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【不死の力で世界最強】永遠の魔法  作者: ららららら
序章 垣根の上に立つもの
1/92

終わる世界 始まる世界



二つの月が煌めく夜空

丸い月が二つ、夫婦のように肩を寄せて、黒い水面のような空にポツンと浮かび上がっていた。



そんな夜空の上を歩く男性がいる。

彼が空を見上げれば、その視界の奥に見えるのは緑の大地と広大な山々だ。


まるで天地がひっくり返ったような景色である。



夜空に浮かぶように歩く男性は、黒髪をオールバックにしている美青年だ。

精悍な顔立ちと筋骨隆々の体格、黒いコートを羽織り、手には7色に輝く水晶が握られていた。



そんな水面のような夜空に浮かぶ影

それを前にして彼は立ち止まる。



見下ろす視線の先には、真っ赤な髪を腰まで伸ばしたスラリとした女性が横たわっていた。

顔はマジックで黒く塗りつぶされたようなモヤが覆っており、その容姿までは分からない。



「ごめん・・・」



彼の声色は、ひどく悲しげであり、深く罪悪に満ちていた。



「また・・・間に合わなかった・・・」



そして、彼女を見つめる男性の瞳からポロポロと涙が溢れ出る。

横たわる女性は、彼にとって大切な人であったのだろう。




「やりなおそう・・・」



男性はそう呟くと、手に持つ水晶を地上のある空へと向けた。




「何度でも」



男性の様々な感情が込められた言葉

それに呼応するように、彼の手にある水晶は7色の光を強める。



世界から色が失われていく。

その水晶にすべてが集まるように、世界が灰色に染まっていく。


緑の大地


青い海


夜空


そのすべての色が灰色に染まっていく。





「・・・俺が必ず」



ーーすべてを奪ってでも



「君を」



ーー取り返す。








**********






「・・・っ!」



6畳ぐらいの部屋

家具はほとんどなく、ただ布団だけが広げられている。


そこに寝ていたのは黒い髪の少年だ。

歳は高校生ぐらいである。

彼の前髪は目元まで伸びており、そのボサボサにした髪の毛が顔の下半分を覆っているため、その容姿や表情は分からない。



彼は大きく両腕を上にあげ、盛大に欠伸をする。

そして、ムニャムニャとしながら、髪と額の間に指を通す。




「・・・?」


彼は目元を拭った指が微かに湿っていることに気付く。



「また、あの夢か」


少年はボソッと呟くと、そこまで見た夢に関心を示さず、そのままスッと起き上がる。

彼の中では日常的な現象であり、特に意識を向けるほどのことではなかった。



そして、部屋の奥にある窓を見つめる。

カーテンの隙間から差し込む光に気付くと、彼は深くため息を吐いた。



「やっぱり、もう朝か・・・」




ーー少年は着替えを済ませる。

ボサボサの髪はまっすぐに整えられているが、前髪で顔を覆うのはやめていないようだ。

紺色のブレザーを身にまとい、手には四角い黒のカバンを持っている。


体のサイズと合っていないブレザーの隙間からはシワだらけのワイシャツが覗かせている。

ズボンはヨレヨレであり、しばらくアイロンとの出会いがないことは分かる。


その無造作すぎる髪型と格好から、彼があまりコミュニティに積極的ではないのは一目瞭然であろう。



身支度を整えた彼は、階段を降り、廊下を渡り、声のする部屋へと入る。

部屋は洋室であり、床はフローリングだ。

冷蔵庫や台所が並んでおり、その手前には机と椅子が並んでいる。

部屋の奥にはソファーがコの字で並んでおり、その中心には大型のテレビがあった。



「でね!ひどいのよ!」

「・・・その話は何度目だ?」

「母さんはめちゃくちゃ根に持っているね」

「もう!2人とも聞いてよ!ちょっと違うの!」



家族団欒の朝食

そんな雰囲気の部屋に少年が入ると、ボソッと挨拶をする。



「・・・おはよう」


「「・・・」」



