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【不死の力で世界最強】永遠の魔法  作者: ららららら
序章 垣根の上に立つもの
10/92

ガルガル


周囲を黒い炎が壁のようになって燃え上がっていた。

メラメラと揺らめいている炎には、どこか現実ではない、まるで別次元のゆらめきを感じる。


黒い炎が広がる中心には、家のように大きなブラックウルフがいた。

虚空へ向かって平伏するように伏せの姿勢をしている。



・・・何だ、あのデカいの




カイルが巨大なブラックウルフを視認する。

すると、彼の脳裏にメロディが響く。



ーーピローン♪




ーーー手札ーーー

『森の黒き狼』

『迅速』

『迅速』

『黒狼心』

『ウインド・カッター』


ーーーーーーーー




・・・手札が出てきた。

でも、あれは規格外だぞ


それよりも…ケビンさんは…どこかにいるのかな?




カイルはブラックウルフに気付くと周囲を見渡す。

そして、ギョッとした表情で叫んでしまう。



「ケビンさん!?」



大きなブラックウルフの後ろには、倒れているケビンがいた。

火傷を負ったような痕があり、怪我をしている様子である。

カイルからは生きているのか死んでいるのかが分からない状況だ。

そして、叫んだケビンに、大きなブラックウルフが振り返る。



「むぅ・・・なぜ、なぜ生きている?」


大きなブラックウルフはスッと体を起こすと、見上げるほどの巨体を露わにする。

そして、カイルをギロリと見下ろす。

他のブラックウルフとは異なり、威厳すら感じる面持ちだ。


しかし、カイルを見つめる瞳には、どこか怯えのようなものもある。




「あの時、確かに死んでいたはずだ。同胞に食い殺されてもいただろう」


問いかけるように言葉を投げるラドン

しかし、カイルはまともに対応する気などない。



ーーーインフォメーションーーー

・スキル『迅速』を発動しました。



ーーーーーーーーーーーーーーー




ーー彼は不意を狙って迅速を発動する。



時間の流れが遅く感じる世界で、大きなブラックウルフの背後を狙うカイル

しかし、ゆっくりと動く世界の中で、目の前の大きなブラックウルフの動き遅くならない。




・・・ぐっ!?



