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【不死の力で世界最強】永遠の魔法  作者: ららららら
序章 垣根の上に立つもの
16/92

ゴールドカード



・・・青い空、漂う白い雲

鼻腔を擽るのは土の湿った香り。

今日も天気は良く、キラキラと輝く太陽を見ていると、僕も元気が湧いてくる。


あー!

良い天気だな・・・

このまま寝てしまおうかな。


あはははははは!!


いや、待て、逃げちゃダメだ。

逃げちゃダメだ。

逃げちゃ・・・ダメだ。




「あれ、どうして僕は倒れているんだろう」



・・・前後の記憶が曖昧だ。

確か、ドシルと戦闘訓練で剣術対決をすることになった。

そこまでは覚えている。




「・・・」


空を見上げるカイルの視界に影が入る。

団子っ鼻のブサイク面の少年だ。

そこにはドシルのドヤ顔が映っていた。



「俺の勝ちだぜ、カイル」

「・・・もう一回だ」


カイルはスッと立ち上がると、地面に転がっている木剣を手に取る。

すると、ドシルはニカッと笑い、手にしていた木剣を構え直した。

もう一回受けて立つと無言で承諾していた。



「・・・舐めやがって」


そして、上段で剣を構えるドシルは完全に勝ち誇っている。



・・・年下だと思って手加減していたが、少しお灸を据えてやる必要がありそうだ。




まずは『迅速』を発動させる。

周囲の風に揺られている作物の動きがゆっくりに見えてくる。

これならドシルも僕の動きを追えないだろう。


卑怯?

ふふ、ライオンはウサギを狩るのにも全力を出すのさ!





