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【不死の力で世界最強】永遠の魔法  作者: ららららら
第1章 カイル
21/92

奴隷



「なぁーーー!!俺達!!奴隷なのか!?」


ドシルの叫び声が小屋の中に木霊する。

両手で頭を抱えながら不細工な顔をさらに歪めていた。



「今更、何を言ってんの?」

「ねー?」


狼狽えるドシルへ呆れた口調の女子2人

ドシルの牙はキララとサララへ向けられた。



「がぁあああ!!何を落ち着いてんだ!?」


「パパとママから聞いていたもの、今更よ」

「そうよ!そうよ!」


「お、俺達だけ知らなかったのか!?」

「何だよ!そりゃ!!」



キララとサララは呆れていた。

ドシルとボルルは叫んで嫌悪感を示している。

温度差が男女であるようだ。


カイルも薄らと気付いてはいたが、やはり、言葉にされて明確になると驚きはあったようだ。



「・・・この村の人、みんな奴隷なの?」


カイルの質問に、マルルは首を横に振る。



「・・・サラさんと村長は貴族」



・・・サラさんとお爺さんが貴族

それなら、サラさんの夫のケビンさんは?



「お父さんは貴族じゃないの?」

「ケビン先生も奴隷」


「奴隷なのか・・・」

「おっ!師匠も奴隷なのか?」

「何で嬉しそうなんだよ・・・」



ドシルはケビンも奴隷だと知ると、ご機嫌そうに笑う。

それで良いのかとカイルは思いつつも、この世界の奴隷の待遇はそこまで悪くないのかもしれないと思っていた。



カイルは村の人々に奴隷がいることは気付いていた。

説明を受けたわけではなく、聞こえてくる会話から察していた。


とはいえ、扱いが酷い人はいない。

この村の生活は低水準であり、みんなが劣悪な環境で暮らしている。

裏を返せば、貴族だろうと奴隷だろうと、そこに差別がない。

そもそも、現代日本と比べて文化レベルが著しく低いのだから、生活水準が低いのは当たり前だ。

逆に、封建社会のように明確な身分差があるのにも関わらず、差別がないことはすごいとカイルは感想を抱いている。


ーーこの時のカイルは、貴族や奴隷というのが表面的な立場だけだと考えていた。




「おい!!どうしてだ!?何で俺達が奴隷なんだ!?」


ボルルはマルルへ叫ぶように問いかける。

しかし、そんなボルルをキララが睨む。



「ちょっと!マルルに怒鳴らないでよ!」

「そうよ!そうよ!」


「何だと!?これが落ち着いてられっか!?」


「ボルル、マルルちゃんが悪いわけじゃないし、落ち着いて話そうよ」

「んだと!?カイル!?」


カイルが口を挟むと、その生意気な態度に腹を立てるガルル

しかし、珍しく、ドシルがカイルの援護に回る。



「おい!ボルル!こりゃ、カイルの言う通りだぞ!」


「なっ!ドシル、お前まで、何を落ち着いでんだ?」

「慌てても仕方ねーだろ?変わんねーよ、まだ、な」



ドシルはニカッと笑う。

今は奴隷でも構わない。

だけど、いつか見ていろ。

そんな野心と自信を感じる。



「き、急に、ドシルまで!てめーもさっきまでうるさかったじゃないか!?」

「師匠も奴隷なんだ!そんなに騒ぐことじゃねーよ!」


ケビンと同じであることが嬉しい様子だ。

単純と言えば単純だが、子供らしいと言えばそれまでだ。



「・・・けっ!」


ドシルの不遜な態度にボルルは舌打ちする。

しかし、怒りを鎮め、そのまま話を聞くようだ。


マルルはキョロキョロと周囲を見渡す。

場が剣呑な空気になってしまったのは、自分のせいだと思っているようだ。



「マルルちゃん、教えてほしい。奴隷ってそもそも、どうして?」


カイルが優しく問いかけると、マルルはコクリと頷く。



「・・・家、土地、持ってない」


「え?家はあるわよ!?」

「そうよ!そうよ!」


「キララの言う通りだぜ?」

「ああ、俺ら、家あるぞ?」


4人の言葉にマルルはポツリと


「所有権、村長」



・・・つまり、この村の家や土地は村長の持ち物って言うことか。



「・・・そっか」



カイルはマルルの説明に納得していた。


現代日本の会社の考え方に近い。

資本は経営者が持ち、社員はその資本を使って利益を生み出す的なソレだ。