『迅速』を発動してもなお、カイルの目には止まらなぬ速度、その圧倒的な速さでブラックウルフの前足はカイルを叩き落とす。



地面に叩きつけられたカイルが地面に触れると同時に、地面が大きく爆ぜる。

土と一緒に、カイルの手や足がバラバラに吹き飛ぶ。

腹部が水風船のように割れ、血肉と共に、内臓が周囲へと飛び散る。


カイルは自分が死んだことにすら気付けていなかった。




ーーーインフォメーションーーー

・『不老不死』を発動しました。

・『超再生』を発動しました。



ーーーーーーーーーーーーーーー




「・・・ありえない」


大きなブラックウルフは、目の前でバラバラになった人間が、謎の力で即座に復活する姿を目撃する。



「肉体は、我が力によって粉々となった・・・間違いない」



回復魔法を放つ暇すらなく、その意識は途切れているはずだ。

手応えだってあった。


そもそも、魔力の波を感じない。

これだけの傷を魔法で即座に治す。

とてつもない魔力を消費するはずだ。

いくらなんでも、魔力を感じないはずはない。


目の前の現象は、魔法ではない何かだと結論付けるラドン

部下である他のブラックウルフが、目の前の脆弱な人間に騒ぎ立てる理由がわかった。


元々、部下のブラックウルフから、食べたのに再生する人間がいることは聞いていた。

しかし、そんなことはあり得ないと否定していた。

つまり、目の前の再生する人間が存在することは聞いて知っていたが、分かっていなかったのだ。

事実であると認めていなかった。



だから、聞いてはいても、目にすれば、その驚きは新鮮だ。

ラドンは前足を一歩だけ後ろへ下げようとしていた。

無意識下で、未知の現象で再生する人間に臆していることをラドンは自覚する。

しかも、存在自体は脆弱な人間を相手にだ。



ラドンは人間を脆弱と見做しているわけではない。

デルガビッズの庇護を受け、この森までやってきたのも、驚異性のある人間の手から逃げるためでもある。


恨みはすれど侮ることはない。


それがラドン、ひいてはブラックウルフの人間に対するスタンスだ。



しかし、目の前の人間は、個体として驚異性はない。

未知なる力によって再生するだけだ。




「グォオオオンン!!!」


それがどうした。

そうラドンは臆する気持ちを押し殺すと共に、遠吠えを響かせる。

木々が揺れ、地面も微かに揺れるほどの声量だ。



・・・主の前で、これ以上の無様は許されない。

主の期待を裏切った直後の出来事なのだから。



そう考えたラドンは大きな木の傍で横たわる緑色の髪の少女を一瞥する。

その少女は、ラドンの主であるデルガビッズのために連れてきた少女だ。


デウス級の邪精霊であるデルガビッズ

最高位の精霊に耐えうるアニマを持つ少女



そのアニマの質と量は申し分ないのは事実だ。


しかし、デルガビッズを失望させてしまった。

失望とは、先に期待があり、それを裏切ってしまった状態のことだ。

期待を得られたのにも関わらず、それを失ってしまった焦燥は、ラドンの心に炎を灯していた。


その少女は、確かにデルガビッズを期待させるだけのアニマの質を持っている。

量は申し分なくとも、質が「合わない」のだ。

量だけいくらあっても、その属性たる質が備わっていなければ具合が悪い。

それは万事に通じることでもあろう。


質が良い悪いの話であれば調整はできるかもしれない。

だが、質が合わないことは致命的にどうしようもない。

打つ手がないのだ。


少しでもアニマの質が違えば、デルガビッズとラドン達ブラックウルフの悲願は成就していたかもしれない。

そう思うと、ラドンは己の悲運に嘆いて、怒り、暴れ回りたい衝動に駆られる。






・・・こいつ、巨体の割にめちゃくちゃ早い。



覚醒したカイル

『迅速』を使っても、彼は大きなブラックウルフの動きについて来れないでいた。

しかし、カイルは諦めていない。

目の前でジッと自分を見下ろすブラックウルフへ次の一手を放つ。



ーーーインフォメーションーーー

・スキル『森の黒き狼』を発動しました。

・デッキから『黒狼牙』と『黒狼爪』を手札へ加えます。

・スキル『黒狼心』を発動しました。

・スキル『迅速』を発動しました。


ーーーーーーーーーーーーーーー




カイルの体はブラックウルフへと変貌する。

その様子に、大きなブラックウルフは目を大きく見開いて、毛を逆立てる。

同時に、前足を勢いよく振り上げると、そのままカイルを叩き潰そうとする。



「面妖なっ!!」



カイルは『迅速』を再び発動していた。

全身がブラックウルフへと変貌し、車のような大きさにまで変化したカイル

先ほどよりも素早く動けており、人間のままでは『迅速』を発動したとて、目で追えなかったブラックウルフの攻撃がハッキリと見えるようになっていた。


ラドンの前足が地面を穿ち、周囲に土が弾き飛ぶ。

そんな中をすり抜けるようにして、カイルは大きなブラックウルフの首元へと噛み付く。



「がっ!!」



しかし、ラドンの皮膚は非常に硬く。

カイルの牙が1ミリも通らないようだ。


すぐさま、巨大なブラックウルフの肩を前足で蹴り、距離を取るカイル

そのまま、キッと赤い瞳でブラックウルフの太い首を睨む。



ーーーインフォメーションーーー

・スキル『ウインド・カッター』を発動しました。



ーーーーーーーーーーーーーーー



「これなら・・・どうだ!!」


カイルは大きなブラックウルフの首元を狙って風の刃を放つ。



「ふんっ!!」



放った風の刃ごと、カイルは大きなブラックウルフの前足によって踏み潰されていた。

いくら『黒狼心』でブラックウルフへ変身していても、『迅速』がなければ大きなブラックウルフの動きには付いていけない。

カイルは自分に向けられている前足の動きに気付く間も無く、ぺちゃんこに踏み潰されていた。




ーー大きなブラックウルフは、地面を前足でグリグリと擦るように押しつぶしていた。

目を大きく見開いて、これでもかと言った様子で地面を踏みつけていた。




「・・・ラドンよ」


すると、どこかから虚ろなるものの声が響く。

周囲が黒く淀んだ空気へと変質するのが分かる。


何かがいる。

そのナニカが、目の前の大きな黒い狼へ呼びかけている。

そして、呼びかけただけで、家のように大きな巨体を持つブラックウルフは、畏怖を示し、平伏する。



「主よ・・・」


ブラックウルフは頭を垂れる。

俯きながら、恐縮した様子で言葉を紡いでいた。



「ラドンよ、貴様は命を賭して尽くしておる。それは朕も理解しておる」

「おお・・・何と・・・何と・・・我にそのようなお言葉をいただけるとは・・・期待を裏切り、あまつさえ、脆弱なる人間の対処に苦慮している無様を晒してしまったのにも関わらず・・・」


