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【不死の力で世界最強】永遠の魔法  作者: ららららら
序章 垣根の上に立つもの
2/92

覚醒



・・・揺られている。

何かに揺られている。


浮き沈みする。

ゆらゆらと浮いて、ゆらゆらと沈む。




もわーっとする。


何だろう、不思議な感覚だ。

温泉の上にいるような、そんな気分だ。



「・・・」



・・・声?




「・・・!!」

「・・・!!・・・!!・・・・・・・!!!」



・・・誰かの声?






あー…

めちゃくちゃ気持ち良いし、穏やかだ。

あったけー…



いいや。

もう、ずっとこのままでいいや


すげぇ極楽



ふぅ






…うぇ!


うぇえええ!!



やっぱダメだ!


めっちゃ気持ち悪い!!






ーー少年の感じていた揺れる感覚

最初は心地よさすら感じていた。

しかし、その心地よさはだんだんと不快感へと変わっていき、次第に不快感が堪えきれなくなる。





「っ!?」




やがて、不快感で彼が目を覚ます。







ーーそこには黒く汚れた天井が見えた。

木目が見えるから、木造住宅のようだ。




「ゴホッ!!・・・ズルズル・・・くしゅん!!」



少年は思わず咳と鼻水とくしゃみが出るほど、埃くさい場所で寝ていたようだ。

かけられている毛布はゴワゴワの最低の肌触りだ。

まるでくたびれた雑巾のような感触がする。


彼は掛け布団を蹴り飛ばし、その勢いで上半身だけ起こす。

慌てた様子で周囲を見渡すと、そこには6畳ぐらいの部屋が広がっていた。

黒く汚れているから分かりにくいが、どうやら木造の小屋のような場所だ。


混乱する思考を頬を撫でる風が冷静にさせる。

窓は開いているのだが、窓ガラスなんてものはなく、木の棒で立て掛けてあるだけのものだ。


網戸なんて気の利いたものなどはない。

そして、外から差し込む光によって、日中であることが分かる。




・・・頭がフラフラする。

手足に力が入らない。

だけど、具合が悪いわけじゃない。

おかしな気分だ。



彼はグッと足に力を込めて立ち上がる。

短い手足を動かして前へと進む。



「お・・・おっと・・・おっとっと」



使い慣れた手足とは違う感覚がする。

そのことに違和感を抱きつつ、特に気に留めることができるほど、彼の脳内に余裕はない。

疲れが出ているのだろうと疑問に封をしていた。



フラフラと転びそうになりながらも、彼は小屋の外へと向かって歩いていく。





ーー小屋の外には広大な畑が広がっていた。

その畑の奥には、木造の家々が並んでいる。

さらに奥には、巨大な丸太を地面に打ち付けて建てられている壁があり、その壁はグルリと村を覆っているようだ。


壁の向こう側はすぐに深い森になっており、その森の奥には巨大な山が連なっていた。


まるで見たこともないような光景だ。

壮大な景色であり、大自然の中に作られた村の中央にいるようだ。



少年は小屋の入り口で呆然と景色を見渡している。

口をパクパクと動かしており、目は忙しなくキョロキョロとさせていた。



・・・どこだ。

ここはどこだ?