少年が朝の挨拶を口にする。

しかし、返答はない。

明るく談笑していた空間に寒い風が入り込んだように空気が冷えていくのが分かる。



少年に居場所はない。

女性と男性が向かい合って座っており、女性の隣には別の少年が座っている。

4人掛けの席だが、空いている椅子の上には男性のカバンが置かれていた。


3人の目の前には朝食が並んでいるのだが、空いている席の上には何も置かれていない。

当然だ。

カバンは食事を口にしないのだから。




「・・・」


黒髪の少年は、家族という勘定から除外されている光景を目にしてもなお、意にも介さない様子で部屋の奥へと進んでいく。


彼が進んだ先はフローリングの部屋から畳の部屋へと変わり、そこには仏壇が置かれている。

仏壇の前の座布団に正座すると、彼の目線と合う位置には写真立てがあり、そこには老齢の女性が映っていた。


彼は少し息を吐くと、お仏壇の前で目を瞑って祈る。



・・・おばあちゃん、行ってきます。



少年は頭の中でそう呟くと、スッと立ち上がり、部屋から出ていく。

彼が部屋から出ていくと、再び家族3人の談笑が聞こえてくる。




「・・・」



少年は部屋を出ると、玄関を目指して廊下を進む。

学生の身分である以上、学校にはこうして通わなければならない。



彼が玄関にたどり着くと、その片隅へ目を配る。

そこには、白米とウインナー、卵焼きをごちゃまぜにラップで包んだ彼の朝食が床に置かれていた。

隣には、まるで投げられた後のように、斜めになった弁道箱が置かれている。

その透明な蓋から覗ける中身はごちゃ混ぜになってしまっていた。

投げられた衝撃で混ざったこともあるが、元から見た目など気にせず、適当に詰め込んだような印象だ。



「・・・ありがとう」


少年は、それでも、作ってくれたことに感謝を呟く。

そして、弁当と朝食をカバンに詰め込むと、そのまま家を出ていく。




**********






高層ビルが立ち並ぶ大都会

舗装された道路には勢いよく車が行き交い、歩道にも忙しなく歩く人々の姿がある。


そんな街並みの一角、交差点を前にして空を見上げている少年がいた。




・・・学校だるいな。

帰ろうかな。



顔半分が見えないため、表情の全容は掴めない。

しかし、それでも、彼が憂鬱そうな表情をしていることは窺える。


まるで世界の終わりを目撃しているかのような様子で、灰色の曇り空を見上げている。

それほど、彼は学校へ向かうことが億劫である。





・・・天気も悪いし、帰るか



学校に行かない理由として妥当ではないことを思い浮かべる少年

彼が学校に行きたくない理由は、一言で表せば居場所がないからだ。


怒ってくれる大人もいなければ、親しい友人もいない。

思い焦がれる異性もいなければ、嫌いな人間すらいない。

誰からも必要とされず、誰も必要としない。


そんな彼が学校を好むはずもない。

将来の希望もなく、コミュニティに積極的ではない人間にとって、学校とは地獄以外の何物でもないだろう。


しかし、彼にとって、そんな環境は学校だけではなかった。

家にも彼の居場所はなく、親ですら彼の人生に関心を示さない。


この世界に、彼の居場所なんてものはなかった。




「はぁ・・・」



信号機がパッと赤から青へと変わると、少年はため息を吐きつつも、前へと歩を進め始めた。

何も考えずに脳死した状態で歩道を進んでいく。


学校へ心底行きたくないと思っているが、体は勝手に動いてしまうものだ。

嫌な気持ちを抑えるには、理屈ではなく無心が有効である。

自分自身を奮い立たせるのではなく、何も考えないことだ。


しかし、そんな呆然としながら歩道を行く少年は、急な物音にハッとすることとなる。




・・・何の音だ?



少年が物音に反応して左を向くと、赤信号にもかかわらず大型トラックが勢いよく走ってきている。

ブレーキをかけるつもりがないのは明らかであり、それどころか運転すらおぼつかない様子だ。




・・・運転手、気を失っていないかな?



