。

それだけで、どんな目に遭わされるのかカイルは想像できていた。



「農作業が金にならないなら・・・何か別のこと・・・」

「ん?無理だな・・・俺らは学がねぇから、他に生き方を知らねんだよ」

「・・・」



カイルは俯いてしまう。

現代日本でも搾取やブラック企業は問題になっていた。

しかし、それでも、芋虫を口にするようなことはなかった。

夜遅くまで働いて、寝る間もなく、寒さに震え、獣に怯える生活を営むようなことはなかった。


だから、現代日本の倫理観と照らし合わせて、そんなことは許されないというエゴを、カイルはケビンにぶつけてしまっていた。

心の奥で、それを自覚したカイルは、言葉をどう紡いだら良いのか分からなくなっていた。


許せないと思う気持ちと、自分なんかが口を出して良い問題ではないという分別

その葛藤で揺らいでいる。



「カイル、ありがとうな」

「え?」


「俺らのために、怒ってくれんだろ?」


ケビンはカイルの硬く握られている拳を指で指し示す。

すると、カイルはハッとして、両手を背中へ回して隠す。



「かかかかか!!」

「・・・何も知らないくせに、すいません」

「そんな小さいこと気にすんな!」


ケビンは豪快に笑う。

そして、真剣な眼差しでカイルへ問いかける。



「なぁ・・・カイル」

「はい?」


「ちゃんとした肉なら・・・食べてくれるか?」

「え、あ・・・はい」


「本当か?」

「ええ、肉は好きですから」


「そうか」


ケビンはカイルの返答を聞くと、ニカっと太陽のような笑顔を見せる。

そして、スッと立ち上がると、暗闇の奥をジッと見つめていた。

その先には、村の周囲を覆うようにして広がる森がある。


そんなケビンの視線を、カイルはどこか嫌な予感がしながら見つめていた。




「さて・・・そろそろ冷え込んでくるから、小屋に戻って休め」

「はい、確かにそうですね」


ケビンさんに言われて肌寒さを感じた。

僕は素直に頷くと、立ち上がって、小屋へ戻ろうとする。



「なぁ・・・本当に母屋じゃなくて良いのか?」

「はい、僕は小屋で寝ます」

「1人で寝るの・・・寂しくないのか?」



ケビンはまるで幼い子供を相手にするような口調でカイルへと話す。

高校生に言う内容ではないが、カイルの見た目は小学生低学年まで縮んでいる。

1人で眠るには寂しいと思う年頃に見えたのかもしれない。


ケビンはウルウルと仔犬のような瞳でカイルを見つめる。

そのガタイには似つかわしくない態度だが、当のカイルには、ケビン自身がカイルと一緒に眠れないことに寂しいと思っていることは伝わっていないようだ。

いや、カイルは察していた。

だけど、鈍感な振りをすることで取り繕っていた。



「はい、1人の方が・・・好きなので・・・」


カイルは他人といるのが苦痛であった。

自分は誰かを傷付けてしまう。

他人を退屈にさせてしまう。


自分に友好的に接しようとしてくれているケビンに、自分が価値のない人間だと思われたくなくて、カイルは敢えて距離を取ってしまっていた。

だから、淡々と答えるカイルを前に、ケビンは真意をはかれずにガックリと肩を落として言う。



「・・・そうか、お休み、また明日な!」

「おやすみなさい」


「おう!」


ケビンはどこか寂しそうに頷くと、そのまま小屋から少し離れたところにある家へと向かっていく。

村の中心にそびえる屋敷であり、そこでは村長かつ領主のお爺さんとケビンとサラが一緒に暮らしていた。


ケビンを見送ったカイルは、自分もそろそろ寝ようと考えて、小屋へと戻っていく。



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