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【不死の力で世界最強】永遠の魔法  作者: ららららら
第1章 カイル
23/92

予兆



分厚い灰色の雲が世界を覆う。

雨がポツポツと降り、小屋の中には雨音が微かに響いていた。

雨音に混じって、トントンとリズムカルニ何かを叩く音が聞こえる。


ユグとカイルは窓に腕を乗せ、足で壁を軽く叩いていた。

まるで、2人は足と壁を使って演奏しているようであった。


曲と呼ぶには稚拙だが、その足の音を聞いているケビンとサラは幸せそうに笑っている。

初めての子供の演奏会に来た親のような心境なのだろう。






「・・・雨、止まない」

「そうだね。外で遊びたいね」

「うん」


ユグは頬を膨らませてカイルの言葉に頷く。

家の中でも、こうしてカイルと遊べることは嬉しいユグ

しかし、やっぱり、外で走り回りたいと考えていた。



「うーん、こりゃ、今日は・・・」


ケビンはそんな2人の会話を聞いて考えを言おうとする。

しかし、途中で口籠って最後まで言うのをやめた。

ただ2人をがっかりさせてしまうだけだと思っていた。



「今日は・・・止みそうにないですか?」


そんなケビンにカイルが振り返って問いかける。

ユグも同じようにケビンを見つめていた。


2人の純真な視線を前に、ケビンはコクリと頷く。



「そっか・・・」

「すん・・・」


カイルは少し残念そうな顔を見せる。

ユグは鼻を鳴らす程度には残念なようだ。



「・・・そうだわ!」


そんな2人を見兼ねて、サラは両手を叩いて言う。


「ね!そういえば、2人がウチに来て、もう1年半よね!?」

「ん?もう、そんなになるか?」


「・・・そういえば、そうかもしれませんね」


「そしたら・・・お祝いしないとね!」

「お祝い?」


ユグが首を傾げる。

すると、満面の笑みでサラは続ける。


「そう!パーティをしましょう!」

「パーティ?」

「あ・・・ああ!!良い考えだな!」


サラに続いてケビンも明るく笑う。

カイルも怪訝な顔をやめて、笑うことにした。



「パーティって何をするの?」

「ご馳走を食べるのよっ!」



サラの言葉に、ユグはパーっと明るい笑顔を見せる。


「ご馳走!?」

「そうよ!」


「ね!ケビン、明日は森へ行くのよね!?」


サラがケビンに尋ねると、彼は思い出したように頷く。


あの事件から1年半近く経過しているが、誰も犠牲者がいなかったとはいえ、まだ色濃く事件の記憶は残っている。

危うく、サラは自分の夫を亡くすかもしれなかった。

しかし、ケビンが森へ向かうことに抵抗感がない様子である。


そんな2人に怪訝な瞳を向けるのはカイルだ。



「森・・・大丈夫なんですか?」



カイルはまさかサラからそんな話しが出てくるとは思わず、不安そうな表情で聞き返す。

しかし、彼が思っているほど、周りの反応は暗くない様子だ。



「ん?ああ、お爺さんがフェンリルの長と交渉してな、この村の住人であれば森へ出入しても構わんと許可が下りたそうだ」



・・・いつの間に…

ま、ラドンが良いなら別に構わないか。

隠すものもないし。



「そう、ですか・・・」

「おう、そう心配すんなって!」


「でも、何のために森へ?」

「ん?調査だな。俺にも調べてほしいってよ」


「そうなの!それで、森に行くなら狩もお願い!」

「そう簡単に言うけどよー・・・」


ケビンが困ったような顔を見せる。

しかし、サラの輝くような笑顔を前に、深いため息を吐いた。

それは了承の合図であろう。




「狩!?ユグも・・・行きたいっ!」



ユグは勢いよく右手を挙手する。

思わずカイルがビックリするぐらいだ。


「ユグちゃん!?」

「行きたいっ!!」


「ダーメ!ユグちゃんにはまだ早いわ!」


「やだやだっ!ユグも狩に行きたいっ!」


ユグちゃんのわがままモード発動だ。

