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【不死の力で世界最強】永遠の魔法  作者: ららららら
第1章 カイル
19/92

男と男の戦い



お爺さんは作物を呆然と見つめている。

彼の前には一回り大きな姿で実っている麦が一面に広がっていた。


普通の麦よりは3倍ぐらいは大きく育っており、豊作と言えるような光景を前にしながらも、おじいさんは険しい顔を見せていた。

その視界の奥で、何やら愛しい孫が同じ歳の女の子にビンタされているのだが、それを気に留める余裕もないようだ。




「村長・・・こりゃ?」

「うむ、何か妙だのう」


お爺さんの隣に少し丸みのある男性が立つ。

彼も同じように険しい顔で、豊作を予期させる畑を見渡していた。



「育ち過ぎていますね」

「うむ、魔物化、一歩手前じゃな」



物事には許容範囲がある。

大きいことや小さいことも過ぎれば悪となる。

どうやら、目の前の畑に実る作物の大きさは、許容範囲を超えてしまっているようだ。



「森に異変が?」

「いや、それはないのう。フェンリルがおるのじゃ、魔物の氾濫はおろか、土壌に眠る魔力の暴走すら許さんじゃろう」

「それは・・・確かに・・・」

「こう1年、魔物どころか盗賊すら来ておらんかった。あれは嵐の前の静けさだったのかのう」



村長はそう言って空を見上げる。

その視線を追うようにして、隣にいる丸みのある男性も空を見上げた。

確かに、地平線の奥の方の雲は分厚く黒くなっていた。



「・・・でも、これ、明らかに異常自体です」

「うむ」



それならば、目の前の光景は何だと疑問を隠せない様子であった。



「風に乗って毒が来ることはありますか?」

「それもなかろう。この村の周囲はフェンリルの森に囲まれておるからな」

「雨や川ですかね?」


「特定の畑にだけ症状が出ておる。雨や川の水質が原因ならば、村の全域に影響は出ておるじゃろう」

「原因が分かりませんね」


丸みのある男性が困り果てた顔を見せると、お爺さんは息を大きく吐いてから言う。



「・・・森へ行こうと思うのじゃ」

「森にですか!?」


村長の言葉に思わず驚きを隠せない様子の村民



「うむ、森が原因ではないのは分かるが、原因が何かはわからん。ここはお知恵をお借りすることができれば1番じゃろ」

「・・・力を貸してくれますかね?」


「フェンリル達がカイルを見る目、あれは・・・」

「あれは?」



お爺さんは思い出していた。

フェンリル達が確かに尊敬の念をカイルへ抱いているとわかるような目をしていたことを。

しかし、それは感覚だ。


決して、言葉にして、うまく他者へと伝えられるようなものではない。



「いや、何でもないぞ」

「・・・そうですか」





**********




「・・・カイル君!さいてー!」


両腕を前で組みながらジト目で睨む女子が2人いる。

1人は頭に大きな赤いリボンをつけた少女であり、金髪で可愛らしい容姿をしていた。

もう1人は茶色い髪をおさげにしている少女だ。


そんな2人の女子に囲まれているカイル

その言葉に、彼はうまく抗うことができないでいた。



「えっと・・・」


狼狽えるカイル

そもそも、女性耐性0の男だ。

ナンパなんて真似ができるほどの経験もスキルも持っていない。



「ね!こんな奴だとは思わなかった」

「うんうん!すごくマジメな人だと思っていたのに!」

「あーあ!マルルちゃんが泣いちゃうかも!!」



カイルは自分の株が暴落していくことに気付く。

実は、思ったよりも自分の評価が低くなかったことに喜びつつも、どう対処していいのか分からず、ただ呆然としていた。



「その・・・ごめんなさい」

「謝るなら口説くなんてこと、やめてくださるかしら!?」


「そうよ!そうよ!!」

「ちょっと・・・ドキドキしちゃったじゃない」



そう言って頬を赤く染める女子

実は満更でもない様子であるようだ。


しかし、自分に自信のないカイル

初めての反応を見せる女子を前に、首を傾げながら見つめる。



・・・ドキドキ?

