世界最強にたる契約者
デルガビッズは怒りで燃え上がる。
カイルと同じぐらいであった人間のシルエットは、一気に膨れ上がると、ラドンよりも大きくなる。
そのままグングンと膨らんでいき、やがてモビルスーツぐらいの大きさに達すると、カイルを見下ろして言う。
「その人間の中にいる精霊よ。朕の声が聞こえておらぬわけではあるまい!その人間は朕がアニマとする。お主は邪魔だ!一刻も早く立ち退くのであれば、名乗りをあげぬ無礼は不問としよう!これは最後通告であるぞ!!」
・・・どうやら、名乗りをあげろと繰り返していたのは、僕に対してではないようだ。
ん?精霊?
僕の中に?
カイルは自分の中に精霊を宿した記憶なんてない。
それらしき気配、例えば、内なる声的なものを聴いた記憶もない。
「・・・」
案の定、カイルの中にいるかもしれない精霊は反応を示さない。
デルガビッズとカイルは睨み合うだけであり、周囲には静けさが支配していた。
・・・やっぱり、精霊なんていないよね?
いるなら答えてくれ!
何か、あいつが可哀想だぞ。
カイルがデルガビッズが無視されているように感じた。
どこか、そんなデルガビッズに同情してしまうカイル
自分が無視されるような人生を送ってきたからだろうか。
虚空に響くデルガビッズの声に、彼はどこか同情していた。
「よかろう・・・朕の炎で焼き尽くしてくれよう!」
問いかけたのに、答えが返って来なくて、完全に無視されたと激昂するデルガビッズ
上空から奴の声が響くと同時に、その巨大化した炎のシルエットはグルグルと渦を描いた炎へと姿を変貌させる。
その渦はだんだんと細くなり、先端が針のように細くなる。
「っ!?」
カイルがハッとした瞬間
鋭く細くなったデルガビッズは、そのままカイルへ突き刺すように迫ってくる。
「・・・っ!!」
圧倒的な速度だ。
『迅速』を発動して回避する。
他のスキルで防御する。
そんな選択肢すら浮かばないほどの速度で、カイルは胸を黒い炎に貫かれていた。
「ご・・・え・・・」
・・・全身が熱い!!
ぐ…あああああああ!!!
カイルの体は真っ黒な炎に包まれる。
両手で頭を抱えながら、腰で上半身を前後に揺さぶる。
苦痛に悶え苦しみ、業火で叫び声すら放てない。
「・・・!!!」
・・・熱いっ!!苦しいっ!!息…がっ!!
「ははははははは!!どこだっ!!隠れていないで出てこいっ!!もう後悔しても遅いぞっ!!」
デルガビッズの声が響く。
どうやら、カイルの体の中で、彼に眠る精霊を探しているようだ。
・・・熱い
熱い 熱い熱い
熱い熱い 熱い
熱い 熱い熱い
熱い熱い熱い
熱い熱い熱い
熱い熱い 熱い
熱い 熱い熱い
熱い熱い熱い
熱い熱い熱い
熱い 熱い
熱い 熱い熱い
熱い熱い 熱い
熱い 熱い熱い
熱い熱い熱い
熱い熱い熱い
熱い熱い 熱い
熱い 熱い熱い
熱い熱い熱い
熱い熱い熱い
熱い 熱い熱い
カイルの体の中を炎が暴れる。
想像を絶するような苦しみであり、体の中で内臓が爆発しているような感覚である。
さらに、呼吸ができない苦しみが続き、カイルの脳の容量は痛みが全てを埋めていた。
やがて、彼を包み込む炎は、肉体だけでなくその魂までも焦がして行く。
・・・まだ、死ぬわけ、には
いか、ない。
僕が、悪い、んだから!