『迅速』の敏捷上昇効果によって、カイルの動体視力は遥かに強化されていた。

カイルはササっとドシルの近くへ寄り、その手から剣を叩き落とそうと、彼の手首を狙って剣を振るう。

しかし、ドシルは流れる動作で剣を振るう。

そのクネクネとした剣筋によって、カイルの手から木剣が宙を舞って離れていく。



「あれ?」


そして、そのまま剣を中段で構え直すドシル

その動きはしっかりと目で追えているのにも関わらず、体の方が反応しない。

気付けば、カイルの腹部にドシルの木剣の先が突き当てられていた。



「うげ」


カイルは思わず尻餅をつく。

みぞおちを木剣で貫かれた衝撃で息が詰まる。


そんなカイルを勝ち誇った目で見下ろすのはドシルだ。



「うっしゃ!俺の勝ち!!けけけけけ!!」

「・・・嘘だろ」



カイルは前世でも剣道は少しかじっていた。

そして、『迅速』を発動させることまでしたのにも関わらず、カイルは尻を地面に当てていた。

完全敗北である。



「小学生・・・にまで・・・僕は・・・負けるのか?」


「おいおい!カイル、そんなに落ち込むんじゃねーぞ!」

「・・・お父さん」


カイルは背後を振り返る。

そこにはニカッと笑うケビンの姿があった。



「ドシルはセンスの塊だからな!」

「・・・慰めになってないですよ」



「師匠っ!これで俺が兄弟子で良いですよね!?」

「おう!ドシル、やるじゃねーか!」

「よっしゃぁああ!!」


ドシルはケビンに認められると、大きくガッツポーズしていた。

物凄く嬉しそうに両手を交互に振り上げながらジャンプしていた。



・・・兄弟子とかはどうでも良いが、素直に子供相手に負けてしまったことが切ない。



「・・・はぁ」

「おいおい!落ち込むなって!ドシルは剣の才能があるからな。正直、剣だけで戦えば俺も勝てるか分からねぇ」


「そうなんですか?」

「おう、伊達にあの森で生き残ってはいなかったってことだな」



カイルがケビンと話していると、ドシルが剣先を向けながら宣言を始める。



「おい!カイル!俺の方が上だからな!良いな!?」

「何で、そんなに僕を敵視するんだ?」

「っ!?な、生意気だからだよ!お前が!!」



ドシルは少し顔を赤くしながら言う。

カイルを拒絶したいわけじゃなさそうなのに、敵視してくる。

その理由がカイルには分からない。

しかし、理由は単純だ。


ドシルのガキ大将としてのプライドを守るためだ。

カイルは何だかんだで大人達から一目置かれ始めていた。

それがドシルにとっては看過できない問題であった。


ドシルはカイルに恩を感じているし、友情も抱いている。

しかし、それとこれとは別なのだろう。




「・・・カイル」


ケビンはため息混じりにカイルの名を呟く。

大人のケビンは、察したドシルの心境をどのようにカイルへ伝えようか悩んでいるようだ。

しかし、言葉にしなければ何も伝わらない。



・・・そんな反応をされても、僕には何が何だか。



カイルはケビンの反応が気になっていた。

しかし、そんな彼にドシルは叫ぶ。



「とにかくだ!俺の方が上だからな!良いな!」

「ああ、分かったよ。負けは負けだからな!」

「おう!分かれば良い!!」


両手を前で組みながら嬉しそうに鼻息を鳴らすドシル



・・・ま、満足そうなら、それで良いや。



「カイルも動きは悪くなかったぞ。動きの緩急をつけるタイミングは微妙だったけど、その緩急の付け方は良かったぜ」

「・・・ありがとうございます」


そう言って手を差し伸べるケビン

カイルはその手を掴むと、スッと立ち上がる。



・・・『迅速』は一気に敏捷が上がるから、緩急差はしっかりとしているのだろう。

しかし、そのタイミングが微妙だったなら、そこはスキルではなく、僕の判断が甘いのだ。

カードの使い方、少し研究しないとダメかもな。

装備カードとか意味分からんし。




「・・・もっと練習します」

「そうだな。お前には、将来、村を守る男になってほしい」


ケビンはニカっと太陽のような笑みを見せていた。

そして、カイルの肩へと手を乗せる。

期待を一身に背負っているカイルを見て、ドシルは「ぐぬぬぬぬ」と唸り声を響かせていた。





*********




授業も終わり、広場にいた子供たちも散り散りになっていた。




「さて、明るい内に、夕飯でも調達するか」


ケビンは笑いながら言う。



・・・確かに、気付けば日が沈みそうだ。

みんな作業をやめて休憩しているな。



「俺も腹が減ってきた」



・・・ドシルもどうやらペコペコの様子だ。

空腹を感じないから、ここにきてから時間の感覚が曖昧な時がある。



「何を食べますか?」

「せっかくだから、釣りでもするか?」


ケビンが提案する。

すると、ドシルがカイルへ指を向けて叫ぶ。



「カイル、釣りでも勝負だ!」

「・・・まだやるのか?」


カイルはドシルの敵意に少し疲れを感じていた。



ーーカイルがため息を吐こうとする。

すると、足に何かが纏わりつくのを感じる。

見下ろすと、そこには緑色の髪の美少女がいた。



「カイル兄ぃ!!ユグも一緒に遊ぶ!!」

「ユグ・・・!」


ユグの登場だ。

カイルの足に纏わりつくのが好きらしい。

そんな彼女の出現にドシルは顔を真っ赤にしていた。




・・・どうしたんだ?

熱でもあるのか?



「そうだね。じゃぁ・・・一緒にお魚さんを獲りに行こうか」

「うん!!」


カイルがユグの頭を撫でながら言うと、口を挟んでくるのはドシルだ。



「お、おい!ユグ、俺がカイルと遊んでんだぞ!」

「・・・べー!!」


ユグはドシルに舌を出す。

すると、ドシルは予想外に、怒るのではなく目を潤わせていた。



・・・あれ、てっきりユグちゃんにも喧嘩を吹っかけると思ったけど。



「ぐぅ・・・」

「ドシル嫌い!!」



その言葉で、ドシルは口から魂の抜けていくような表情を見せる。



・・・ははーん!