こうなると止めるのは大変だ。



「・・・僕も行ってみたいです」



・・・とはいえ、森の様子というか、ラドン達のことは少し気になっていた。

この村の周辺の状況とか、タイミングがあれば話を聞きたい。



「ダーメ!」

「そうだぞ!」


サラとケビンは2人の同行を拒否する。

保護者として当然の対応だろう。

むしろ、快諾していたら正気を疑う。



「行きたいっ!行きたいっ!!ユグも狩に行きたいっ!!」




ユグのわがまま攻撃に、サラは困った様子でケビンを見る。

いきなり視線を向けられたケビンは頭を掻きながら言う。


「だ、ダメだぞ・・・ユグちゃんはお留守番・・・んだ」

「うー・・・」


ユグはキラキラとした瞳でケビンを見つめる。



「うっ・・・」

「・・・ユグも行きたい」


「ま、魔物もいないし・・・大丈夫じゃないか?」

「ケビン!!」


「わー!!パパ!大好き!!」


ユグはケビンの足にギュッと抱きつく。

すると、ケビンはプルプルと顔を震わせ、めちゃくちゃ嬉しそうな笑顔を見せる。



「こらっ!ダメだったら、ダメよ!!」


サラはそれでもユグの同行を認めないようだ。

いつもは笑顔の彼女も、そろそろ顔が強張ってきていた。



「・・・わー!お母さん、大好き!」


カイルは真似てサラへと抱きついてみる。

すると、サラも目尻に涙を浮かべて、プルプルと震えていた。



「か、カイル!?」

「僕も・・・狩りに・・・行きたい・・・です」


顔を震わせているサラ

そんな彼女へカイルは辿々しくボソッと言う。



「うっ・・・く・・・うん・・・」


サラは抗うことができずコクリと頷く。



「わーい!カイル兄ぃも一緒っ!」

「あ・・・あはははは・・・」



・・・効果バツグンすぎる。

罪悪感の反動がヤバいから

これ、封印しよう…




***********




「こーら!ユグちゃん!あんまり走り回ると転ぶぞ!!」

「わー!!森!!森!!・・・きゃっ!!」


ケビンの声を背後に走り回るユグ

しかし、その言葉通り、木の根に足を取られて、彼女は顔面から地面に倒れる。



泥と涙に塗れてユグは顔を上げる。


「すん・・・すんすん」


泣くのを必死に我慢しているユグ

そんな彼女の顔をハンカチで拭くのはカイルだ。



「ほら、大丈夫?」

「すん・・・」

「うーん・・・よし!痛いの痛いの・・・飛んでけっ!」


「・・・カイル兄ぃ?何それ?」

「痛いのが飛んでいく魔法だよ・・・ほら!」



カイルの笑顔を前に、ユグは自分自身の体に向かって言葉を紡ぐ。


「・・・痛いの・・・飛んでけ!」

「うん・・・大丈夫!」


ユグはスッと立ち上がると、そのまま森の中を進んでいく。

周囲をキョロキョロと見渡しながら、深く生茂る木々を楽しそうに見つめている。

また転ばないように走り回ることはしなくなっていた。

むしろ、足元の様子をしっかりと確認しながら歩いており、そんなユグの様子を見て、カイルは賢い子だと思っていた。


そんな彼女の後ろを、別の意味で周囲を見渡しながら歩いていくケビン

最後尾となったカイルはゆっくりと2人に続きながらも小声で呟く。



「・・・ラドン、良いの?」


カイルはスッと背後に現れた気配に小声で言う。

森に立ち入ってほしくないだろうとカイルは考えていた。

しかし、ラドンは思ったよりもそんな様子は見せない。



「はっ・・・カイル様のご意向であれば」

「いや・・・そのね」

「その?」


「森に・・・僕らが入るのが嫌じゃないのかな、って」

「そんな恐れ大きなこと・・・この森はカイル様の所有物に等しきものにございます」

「そういう形式的なことじゃなくて、人間が自分の領地に入るの・・・嫌じゃないかなって」


「お気遣いいただきありがとうございます。ご安心ください。我らに嫌悪感を示すものはおりません。カイル様と近しき人間であれば、森に立ち入ることを嫌がる同胞はおりません」