フロントガラスの内側にはぐったりとしている男性がいた。

虚な意識でハンドルを握っており、車を前に進めることだけで精一杯の様子だ。


隣の車線で並ぶ車のドアミラーをポンポンと弾き飛ばし、車体に深い傷を入れながら、微かに蛇行しながら走ってきている。




当然、そのトラックに反応したのは少年だけではない。

一緒に歩道を渡っている人間もトラックには気付いており、各々の反応を示していた。


そのままでは暴走したトラックに轢かれかねないものは、引き返したり、勢いよく走り出して歩道を渡りきったりと、騒然とした様子だ。


まだ歩道に入ったばかりの者のほとんどは、その場で立ち止まってトラックが過ぎ去るのを待っている。


そんな風に誰も彼もが難を逃れようとしていた。




「きゃあああああ!!!」



しかし、誰もが逃げ切れた訳ではないようだ。

その大型トラックの進行方向にある横断歩道で、悲鳴と共に1人の少女が転倒した。


倒れた理由は周囲の人間に押されてしまったのか、慌てて足をもつれさせてしまったのかは分からない。

しかし、結果は一つだろう。




・・・あー、あれは助からないな。



少年が歩道に取り残された少女を見た時に、脳裏に過ったのは無関心である。

自分自身は明らかにトラックに轢かれる位置にはいない。

だから、自分の生命が脅かされる危険はない。


そもそも、少年にとって少女がどうなろうと構わない。他人に関心を向けても碌なことがない。




ーー理性ではそう考えても、本能では別だ。

彼の体は、理性ではなく本能に従い始める。




・・・どうしてだろう。

人間なんて嫌いなはずなのに…

なのに、何で、僕はこんなことしてんだ?




少年は勢いよく走り出すと、少女に向かって飛び込んでいく。

理性が体にブレーキをかけようとする。

しかし、本能の指示を優先する体は、理性の言うことをまったく聞かない。



・・・っ!?

間に合えっ!!





ーー気付けば、理性ですら少女を助けることに同意していた。

そして、彼の手に少女を勢いよく突き飛ばす感覚がすると、今度は自分が大きく突き飛ばされる感覚がした。




「がぁっ!!!」





ーー水風船が破裂する音がする。



視界がグルグルと円を描いていて上昇していく。


そのまま上昇していくと、一瞬だけピタリと宙で止まった。

そして、今度は、グルグルと降下していく。


最後にプールに飛び込んだ時のような感覚が全身に走ると、視界には灰色のドンヨリとした空が広がっていた。




・・・はははは、意外と痛くないな。

もう何も感じないだけか。



ドンヨリとした空

それが、今の彼にはホログラフィックがかかったようにボヤけて見える。

ボヤボヤとしているが、綺麗に煌めいて見えた。



・・・綺麗だ。



視界の片隅にあるコンクリートの道路ですらキラキラと輝いて見えている。

いつもの億劫な通学路

それが幻想的に輝いて見えていた。




・・・世界ってこんなにも綺麗なんだな。

昔、頑張って集めていたカードゲームのキラカードを思い出すな。

最後は、イタズラでトイレに流されちゃったけど。




「・・・!!!」



ーー彼の視界を赤髪の綺麗な少女が覆う。

先ほど、少年が突き飛ばした少女だ。

彼女の姿だけは、ホログラフィックが掛かった世界でも少年の目にはくっきりと映っていた。



・・・綺麗な、女の子、だ。



少女の綺麗な容姿を構成する瞳には大粒の涙が浮かんでいる。

可愛らしい口を懸命に動かして何かを叫んでいる。

彼女はとても悲しそうな表情で何かを伝えようとしてくれているが、何と言っているかは少年には聞き取れない。




「・・・!!・・・!!・・・・・!!!」




・・・お礼を告げているのかな?

いや、ごめんなさいかな?


そんなに一生懸命なところ、悪いけれど、もう僕には…


何の感覚もないんだ。

声も聞こえない。

痛みもなければ、冷たいとかもない。



でも…

そっか、僕のために泣いてくれるのかな。

これで良かった。

これで…良かったんだ。




僕なんか…

もっと…早めに死ねば良かったんだから…


誰かの代わりに死ねたのなら、これで、良かったのかもしれない。




ーー少年の視界から光がだんだんと失われていく。

視界に映る全ての物の輪郭がなくなっていき、すべてが一つに溶け込んでいくように灰色に染まっていく。

クッキリと映っていた少女ですら、だんだんとボヤけていき、ドロドロになって灰色と混ざっていく。




ーー世界が完全な灰色になる。

そして、徐々に、徐々に、段々と黒く染まっていく。

黒く染まっていくのに比例して、彼の意識も薄くなっていく。




・・・お父さん、お母さん

これで、僕、いなくなるよ。




ーー世界が完全に黒く染まる。

真っ黒に覆われると、彼の意識も完全な無へと変わっていった。




・・・褒めて

くれ




かな





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