パソコンだとかの備品は、社員の所有物であることはほとんどなく、会社から提供されることがほとんどだろう。

この村では、土地や家は村長で貴族でもあるお爺さんが持ち、それを提供されて農作業をしているのがカイル達であるということだ。



「おい!カイル!何、納得してんだ?」

「家や土地を持っていれば平民ってことだよね?」

「だーかーら!俺達も家、あるぞ!?」


子供達からの疑問を一斉に浴びるカイル

しかし、思ったことが正しいか確認するために、疑問に答えつつ、自分の答え合わせをするため、マルルへと問いかける。



「家や畑はお爺さんの所有権で、それを借りているってことだよね」

「何よそれ!?」

「どういうこった!?」



「・・・カイル君の言う通り」


「それじゃ!俺達が住んでいる家は、とーちゃんとかーちゃんのもんじゃなくて、村長のもんだってことか!?」

「ふざけんな!あれは俺ん家だ!」



「・・・家、土地を多く持っている人は貴族、普通の人は平民、所有していない人は奴隷、村長はいっぱい持っているから貴族、私達、持っていないから奴隷」



「持ってるぞ!」

「住む場所はあるよな?」

「おう!」



「今は土地と家を借りているから奴隷だけど、自分の家や土地を持てれば、奴隷じゃなくなるってことだよね?」


「うん」


カイルの言葉にマルルが頷く。

一連のやり取りでイメージができたキララとサララ、ボルルは納得したような顔をしていた。

しかし、まだ理解できていないドシルは重ねて質問する。



「おい!じゃ、家や土地、村長のもんで、俺らは借りているってことか?」

「うん」


「んで!俺らが家や土地を持てば、奴隷じゃなくなるってこったな?」

「そう」



「家なんてどうやって手に入れるの?」

「建てる」

「土地は?」


「どうすんだろうな?」

「テキトーに札でも立てれば良いんじゃね?」

「そんな簡単なのか!!」


「そんなわけないでしょ!」

「そうよ!そうよ!」


「んじゃ、どうすんだ!?」

「それは・・・買うのかな?」

「いくらすんだ?」


ザワザワとする中、マルルがポツリと呟くように言う。



「・・・家は買える。土地はなかなか買えない」

「家は、まぁ、建てれば良いからかな」


「うん、土地は教会や国から貰う」


「貰う?」

「うん、教会から認められたり、国に貢献する」



「国に貢献ってどうすんだ?」

「・・・すごく強い魔物を倒すとか?」

「戦争で活躍するとか?」


「経済の発展に貢献するとか?」

「けーざい?」

「・・・」



「何をすればいいのか、決まってない。認めてもらう」

「すげーことをすれば良いんだろ?」


「うん」


「でも、すごいことってどうするのかしら?」

「ねー?」

「偉いことするってことよね?」


「お!待てよ!村長が貴族ってことは、偉いことしたのか?」

「あの村長が?」


「確か、村長が来て開拓したのが、村の始まりよね?」

「・・・そうよ!」



「なぁ、村長も土地を貰ったってことか?」

「うん」


「村長も、昔、奴隷だった」

「え、そうなのか?」


「この土地、貰った。すごく貢献した」

「へぇー」


「あの村長がね」

「うーん?何をしたのかな?」



キララはマルルを見る。

すると、彼女は首を横に振った。


「知らない。教えてくれない」


「何で教えてくんねーんだ?」

「分からない」



マルルの言葉で、ドシルとボルルは不満を露わにする。


「けっ!俺達を奴隷としてこき使いたいから、教えてくんねーんだな!?」

「おう!それ、俺も思ったぜ!」

「奴隷じゃなくなると困るってこったろ!」


カイルはそんなことを口にするドシルとボルルをキッと睨む。



「ドシル、ボルル、そんなことはないと思うよ」


「カイルは村長んとこのガキだったしな!」

「おう!てめーは庇うよな!」


「・・・」


ドシルとボルルの言葉に、どう言葉を紡いでいいのか分からないカイル

確かに立場上はお爺さんの身内であるため、なかなか説得は得られない。


すると、女性陣から応援が入る。



「私も村長はそんなことを考えないと思うわ」

「そうね。自分だって同じような暮らしをしているし、楽をしている感じはないもの」

