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【不死の力で世界最強】永遠の魔法  作者: ららららら
序章 垣根の上に立つもの
15/92

平和


サラと楽しそうに昼御飯を作っているユグの姿がある。

外で焚き木を囲いながら、芋虫の下処理を一緒にやっているようだ。

サラと一緒にいるユグは明るい笑顔を見せてくれるようになっていた。




・・・あれからユグちゃんは村を抜け出さなくなった。

それに、結構、笑ってくれる。


過去に何があったのかは聞けていないし、気にはなるけれど、ユグちゃんが話をしたくなった時に、聞いてあげるのが良いと思った。

昔のことなんて、そこまで重要ではないかもしれない。





「・・・おい!カイル!!」


そんな光景を見ながら、昼御飯のために、地中を掘って芋虫を探しているカイル

彼の背後からドシルの声が聞こえた。



「どうした?」

「決闘だ!」


ドシルの手に木剣が2本あった。

そのうちの一本の持つ手をカイルへと向けてくる。

あまりにも突然の申し出に、カイルは言葉を失っていた。



「・・・」

「おい!決闘だ!!」


フンっと鼻息を鳴らすドシルへ、カイルはため息混じりに尋ねる。


「・・・何で?」

「お前に勝つ!」


「いや、何で決闘するんだ?」

「何でもいい!俺がパイパイだってことを教えてやる!」

「・・・パイパイ?」


「そうだ!俺はパイパイだから偉いんだぞ!」

「パイパイって先輩のことか?」

「違う!パイパイはパイパイだ!!」


「・・・パイパイってなんだ?」

「とにかく偉いんだ!!お父さんがお母さんに毎日言っているんだからな!!」


「お父さんがお母さんに?」

「おう!裸で取っ組み合いしながら言ってたぞ!!」


ドシルは腰に手を当てながら自慢気に告げる。

カイルはスッと立ち上がると、ドシルの肩を叩きながら言う。



「・・・なぁ、ドシル」

「何だ?」


「良かったな」

「ん!?」


「そのうち、弟か妹ができるかもな」

「本当かっ!?」


カイルがそう告げると、ドシルは目をキラキラとさせて聞き返す。

そんなドシルの目をしっかりと見つめて、カイルはコクリと頷いた。



「おっしゃーー!!」


ドシルはそう言って村の奥へと走り去っていった。



・・・どうやら家へと帰ったようだ。

この後どうなるかは、あの家庭の問題だ。




「あら、ドシルくん来てたの?」

「カイル兄ぃ!ごはん!!ごはん!!」


カイルの足にギュッと抱きついてくる緑色の物体

その頭を撫でながら、カイルはサラへ言う。



「うん、帰っちゃったけどね」

「そう、残念ね」



・・・僕とドシルが友達だと思っているようだ。

高校生と小学生が同列の友達だと思われるのは精神が崩壊しそうだけど。



「ね、ね、今日のお昼ご飯なんだと思うー?」

「ん?うーん・・・この臭いは・・・」


ユグが笑顔でカイルへ言う。

言われて鼻を鳴らしてみると、香ばしい匂いが奥から漂ってくる。



・・・これは芋虫の焼けた香りだ。

そもそも、2人が何を料理しているのか見ていたから、献立は知っているんだけど。



「・・・なんだろう、分からないなぁ」

「ワームンだよ!!」


ユグは嬉しそうに言う。

そんな彼女へ、カイルは引き攣った笑顔を見せていた。



・・・ワームン

その名の通り、今日のお昼ご飯は芋虫だ。

味も不味い。

見た目はとにかく最悪・・・



「わ、わーい!嬉しいな・・・」

「うん!ユグもワームン大好き!!」



「・・・」



カイルは両手をあげて喜ぶユグに引き攣った笑顔を見せる。

家族に加わった妹の味覚の将来が心配である。




「あ、カイル!午後から広場で授業があるから、ちゃんと参加してね」


サラは思い出したように告げる。

どこか宿題をやったかどうか確認する母親のような表情でカイルに伝えていた。




「授業・・・?」





*************




村の中央にある広場

切り抜いた丸太がズラリと円を描くように並べられており、そこには村の子供たちが座っていた。

その中には、カイルとドシルの姿もある。



カイルは呆然と景色の奥に聳える山々を眺めている。

すると、隣から青い髪の女の子が話しかけてきた。



「カイル君!」


女の子は頬を微かに赤くしながらカイルに声をかける。

どこかモジモジとしており、緊張しているような印象だ。



「・・・こんにちは」


カイルはぎこちない笑顔で対応する。

すると、その青い髪の女の子は黄色い悲鳴をあげながら広場の奥にいる女の子の集まりへと向かって駆けていく。


「きゃー!」



・・・何なんだ?