ダメだ。

全く思い出せない。






「お!おはよう!!」


少年は急に聞こえてくる男性の声にビクリと肩を震わせる。

そして、声のする方向を見ると、そこには青い髪を短く切り揃えた筋骨隆々の男性がいた。

まるで太陽のような笑顔で、右手を上げながらこちらへと向かってくる。


フレンドリーに近づいてくる男性の出立ちは明らかに日本人ではない。

掘りの深い容姿をしており、精悍な顔立ちだ。



「あ・・・あの・・・」

「おう!俺はケビン!今日からお前の父親だ!よろしくな!」

「え、あ・・・はぁ!?」



とんでもない自己紹介だ。

いきなり父親を名乗る男性の登場に、少年は驚きを隠すことなんて到底できない。



「かかかか!!そう驚くなって」

「・・・あの父親って!どういうことですか?」


「俺達がお前の面倒を見てやる!ちゃんとデッカくしてやるからな!」

「デッカく・・・?ん?」

「おう!立派な男にしてやるぜ!!」


「立派な男!?え・・・あの・・・結構です!」

「お、おう?おろ???」



無駄にガッツポーズを決める男性を前にして、これは変な勧誘なのかもしれないと少年は思った。

ケビンと名乗る男性の申し出を拒否すると、ケビンは拍子抜けと言った表情を見せる。



・・・間違いなく変な勧誘だ。




少年は逃げ道を探すために周囲を見渡す。

話し合いになれば逃れられないし、凄まれれば怯えて契約してしまうか、連れていかれてしまうだろう。


しかし、そうやって辺りを見回す彼に見えてくるのは農作業に勤しむ人々、舗装されていない地面、広大な畑と風になびかれている小麦

そして、視界をグルリと囲う広大な山脈と森だった。


繰り返しになるが、彼は農村にいる。

日本の大都会で生活を営んでいた彼が、急に長閑な農村へと移動している。

その間の記憶がすっぽりと抜けていた。

彼が混乱するのも当然だろう。




・・・あれ?

僕は、どうしたんだっけ?

それよりも学校に行かないと。

ん?学校?別に良いか。


でも、学校から親に連絡されると面倒だし、適当な理由で欠席することは伝えておこう。


あれ、ケータイどこだ?

小屋?




ーー彼はクルリと反転して小屋へと戻る。

6畳の部屋をグルリと見渡すが、どこにもケータイは落ちていなかった。

自分が寝ていたところの毛布をひっくり返すが、やはりケータイらしきものは落ちていないようだ。



「お、おい・・・どうした?」


小屋の中で何かを探し始めた彼へ、ケビンと名乗る男性は背後から問いかける。



「学校に電話しないと・・・電話・・・」

「電話?何だそりゃ?」


「どれぐらい寝ていたのか分かりませんから・・・遅刻しているのは間違いないです・・・もしかすると無断欠席に・・・いや・・・何で・・・こんな状況で僕はそんなことを考えているんですかね?」


「お、おう・・・」



少年は自分が何をすべきなのか理解できないでいた。

この状況は明らかに異様だ。

トラックに撥ねられて、気付けば長閑な農村の中にいた。

学校どころではないことは間違いない。

それでも、学校へ連絡するために、少年は必死にケータイを求めていた。


少年は、どこか平穏を求めて、日常の営みに本能的に戻ろうとしていた。

そういった心理が働いていたことを、彼が自覚することはないだろう。



混乱した様子の少年を前に、ケビンと名乗った男性は頬を指で掻く。



「お、お前・・・何か思い出したのか?」

「何か?思い出した?」


「おう、お前を川から拾い上げた時、名前も何も覚えてないって言うからよ!てっきり記憶喪失になったのかと思ったけどな」



「記憶・・・」


少年は苦い顔をする。

思い出そうとすると、顔が歪むほどの頭痛に見舞われる。


「がっァ!」



少年は頭を掴むようにして押さえている。

激痛に顔を歪めており、ケビンは慌てて声をかける。




「おい!どうした!」


カイルの脳内でスッと痛みが引いていく。

まるで何事もなかったように思考がクリアになっていた。



「・・・大丈夫です」

「なぁ、まだ痛むんじゃねーか?」


「あ・・・ありがとうございます。ご心配いただき・・・」

「か、硬いな!!お前っ!!」



少年は優しく声をかけてもらったことにお礼を告げる。

すると、ケビンは苦笑いしながら少年の背中を叩く。



「もっと気楽に行こうぜ・・・な!」

「そうも行きません」

「肩肘張ったって、人生、つまんねーぞ!かかかかかか!!」



軽快に笑うケビン

そんな彼に、神妙な顔で周囲を見渡しながら少年が問いかける。



・・・ここは状況を整理して冷静になるのが1番だろう。

長閑な農村に僕はいる。

ここまでに何があったのかをまるで覚えていない。

まずは現在地の確認が必要だ。





「あの・・・ここは?」



「ん?お、おお・・・ここは・・・」



ケビンは口籠る。


なかなか言葉が出てこない様子だ。

そんなケビンの様子に、カイルは怪訝な顔をしながら、質問の仕方を変えた。




「あの・・・僕は確かに東京にいたはずなんですが・・・」

「東京?何か思い出したのか!?」


食い気味に聞いてくるケビン

その様子に若干怯える少年




「え・・・ええ、日本の首都ですよ」

「日本?ん?どこかの国か?」



日本や東京という単語を出しても、ケビンは知らない様子だ。

そんな彼に痺れを切らしたように少年は問う。



「・・・ここはどこなんですか?」


「お、あ、そうだったな・・・」

「・・・?」


「あ、ああ・・・ここはリグルカンツ王国だぜ。その南の端にあるチンケな農村だ!かっかかかかか!!ほれ、あれがアルガス山脈だ。これで場所は分かるか?」



ケビンは周囲の景色の奥にある山々を指差して言う。

しかし、少年には聞き覚えのない地名だ。



・・・リグルカンツもアルガス山脈も聞いたことがない名前だ。

ケビンさんの容姿からすると、多分、ヨーロッパの方なのかな?