「村長、泥だらけ」


村長が奴隷をこき使うようなタイプなら、自分自身も畑仕事に従事したり、同じような生活水準で暮らしはしないだろうという主張だ。



「・・・けっ!」

「なら、どうしてだよ?」


ドシルとボルルは納得したようだ。

しかし、教えてくれない理由が解せない様子である。



「人に話したくないこと、僕達だってあるよね」



カイルがポツリと言った言葉で、場はシーンっとする。

場を凍てつかせてしまったと思ったカイルは慌てて話題を変えようとした。



「・・・国のことは分かったけど、その教会って何?」


カイルが教会を口にする。

話の節々で出てきた単語だ。



「教会はすげー偉いんだぞ!」

「おう!世界の平和を守ってんだ!」


カイルの質問に目を輝かせて答えるのはドシルとボルルだ。

明るい話題になりそうでカイルはホッとした。



「勇者が倒した魔の再臨を監視しているのよね」

「うん、教会、世界平和の象徴」


「世界平和の象徴?」


「うん、ずっと昔、勇者に協力して魔を撃退したり、四宝、封印した」

「最近だと、帝国をジッと監視しているわよね」



教会のことを話すマルル

どこか感謝のようなものを抱いている様子であり、教会に対するみんなの印象がわかる。



・・・なるほど、慕われているわけだ。

何となくきな臭い感じはあるけど。




「そうだぜ!勇者を見つけ出したのも教会なんだぞ!」

「おう!カイルの暗黒騎士も、その教会を裏切った奴っていう設定だしな!」


「・・・僕もたまには勇者役やりたいんだけどな」

「何を言ってんだ!?カイルはどう見ても悪役だろ?」

「おう!」


「えー!どう見ても勇者でしょ!」

「そうよ!そうよ!」


「キララは分かってーねーな!」

「何よ!ブサイクのドシルがやればいいじゃない!」

「そうよ!そうよ!」


「んだと!!」



ドシルとボルル VS キララとサララ

そんな雰囲気になりそうであり、カイルは次の話題を切り出す。



「で、その帝国というのは?」


「世界の半分、占領下」


カイルの言葉にマルルが答える。

すると、他の4人は口喧嘩をやめて、聞きに入る。

一応、マルルを教師とした授業である体は維持したいようだ。



「世界の半分・・・すごいな」


カイルが感心したように言うと、キララが口を挟む。


「すごくないわ!」

「え?」

「そうよ!植民地って言って、すごく酷いことしていた時期もあったんだよ!」


「そ、そうなんだ・・・」


「教会、帝国、指摘、植民地の待遇、良くなった」

「そうそう!すごく感謝してたわよね!」

「うん!独立まで支援してて、教会はすごいってパパも言っていたわ!」



・・・教会が権威を維持するために、帝国の力を削ぎに言ったように聞こえるけど。

これは見方が捻くれすぎかな。




「そういやー・・・北と南に分かれて戦争しているよな?」

「まだやってんだっけ?」


ドシルとボルルが首を傾げる。

すると、そんな2人へマルルが言う。



「戦争、まだ終わってない」

「そーなのか!?」


「うん、次の帝位を争ってる」


「まだ決まってねーもんな」

「俺らが産まれる前からやってんよな?」

「おう、すげぇなげーな」


「そんなに長いこと戦ってて大丈夫なのかな?」

「小競り合い、続いている。大きいの、たまに」


「皇帝がいないんでしょ?」

「いる。もうじき、死ぬけど、次の皇帝、決めかねている」




ーーギュルルルルルルル!!


「・・・」


帝国の話をしていると、急に大きなお腹の音がなる。

音源へカイル達が視線を送ると、そこには空腹を訴えているボルルの姿があった。



「・・・お腹空いた」


彼がそう告げると、子供達はハッとする。



「あっ!そろそろ!お昼になるわ!」

「そうね!!」

「ご飯、作るの、手伝う」


バタバタとキララとサララとマルルが立ち上がる。

そして、その後をドシルとボルルが追う。



「やっべ!昼飯の手伝いしねーと!」

「ご飯抜きになっちまったら死ぬー!!」



小屋で1人になったカイルはポツリと呟く。


「・・・帰ろう」








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