「ラドンよ、良いのだ。朕は嬉しい。貴様のような忠臣を得られたこと、まさに幸運である」



ラドンは何者かと会話を続けながらも、地面を押さえる前足から力を緩めない。

その足の下には、破壊と再生を繰り返すカイルの姿があった。



・・・ちょっと調子に乗っていた。

こいつの部下を簡単に殺せるようになったから、こいつも大きいだけで何となると油断していた。


全然、動きが見えない。

それに、こう拘束されると

どうしようもないぞ。


ん?この虚空から響く声

あの狼のボスかな?




「・・・ラドンよ。朕は幸運だ」

「幸運ですか?」


「うむ、確かに、その少女のことは残念で仕方がない。しかし、朕に運は味方しておるようだ」


「・・・」


虚空の声に反応するようにして、ラドンは足元のカイルを見る。

まるで、見えない何かがカイルを指し示し、その視線を追っているようだ。



「試してみる価値はある」

「恐れながら、我の愚かさ故に、デルガビッズの崇高なるお考えが理解できておりません」


「その者、アニマとしての価値はない。質も量も最低基準だ」

「ええ、仰る通りだと、我も感じております」


「しかしな、その再生力には試す価値がある」

「・・・そういうことですね。我にはまったく思いもよりませんでした」


デルガビッズの声に、ラドンはハッとする。

何か気付いた様子だ。


「アニマが合わず、肉体が破裂したとしても、あの再生力であれば問題ない可能性がある」

「はい、期待に胸が踊りそうにございます」



ラドンの足元からスッとカイルは抜け出す。

不意にラドンの足から力が抜けた。

カイルはその隙を逃さなかった。



・・・何か勝手に話を進めているようだけど、ラドンの意識は誰かとの会話に集中しているようだ。

今がチャンスだ。

その隙に、ケビンさんを回収して、この場を立ち去ろう。

戦っても勝ち目がないならば、逃げるが勝ち。




カイルはそろりそろりとラドンの死角を動きながら、ケビンの元へと歩み寄る。

ケビンを回収し、ドシルが無事に村へ戻れていれば、カイルのミッションはとりあえずクリアになる。




・・・世界の脅威は、どこぞの英雄に託そう。

異世界だから勇者とかそんなのいるだろう。

頑張ってくれ…もう、お願いだから…




しかし、カイルがケビンの元へ向かう途中で、彼の目の前に黒い風が巻き起こる。



「うお、ああああ・・・!!」



余りの風圧と熱風に押されて、カイルは尻餅をつく。

気付けば、彼の目の前に、黒い炎が人間のシルエットをして佇んでいた。


目や口などの顔を構成するパーツはなく、揺らめく火に照らされている人の影のように佇む炎

それでも、その視線はカイルを観察するように眺めていることは伝わってくる。




「・・・朕はデルガビッズ」

「へ・・・あ、僕はカイルです」


黒い炎が名乗りをあげる。

反射的に、カイルも名乗り返す。


黒い炎が人のシルエットをしたモノは「デルガビッズ」と名乗る。

ラドンと話していた存在が、カイルの目の前に見えるカタチで姿を見せていた。



「朕が名乗りをあげた。貴様は名乗りをあげぬのか?」



デルガビッズは、どこか苛立ったように炎を揺らめかせながらカイルへ告げる。




・・・いや、僕はちゃんと名乗り返したよ。




「えっと、僕はカイルです」

「貴様!!!デルガビッズが名を問うておる!!答えぬか!!」



そして、ラドンが横合いから、カイルへ怒号を轟かせる。



・・・いや、待って、名乗ってるってば。




「ぼ、僕はカイルだって言ってんだろうが!カイル!!それが僕の名前だ!!」



カイルは叫び、名を強調する。

しかし、ラドンも、目の前の黒い炎のデルガビッズも納得していなさそうだ。



「・・・ほう、面白い。その無礼・・・地獄の業火に焼かれ!永劫に苦しみ、後悔の果てで懺悔するが良い!!!」



「うおっ!!」



カイルの目の前のデルガビッズが爆発するようにして膨れ上がっていた。




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