いや、待て


何で日本語が通じているんだ?

そもそも、あれ、いつの間に出国した?


僕は拉致されたのか?

この人達は変な宗教団体なのかも・・・


待て待て、考えすぎだ。

そもそも、僕なんかをここまで連れてくる方がコストだろう。

ただの高校生だし、実家も金持ちって訳じゃない。


拉致して意味なんてない。

親は身代金なんて払えないし、払わないと思うぞ。




ーー呆然と考え込んでいる少年

そんな彼を心配そうな瞳で見つめるケビン



「おーい!大丈夫か?辛いなら寝ててくれよー!おーい!」

「・・・」


ケビンは何度呼んでも反応を示さない少年へ呆れたように肩をすくめる。


「ダメだ・・・聞いちゃいねー・・・」



ケビンが文字通り頭を抱えていると、女性の声が聞こえてくる。



「ケビン、おはようー!」

「おう、サラ」

「あら!その子は!?」


記憶が混乱していて呆然とするケビンの目の前に、金色の髪の女性が現れる。

そして、彼女はケビンを見た後に、少年を見るとパーッと顔を明るくさせる。



「起きたのね!」

「おう、ついさっきな」


女性はそのまま小屋の中を進むと、少年の前にしゃがむ。

そして、目線を合わせた状態で微笑みながら口を開く。



「こんにちは!」

「・・・!?」

「大丈夫?」


「あ、はい!すいません!考え事をしていました!」

「そう・・・大丈夫なら良かった!」


女性の嬉しそうな声が響く。

肌や衣服は汚れているが、金色の髪は小屋の中でも綺麗に輝いている。

彼女の目は緑色であり、僕を見つめる瞳はウルウルと輝いていた。

スラリとしているが出るところは出ているナイスバディだ。



「んーーー!!私達の子よ!私達の!!」


そう泣き笑いながら、サラは彼をギュッと抱きしめる。



「う・・・うげぇ・・・」



抱きしめられると一瞬だけ柔らかい感触がした。

初めての女性の感触だ。


しかし、それを堪能している暇はない。

思いの外、サラが少年を抱きしめる力が強く、中身が溢れ出て来そうだ。



「おい・・・サラ・・・何だか顔色が悪いぞ」

「え?私は元気よ?」

「いや、カイルだよ!カイル・・・」


ケビンは、黒髪の少年を咄嗟にカイルと呼ぶ。

すると、ハッとさせてから、少し複雑そうな表情を覗かせていた。



「・・・っ」

「ぐえ・・・」


「あ、お、おい!離してやれ!」

「あら、やだっ!!」


サラから急に離された少年は後ろに倒れると、ゴツンと頭を地面へぶつける。



「ぐえ・・・」

「ごめんなさい!」

「い、いえ・・・大丈夫です・・・ゲホゲホッ!」



仰向けにサラを見上げながら、手のひらを突き出し、咳き込む少年

しかし、その言葉とは合致しない顔色を見せていた。



「お、おい!めちゃくちゃ顔色が悪いぞ!!」

「あ、どうしましょ!どうしましょ!」

「大丈・・・夫・・・」



・・・あれ、ダメだ。

頭が物凄く痛い。


クラクラ


する。




「うお!!!」

「治癒魔法!治癒魔法!」


サラはソッと少年へ手を当てる。



「とにかく爺さん呼んでくるぞ!!サラはみててくれ!!」

「え、ええ・・・ええ!!」



少年は薄れゆく視界の中で、今にも泣きそうなサラの表情を見つめる。

どこか、親愛にも似た何かを胸に感じる。

とても落ち着くような、そんな懐かしさがある。




・・・ど、どう、して、だろう。

すごく、落ち着く、気が、する。




そして、少年は血相を変えて小屋を飛び出していくケビンの背中を見る。

彼の背中にすら親愛のようなものを胸に感じる。



・・・ど、こか、で、会って


い、る?







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