ーーーインフォメーションーーー
・『不老不死』が発動しました。
・『超再生』が発動しました。
ーーーーーーーーーーーーーーー
カイルを包む黒い炎はパッと晴れる。
そこには無傷なままのカイルが立っていた。
次に、まるで自分を吊るしていた糸がバサリと切られるようにして、彼は前のめりにバタリと倒れる。
ーーーーーリザルトーーーーー
・デルガビッズを討伐しました。
・ゴッドエディション『地獄の炎風主』を入手しました。
・パック開放結果
NEW!『黒炎の主』
レアリティ:ユニーク
レベル:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
タイプ:装備
属性:火
発動条件:なし
効果:火属性魔法を獄・炎属性へ変質できる。
NEW!『黒風の主』
レアリティ:ユニーク
レベル:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
タイプ:装備
属性:風
発動条件:なし
効果:風属性魔法を獄・風属性へ変質できる。
NEW!『魔力体』
レアリティ:スーパーレア
レベル:☆☆☆☆☆☆☆
タイプ:装備
属性:なし
発動条件:なし
効果:自身の体を魔力へ変質できる。
NEW!『炎の化身』
レアリティ:レジェンド
レベル:☆☆☆☆☆☆☆☆
タイプ:装備
属性:火
発動条件:なし
効果:火属性攻撃を吸収する。
NEW!『風の在処』
レアリティ:レジェンド
レベル:☆☆☆☆☆☆☆☆
タイプ:装備
属性:風
発動条件:なし
効果:風属性攻撃を吸収する。
NEW!『眷属契約』
レアリティ:ユニーク
レベル:☆☆☆☆☆☆☆
タイプ:常時
効果:生命体を服従させることができる。服従させる生命体のエネルギー強度に応じて、必要な魔力は変動する。
NEW!『紅の証人』
レアリティ:レジェンド
レベル:⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
タイプ:装備
効果:以下2点
①☆5以下の火属性魔法の発動条件を一部無視できる。
②☆2以下の火属性魔法を発動及びリリースした後、墓地から同名のカードを手札へ加えることができる。
NEW!『焔の主人』
レアリティ:レジェンド
レベル:⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
タイプ:装備
効果:以下3点
①通常ドローの代わりに、デッキから任意の火属性カードを2枚まで手札へ加える。
②火属性攻撃を受けた際に、そのダメージを無効にする。
③氷属性ダメージを受けた際に、そのダメージを半減する。さらに、デッキから任意の火属性魔法カードを1枚まで手札へ加える。この効果は通常ドローの間、1回だけ使用できる。
NEW!『碧の証人』
レアリティ:レジェンド
レベル:⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
タイプ:装備
効果:以下2点
①通常ドローまでの時間を半分にする。
②⭐︎5以下の風属性魔法の発動条件を無視できる。
NEW!『風の王』
レアリティ:レジェンド
レベル:⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
タイプ:装備
効果:以下3点
①⭐︎2以下の風属性魔法を発動及びリリースした後、墓地から同名のカードを手札へ加えることができる。
②風属性攻撃を受けた際に、デッキからカードを2枚ドローする。その後、手札からカードを1枚墓地へ捨てる。
③土属性攻撃の発動と効果を無効にすることができる。この効果は通常ドローの間、1回だけ発動できる。
・入手トロフィー
「デルガビッズ討伐」・・・地獄の炎風主「デルガビッズ」の討伐
「神殺し」・・・デウス級の精霊を討伐
・入手経験値
100,000
⭐︎⭐︎⭐︎レベルアップ⭐︎⭐︎⭐︎
レベル4→レベル21
・入手ゴールド
1,000
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ーーー契約書ーーー
・ステータス
名前:カイル
性別:男
年齢:16
レベル:21
力:44(+1)
魔力:おG
体力:ー
敏捷:31(+1)
手札:5枚
装備:1枚
デッキ:40枚
ドロー速度:30秒
・デッキ 15/40
『黒狼牙』×3
『黒狼爪』×4
『迅速』×4
『黒狼心』
『ウインド・カッター』
『森の黒き狼』
・装備 0/1
なし
・常時発動
『夜目』
『力+1』
『敏捷+1』
『眷属契約』
・????
『????』
『???』
ーーーーーーーーーーー
バタリと倒れているカイルの指がピクピクと動く。
すると、彼の目はカッと開き、覚醒と同時に勢いよく立ち上がる。
「ここは・・・?」
カイルは立ち上がった瞬間、その顔色が真っ青に染まる。
そして、両手で口を押さえて、吐き気を堪えようとする。
「おえ・・・うえ・・・」
堪えられない吐き気は、彼の体から胃の中身を吐き出させる。
・・・確か、デルガビッズにやられて、それから…
「う・・・これは?」
カイルは胃の中身を吐き終えると、不快感がパッと晴れていき、思考がクリアになる。
そして、彼は目の前に表示されている「契約書」を見つめてギョッとする。
「っ!?デルガビッズを討伐・・・?」
驚愕を露わにしているカイル