どうしたんだろ?




「ちょ、ちょっと!見つめないでよ!卑怯よ!」

「そうよ!そうよ!」


「え、えっと、ごめん」



この世界で黒髪と黒い瞳は、それだけで美貌とされるほどの価値があった。

つまり、真っ黒な髪と真っ黒な瞳のカイルは、絶世の美男子ということになる。

それを知らないカイルは、なぜ女子達が頬を赤くしているのか、本当に理解できないでいた。



「ちょっと・・・すごく・・・イケメンだからってね」

「うんうん!何でも許されると思ったら勘違いよ!」


「え、い、いけ?」


「そうよ!」

「それに・・・カイル君ってユグちゃんがいるんでしょ?」


「そう!それ!最低!」

「ユグちゃんというものがありながら、他の女の子にも手を出すなんて最低!」



ユグの名前を出し、カイルをバッシングする2人の女の子

マセているなと思いながらも、カイルが同じ歳ぐらいの時、現世の女の子はこんな感じだったことを思い出していた。




「あ、あの!!」


「ん?何よ?」

「言い訳するつもり?」



カイルが手をあげる。

すると、女子2人がギロリと睨んでくる。

そんな2人に怯えながらも、カイルは主張する。



「僕とユグは兄妹みたいなものだよ?」


「あー!カイル君、本当に鈍感ね!」


「信じられない」

「これだから男の子って・・・」


「しかも、マルルちゃんまでねー!」

「ねー!」

「本当に最低っ!」

「ねー!」



しかし、女子2人からのバッシングは止まることを知らない。

次々と話題となる論点を転がしながら、カイルをあらゆる角度からバッシングし、その気が済むまで止まることはないだろう。



「えー・・・」


女子2人にボコボコにされているカイル

そんなところに意気揚々とドシルがやってきた。



「へい!キューティー達!俺とお茶しないかーい!?」

「げっ!」

「うわっ!」


親指を立てながら堂々と立つドシル

その格好に、心底嫌そうな顔を浮かべる村の女の子達



「お茶なんて・・・こんな田舎でどうするの?」

「川の水でも飲ますつもり?」


女子達から質問が飛ぶと、ドシルはクルリと回転してターンを決める。

前髪をかきあげると、プルプルと瞼を震わせながら拙いウインクを放つ。


彼なりに決めポーズを放ち、キラーワードを言い放つ。



「俺とライドオンラブしないかい?」


「はぁ!?」

「さっきから意味が分からないんだけど?」


女子2人とドシル

そこには氷河期が訪れていた。

しかし、ドシルは媚びるけど、怯まない。



「俺は・・・君達の・・・ラブリーに・・・メロメロ・・・さ!」

「・・・」


ドシルの声は震えていた。

ガクガクと音が聞こえそうなぐらい上下に揺れる顎から言い放たれたのだから、ドシルでも女の子を口説くのは緊張するようだ。



・・・心臓に毛でも生えていると思ったけど。

空気も読めないし、馬鹿だけど、人の気持ちは持っているんだな。




「もう行きましょ」

「うん」


女子2人はパーっと逃げていく。

その背中をドシルが目元を震わせながら見つめている。

どうやら内心では来るものがあったようだ。



「・・・おかしいな」



ドシルはまるで何がいけないのか分からない様子で呟く。

深く抉られている心の傷

それを負った理由を必死に考えているようだ。



「おかしいよ」



カイルのジト目を受けてドシルは首を傾げる。



「うーん・・・これでやればバッチリだって師匠が言ってたんだけどな」

「お父さんが?」


「ああ、これでサラさんを口説いたって言ってたぞ!」

「・・・」





********




夕日が沈み、周囲を紅に覆う。

サラサラと流れる川のせせらぎを聴きながら、カイルとドシルは夕日を眺めていた。


黄昏れる。

その言葉を体現している2人


9歳の子供が行っていい光景ではないのかもしれない。




「なぁ・・・ドシル」


カイルは綺麗な夕日が沈み行くと、隣にいるドシルへ目を配る。