「そっか・・・それならよかったよ」



「それよりも、本日はどのような御用向きで?」

「調子はどうかなって思って」


「カイル様のお力によって、我らの生活は平穏そのものにございます」

「そっか・・・それは良かった・・・」


カイルはどこか申し訳なさそうに空を見上げる。

そんな様子の彼へラドンは首を傾げながら名前を呼ぶ。



「カイル様?」

「・・・みんな平和に暮らせているなら、良かった」


「ご心配いただき誠にありがとうございます。カイル様、恐れながら申し上げます」

「どうしたの?」



「・・・我らはカイル様を恨んでなどおりません」


ラドンの単刀直入な物言いに、カイルは顔をハッとさせてしまう。

彼の本心はどうやらラドンへ透けていたようだ。



「我らも、カイル様だけでなく、ご家族様のお命も奪うつもりでした。同胞が命を落としたのは生存競争の結果でございます。恨むことなど筋違いです」

「・・・悲しくはないの?」


カイルは先に進むケビンとユグの楽しそうな背中を見つめながら問う。

もし、2人を失ったと思うと、その結果を想像すると、カイルは自分の中に黒いモヤのようなものを感じていた。

それを言葉にして、ラドンへと尋ねるカイル



「悲しくないと言えば嘘になります。しかし、カイル様のおかげで、こうして平穏な時を過ごせております。みな、感謝しております。悲願が叶ったと感謝しております。悲しみよりも、今は、得られた平穏を大切にすること、その気持ちが優っております」


「・・・そっか」


「ええ、どうぞ、胸を張ってください。我らはカイル様に感謝しております。恩人にそのような肩身の狭い思いをさせてしまっていると知られれば、それでも我らの長かと、同胞に怒られてしまいます」

「はははは・・・ありがとう、ラドン」


「カイル様・・・そのお言葉、後生大事に胸の中に抱かせていただきます。こちらこそ、感謝を・・・」



「・・・」


ラドンはスッと姿を消す。

すると、前方からケビンの声が聞こえる。



「おーい!カイル!」


ケビンが背後を振り返って、手を振りながらカイルを呼んでいる。

その気配を察したラドンはすぐに姿を消したようだ。


そして、カイルも笑顔でケビンに手を振って応える。



「はーい!今、行きまーす!!」






*********






森の中、カイルとユグが木の根っこを掘り返していた。



「・・・カイル兄ぃ!これは!?」


ユグはカイルへ手を突き出す。

そこには真っ赤な色のキノコが握られていた。



「多分・・・ダメだよ、それ」

「ぶー!」


カイルは赤いキノコは漏れなく毒キノコだと思えというテレビでやっていた情報を思い出していた。

もしかしたら食べられるかもしれないけど、迷ったら食べないのが1番だ。




「・・・おい、カイル」

「どうしました?」


カイルはケビンに肩を叩かれる。

勢いよく叩かれたため、思わずビックリして振り返ると、そこには不安そうな表情を浮かべているケビンの顔があった。



「ユグの姿が見えないんだが・・・」


ケビンの言葉が理解できず、一瞬だけ固まるカイル

すぐ隣にいるユグの方へ振り向くと、そこには誰の姿も見えなくなっていた。



「え・・・あれ?」


カイルはほんの数秒前まで、すぐ近くにユグが居たことを覚えている。

自分のすぐ隣で、誇らしげに採ったキノコを見せてくれていた。




ーー慌てて2人は周囲を見渡すが、どこにもユグの気配はなかった。



「・・・おーい!ユグちゃん!!」

「ユグ!!どこだ!?」


「・・・」



カイルとケビンは頷き合うと、地面の凹凸を念入りに確認しながら周囲を探す。

地面を覆う草や葉に紛れた穴がないかを念入りに探しつつ、木陰の裏を覗いていく。



「・・・おーい!カイル、そっちはどうだ!?」

「いません!!」



・・・明らかにおかしい。

木陰に隠れていたにしても、これだけの葉だ。

足音を響かせずに移動なんてできない。

それに…落とし穴になっている場所もなさそうだ。



カイルは周囲を見渡す。

確かに、隠れようと思えば隠れられる箇所もある。

しかし、どこかに隠れていたとしても、あの時間でユグが動けるであろう範囲はとっくに探し終えていた。



・・・いたずらはする。

だけど、ここまで僕達を困らせるようなことまではしない。

ユグちゃんは賢い子だし、優しい子でもある。




「ユグちゃん・・・」


カイルは焦燥感に駆られながらも、ドンヨリとしている雨上がりの空を見上げていた。



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