どうやら、ドシルはユグちゃんのことが好きなようだ。

同年代だったら、ま、ユグちゃんに惚れてしまうのも分かる。



「カイル兄ぃをいじめるから嫌いっ!」



ユグは"弱いもの"虐めするドシルを嫌いと告げる。

彼女が告げる"弱いもの"はカイルのことであった。




・・・きっと、僕も口から魂が抜けていくような顔をしていただろう。





ーー村には小さい川が幾つかある。

深いところでなければ、ユグちゃんやドシルでも足をつけられるぐらいの深さであり、川の勢いが強くなければ、2人が溺れてしまう心配も少ない。


この川には魚が泳いでおり、人の顔がついた魚が獲れる。

魔物の一種ではあるが、脅威性はなく、子供が相手にしても危険はない。


水飛沫を上げながら、一生懸命、ユグちゃんが魚を獲ろうとしていた。

負けじとドシルも水の中へ手を突っ込んでは、唸り声を轟かせ、再び水の中へと手を突っ込んでいる。


そんな2人を僕は眺めていた。

僕の隣には、人の顔をした小さい魚が大漁に泳いでいる木の桶がある。




「くそっ!カイル!!何でそんなに簡単に獲れんだよ!!」

「すぐにドシルも獲れるようになるよ」

「くそぉおおおお!!」



・・・スキル『迅速』は魚を獲るのにも役に立つ。

魚からすれば、気付いた時には僕の腕に抱えられているのだから。



「カイル兄ぃ!獲れた!!」


ユグは両手で魚を抱えながら飛び跳ねていた。

物凄く嬉しそうにしている。


「おおお!すごい!やったね!」

「うん!」


カイルがユグを褒めると、彼女の笑顔はより明るくなっていく。



「があああああ!!見てろ!!すぐに大漁だ!!」



カイルの傍にある桶へと魚を入れるユグ

そして、大声で叫ぶことでユグの注目を浴びようとするドシル



・・・頑張れ、ドシル



「ねぇ、カイル兄ぃ?」

「ん?」


ユグはどこかを指差した。

川上の方向だ。



「・・・あれ、何だろ?」


ユグがキョトンと川の上に浮いている物体を指差す。

すると、川の向こうから金色の板のようなものが流れてきていた。



「何だろ?ちょっと、拾ってくるね」


カイルはスッと立ち上がると、川の中へと入り、流れてくる物体を手に取る。

クレジットカードぐらいの大きさと厚さの金色の物体であった。




・・・表面はツルツルとしているな。

金属製か?


指で叩いてみると金属のような硬さを感じる。

だけど、物凄く軽い。



「何だろ?これ?」

「おい、何かあったのか?」


ドシルが興味津々な表情でカイルの手元を見る。

その手にある金色のカードを見ると、ドシルもキョトンとしていた。



「すごく綺麗だね」

「うん、確かに・・・」


金色のカードの表面は角度によって輝きを変えている。

彫る加工が施されたトレーディングカードのような輝き方だ。



3人が拾った金色のカードを眺めていると、背後からケビンの声がした。



「おい、どうした?」

「あ、お父さん、これが流れてきました」


ケビンなら正体が分かるかもしれないと、カイルは手にした金色のカードを見せる。

すると、ケビンは目を細めて怪訝な顔でカードを見つめる。



「・・・何だこれ?やけに綺麗だな」


どうやらケビンも、この手にあるカードの正体はわからないようだ。



「売れそうですかね?」


カイルはそう言いながら、スッとケビンへカードを渡す。

すると、ケビンはカイルと同じように、表面の感触を確かめたり、指で叩いて素材を確認していた。

そして、同じように首を傾げると、カイルへカードを返す。



「んー・・・どうかな?実用性はなさそうだけどな」



珍しいし、綺麗だから売れるかもしれない。

そんな守銭奴な考えが浮かんだことは許してほしい。

毎日、芋虫や人面魚を口にしていれば、金に執着が芽生えてしまうものだ。

そんな風にカイルは考えながら、ケビンからカードを受け取る。



「カイルが拾ったんだし、貰えば?」


ドシルが両手を後頭部で組みながら呑気そうに告げる。

何も考えていなさそうだ。



「ユグ、お腹空いた!」

「そうだね。ご飯にしようか」



カイルはポケットへカードを入れると、ケビンが起こしてくれた焚き木へ向かって歩き始めた。




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