彼は、地面に棒切れでグルグルと円を描き続けていた。


そんな彼が面をあげると、疲れ切った表情をカイルへ見せる。



「ん?」


「引き分けにしないか?」

「お前にしては、珍しくいい事を言うな」


ドシルの言葉にカチンとくるカイル

しかし、言い争っても、また不毛な戦いを生むだけだ。



「どうだ?」

「そうだな。そうしよう」



カイルはスッと腕を出す。

すると、ドシルもコクリと頷いて腕を出した。


固く握られる2人の手のひら

それは休戦の証でもあった。



「カイル兄ぃ!!ご飯!!」


そんな2人にユグの声が響く。

カイルは背後を振り返ると、満面の笑みで両手を振っているユグの姿がそこにはあった。



「ユグ!!」



カイルへ笑顔を向けるユグ

落ち込んだ様子を見せていたが、今ではすっかり元気になっていた。

そんなユグの姿が嬉しくて、カイルも自然と大きく笑っていた。



しかし、そんなカイルとユグの姿が視界に入るや否や、ドシルの表情はすぐに険しくなる。

ギリギリと音が鳴りそうな勢いで、カイルの手を掴む自身の手に渾身の力を入れ始める。



「・・・」


カイルは自分の手を握り締めるドシルを睨む。

しかし、カイルの視線を受ければ受けるほど、ドシルは手に込める力を増していく。



「・・・なぁ、痛いんだけど?」

「ああ、痛くしてんだよ」



カイルはカチンと来てやり返す。

ギュッと思い切り、異世界で得たステータスを使って握り返す。

しかし、ドシルも負けじと握り返してきた。



「ぐぐぐぐぐぐ!!」

「おら!!うぉおお!!」



顔を真っ赤にしながら、互いに互いの手を握り潰そうとするカイルとドシル

そんな楽しそうな2人に、ユグは混ぜて欲しそうな表情で声をかける。



「・・・何してるの?」

「負けられない戦いだ!!」


ドシルがすぐに答える。

顔にその唾がかかり、嫌悪感を露わにするカイル



「おわっ!・・・絶対に泣かせてやる!」

「おもしれぇ!」


カイルはいよいよ両手を使い始める。

ドシルも負けじと、さらに上から手を被せる。



「ぐぎぎぎぎぎぎぎ!!!」

「がぁあああああ!!!」



声を荒げながら、互いの手を握り潰そうと張り合う2人

そんなカイルとドシルを前に、ユグはクスクスと笑い始める。


「ふふ・・・あはははは!」


「・・・ユグ?」

「ん?」



ユグが急に笑い始めたことで、キョトンとする2人

どちらも互いの腕に力を入れることを忘れている。



「カイル兄ぃとドシル、すごい仲良し!」


ユグは満面の笑みで両手をあげて言う。

カイルとドシルが仲良しな姿が嬉しいようだ。


しかし、カイルとドシルは互いが親友になりつつあることを認めない。

頻繁に喧嘩してしまうほど近い距離感でもなお、関係を保ちつつある。

これはもう親友以外の何物でもないだろう。


幼いユグの方が2人の関係を理解していた。

しかし、当の本人達には、そんな気は毛頭ない様子だ。



「は?」

「誰が?」


カイルとドシルは怪訝な顔を一斉にユグへと向ける。

すると、ユグは首を傾げた。



「ん?」



その毒気のないユグの表情に、カイルとドシルは何か言うのをやめ、互いに互いの顔を見つめる。

すっかりと戦う気が失せていた。

そもそも、ドッと疲れが込み上げている。



「・・・休戦したばかりだったな」

「ああ、そうだな」


「今日のところは引き分けだ。それで終いだ」

「おう、勝負は・・・明日だ。良いか?逃げんなよ?」


「はははは!面白い冗談だな」

「冗談じゃねぇ、心配してんだよ?お前がチビらないかどうかな」



バチバチと睨み合うカイルとドシル




ーーいずれ世界を大きく動かす事態が起こる。

そこで大きな役割を持つこととなる2人の幼き日の一幕であった。


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