「おー!カイル・・・嫌われてんな!」

「うるさいよ、もう」


カイルへ楽しそうな視線を向けるドシル

カイルはドシルの腰のあたりを肘で突いて邪険にしていると、



「かかかかかか!!わりぃ、待たせたな!!」


ケビンが豪快に笑いながら広場に姿を見せる。

すると、子供達は椅子に座ったまま、一斉に騒ぎ始めた。



「師匠!もう大丈夫なんですか!?」


「ししょー!!魔法!魔法!魔法!」

「師匠!!ドシル君がまた乱暴するようになりましたー!」

「おま!勝手なこと言うんじゃねーよ!師匠!こいつ!嘘付いてます!!」



ざわざわとしている広場でカイルはしみじみと周囲を見渡している。



「これが授業か・・・」


カイルは小学生の時のことを思い出していた。

周囲は騒めいているのだが、その場の空気に馴染めず、1人でポツンとしていた。


今も、周りの温度感についていけず、1人だけ静かに口を閉じていた。

そのことをしみじみと思い出していた。




「おーら!静粛に!!しーずーまーれ!!」


一斉に主張を始める子供達へ怒鳴るケビン

すると、シンっと広場には静寂が訪れていた。



「おーし!!それじゃ、今日から、戦闘訓練を始めます」


ケビンが言い終えるとニカッと笑う。

すると、ドシルがジャンプしながら立ち上がりガッツポーズする。



「おー!!いよいよだぜ!」


立ち上がったドシルへ指を差しながらケビンが言う。


「おーい!ドシル、遊びじゃねーんだぞ!」

「はーい!!」


ドシルが元気よく返事をして着座すると、ケビンは広場を見渡す。

1人1人に指を当てて人数を数えると、最終的に偶数であったことにしたり顔をして頷く。



「さて、男女に分かれてペアを組むか」

「師匠!」


ケビンが男の子だけでなく女の子にも戦闘訓練を施すことを告げていた。

すると、ドシルがピンっと手をあげる。



「ん?ドシル、どうした?」


「女にも戦わせるんですか!?」

「ああ、当たり前だ!」


ケビンが勢いよく頷くと、今度はドシルの隣にいる男の子が手をあげる。



「女を守るのは男の仕事だって父ちゃんが言ってました!」

「おう、その通りだ」


ケビンがこれまた勢いよく頷くと、今度は1人の女の子が手をあげる。

先ほど、カイルに声をかけるだけで逃げて行った青い髪の女の子だ。

チラチラとカイルの方を見ているのはどうしてだろうか。



「それなら、私が戦闘訓練に参加する意味あるんですか?」

「おう、あるぜ」


ケビンがさらに勢いよく頷くと、今度はもう1人の女の子が手をあげる。

青い女の子と仲が良さそうな茶色い髪の女の子だ。



「矛盾してませんかー?」

「おう、矛盾なんて難しい言葉、お前、よく知ってんな!」



そして、ドシルへとターンが戻る。



「師匠!どうしてですか!?男の俺らが守れば良いじゃないですか!?」


「理由は簡単だ。女の近くにいつも男がいるとは限らない」


「っ!?」

「それは・・・そうですが」


「別に守ってもらわなくてもいいよねー」

「ねぇー」

「でも、カイル君に守ってほしいな・・・」



広場が騒めくと、ケビンは大声で叫ぶ。


「よく聞け!!お前ら!!」


「・・・」



広場が静かになると、ケビンは怖い目をしながら子供達を見渡す。




「良いか?仮に、俺が盗賊ならよ・・・」


手を不気味にウネウネと動かすケビン

男の子はワクワクした様子で目を煌かせているが、女性陣は微妙な反応だ。



「・・・獲物が1人でいる時を狙う。良いか?女が襲われる時、だいたいは1人でいるケースが多い。そりゃそうだ。1人でいる奴を狙うからな」

「ゴクリ・・・」


「つまりだ。盗賊、あとは賢い魔物だな。そんなのに襲われた時に、覚えがあるかどうかで生死に大きく影響すんだ」



ケビンが真剣な眼差しを向ける。

その声色にも、元冒険者であるがゆえの重みもあった。

空気の変化を感じている子供達は、騒ぐのをやめ、ケビンの言葉に耳を傾ける。



「女を守るのは男の仕事だ。だからって、女が戦えなくて良いことにはならねー。か弱いから、苦手だから、殺されても構わない。そんなの俺は許さねぇ、嫌でも生き延びる術を叩き込んでやる」



ケビンの言葉には有無を言わさない説得力があった。

ここは異世界だ。


魔物もいれば、盗賊もいる。

魔物や盗賊に村民を殺されたり、拐われたりという事件が多々あった。


今は、フェンリルのおかげで魔物の心配はほとんど必要ない。

しかし、盗賊の危険性はまだまだ残されている。

女の子でも戦い方を知っていれば、相手を倒せなくても、逃げる余裕ぐらいは生まれるかもしれない。

そのための訓練だ。





「おーし!お前ら、いい面構えだ!!かかかかかか!!」


全員が固唾を飲んでいると、その様子を笑いながら眺めるケビン

豪快な笑い声をあげると、続けて、ペアを口にしていく。



「よし!んじゃ・・・カイルとドシル」


ケビンが第一陣の組み合わせを告げる。

カイルは顔を歪め、ドシルは気合の入った表情を見せる。


「げっ!!」

「おっしゃ!!」


「おい!カイル!今日こそ、決着をつけてやるからな!」

「・・・やれやれ」


「お前のそのスカした態度が気に入らね!!」

「お前こそ、何でそんなに突っかかってくんだ?」

「うるせー!」


カイルとドシルが言い合いになっていると、ケビンが間に割って入ってくる。


「お!男と男の戦いだな!?」


「・・・煽らないでくださいよ」

「そうです!師匠!俺とカイル、どっちが上か決着をつけます!」


ドシルの言葉にうんうんと頷くケビン

カイルはため息を吐くほかなかった。



「よし!そうだな・・・いきなり魔法は危険だから・・・剣術での勝負にするか!」

「おーし!!」

「剣術ですか、そうですか」


カイルは満更でもない様子を見せると、ケビンがニヤリと笑う。


「お、カイル、少し自信ありそうじゃねーか!?」

「あ、いえ、そんなこともないですよ」



・・・剣道は少しやってたんだよな。

久しぶりだけど、ま、ドシルなんかには負けないだろう。




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