しかし、彼がとある視線に気付くと、ハッとしてその方向を見る。
「・・・なぜ、なぜだ」
家のように大きかったラドンが、車ぐらいのサイズに縮んでいる
どうやら、デルガビッズを倒したことにより、その眷属であるラドンにも影響が出ているようだ。
もはや普通のブラックウルフと化したラドンは、カイル相手にですら勝ち目のない存在となっていた。
「デルガビッズは・・・主は・・・どこに?」
小さくなったラドンはカイルへ問いかける。
カイルは一瞬だけ目を細めると、軽く息を吐いてから伝える。
「・・・詳しくは分からない」
「分からない?・・・ふざけるな!人間!何をした!?」
ラドンが再びカイルへと問いかける。
カイルは即答することなく、2人の間には少しの間だけ静寂が訪れる。
「・・・」
カイルは再び息を吐くと、淡々と、一言だけ伝える。
「多分だけど、さっきの人、もう死んでるよ」
カイルが切り捨てるように告げる。
人間である彼の言葉に説得力など皆無だ、しかし、それでも、ラドンはフルフルと震える。
「そんな・・・馬鹿な・・・っ!?」
続いてハッとした様子で叫ぶ。
「・・・お待ちください!!わ、我には分かりますぞ!お戯れはおやめ下さい!!」
「残念ながら僕はデルガビッズじゃない。カイルだ」
デルガビッズが冗談か何かでラドンをからかおうとしている。
ラドンはそう考えたようだ。
藁にも縋る思いなのだろう。
希望的幻想だと本当は分かっていて、それでもなお、縋り付かずにはいられない。
デルガビッズは、そんな希望をラドンへ抱かせていたのだろう。
「・・・これは直感だけど、お前には分かるんじゃないか?」
カイルがそう告げると、ラドンは諦めたように顔を伏せる。
家のように大きかったラドンだが、元の体の大きさに戻っている。
つまり、力の供給元であるデルガビッズに何かが生じたと考えるのが妥当だ。
デルガビッズから力を得ているラドン
お前の方がデルガビッズに何が起きたのかを理解できるのではないかとのカイルの問いかけに対して、
ラドンはペタリと腹を地面へつけて倒れ込む。
平伏しているというよりも、降伏を表しているような印象だ。
「お願いがある。我の命だけで容赦いただきたい」
「・・・興味ないよ」
「興味ない?」
カイルはラドンの申し出を振り払う。
・・・ブラックウルフに報復したいわけじゃない。
だから、今更、ラドンの命に興味はない。
「ああ、これでお開きにしてくれるのなら、それで構わないと思っている」
カイルはそう言いながら、スタスタとケビンの元まで歩いていく。
そして、ラドンへ振り返ると、再び言葉を発した。
「連れて帰るけど、それを邪魔するなら・・・僕も争うしかないよ」
カイルは目の前のケビンと、少し離れたところで倒れている少女を指し示す。
すると、ラドンは言う。
「我に、貴方の願いを妨げる意思はございません。是非を問われずとも、お好きなようになさってください」
ラドンの物言いで、一連の戦いに終止符が打たれたことを確認する。
すでにカイルには精神的に腹を見せており、争う意図も、抗う意図もなく、全面降伏の姿勢だ。
そんな殊勝な態度に、カイルの中から警戒心が薄れ、どこか罪悪感が芽生えてきた。
「仲間のことは・・・ごめん」
「・・・生死を賭けた戦いの結果でございます。忘れることは・・・できません。しかし、恨言をぶつけるつもりはありません。復讐する気などもっての外、どうかお気になさらず」
「そうか・・・」
カイルはラドンから視線を逸らして、ケビンの容体を確認する。
すると、彼は安堵したようにホッとしていた。
カイルの目の前には、豪快にイビキをかきはじめたケビンがいる。
「やれやれ・・・」
カイルはどこか嬉しそうに肩をすくめると、続けて倒れている緑色の髪の少女の容体を確認する。
・・・全身が泥まみれになっているけど、怪我はなさそうだな。
カイルが見つめる少女
彼女は綺麗な容姿をしており、将来は多くの男性を泣かせそうな美女に育ちそうである。
・・・この少女も、ケビンさんと同じように、意識を失っているだけで脈も安定している。
カイルは2人が無事なことにホッと安堵しつつ、疑問が脳裏に過ぎる。
しかし、その疑問には、ラドンがすぐに答えをくれる。
「・・・2人は昏睡の魔法にかかっているだけです。夜も明ける頃には、自然と目を覚ますでしょう」
「殺さなかったんだな」
「ええ、その男性の人間は冒険者であると判断しました。迂闊に殺してしまうことで、人間から報復される危険性があったため、生死の判断を先送りにしていました」
「・・・なるほど」
カイルは2人が生きていればそれで良い。
ラドンの話に適度に頷く。
「・・・部下のブラックウルフには伝達いたします。襲撃しないようにと伝えます。森で仲間を見つけても、命だけは見逃していただけると幸いです」
「心配性だな。これ以上は戦うつもりはないよ。安心して」
「ありがとうございます・・・」
ラドンは抵抗の意思を示さず。
完全に負けを認めていた。
完全に牙が抜け落ちている。
そんな雰囲気である。
・・・そもそも、ブラックウルフのテリトリーへ勝手に入ったのはこちらの方だ。
報復なんて考えもしない。
僕自身も危険な目にはあったけれど、結果的に誰も死んでいないしな。
それよりも、今のラドンの様子は使える。
この世界のことを知れるチャンスかもしれない。
「・・・ねぇ、少し話をしたいんだけど、良いかな?」
「話・・・ですか?」