暗い箱
今の私は、暗い箱に閉じ込められている。
いや、違う。ここは自分の部屋だ。今は自室で天井を仰いで寝ているんだ。
電気を付けず、窓の外も暗いせいで視界は物体の輪郭を捉えるのが精一杯だ。
だが、何故だろう。今は部屋の中のはずなのに、暗い海の底に居るみたいだ。
きっと、この静寂が余計にそのように錯覚させるのだろう。
息も苦しくなく、水の中に居るわけでもないので死ぬことなどないのに、全身はガラスの破片が突き刺さったみたいな痛みがして、心は今にも萎みそうだ。
ふと、顔の横にあった唯一光を放つ小さな薄い箱を手に取った。
その奥には、こことは別の世界が展開されている。様々な人間が、形を持たず、自由に発言をしたり、あるいは別の方法で自分を表現しているのだ。
だが、ここでも私は愛されない。注目もされない。
こんな暗い海の底では愛されないのは当然だが、別の世界でも愛されることがない自分には、一体何の価値があるというのだろうか。
やりたいこともなく、本当の自分を見つけることもできない。だからこそ、こんな海の底に閉じ込められているのかもしれない。
そして、この画面の向こう側でも、私は閉じ込められているに違いない。こんなにも光り輝いているにも関わらず、誰にも見つけてもらえない暗闇に閉じ込められているのだ。
誰でもいい。こんな小さくも広大な世界を持つ箱の画面を叩き割ってくれないだろうか。
叩き割る勇気も度胸もない私の代わりに、誰か叩いて壊してくれないだろうか。
誰でもいい。この現実という箱を外の世界で見つめている誰かが居るなら、その画面を叩き割ってくれないだろうか。
そうすれば、私は消えることができるのだろうか。
もし、私がこの画面を叩き割ることができれば、外の誰かもこの世界という箱を壊してくれるのだろうか。
もしそれが叶ったら、私のような自分を見つけることもできず、誰にも愛されず、生きている価値すらも分からない人間は、この先どう生きればいいのかも分からない私は、消えることができるのだろうか。
分からない。
それとも、私は永遠に消えることのない痛みと潰れそうな思いに身を蝕まれながらも生き続けることを強要されるのだろうか。
消えることもできないというのなら、せめて私を一人にして。
もしも誰かが私と関われば、それだけで眩しいからだ。生きることに価値を見いだせて、自分を持っていて、誰かに愛されているあなたが眩しいからだ。
もしも消えることができないなら、せめてこの暗い箱に私を永久に閉じ込めて。永遠の静寂と、安らぎが約束されたこの深い海の底のような世界に、私を閉じ込めさせて。
私は唯一の光すらも永久に閉ざした。これで、この世界は私だけの世界になった。
私しかいない、たった一人の世界。
でも、何故だろう。さっきよりも痛みも傷みも増した気がする。
これでいいはずなのに、私の心はこれでいいはずなのに。
分からない。結局、自分が見つかっていないからだ。自分を見つけられないから、本当の気持ちが分からないんだ。
本当の気持ちが分からないから愛されていないんだ。本当の気持ちが分からないから、生きている価値も見いだせないんだ。
そんな欠陥だらけな私は、もう……。
私はポケットを探り、一本の希望をとり出した。
この世界を壊すことはできないけど、私だけを取り除くことはできるよね。
もう、いいよね?
私は希望を受け入れた。
あなたにとっての生きる価値は何ですか?
あなたのやりたいことは何ですか?
あなたは誰かに愛されていますか?
私は生きた価値を今、見つけました。
私のやりたかったことを今、見つけました。
私は今、誰に愛されていたのか分かりました。
この時のため、この一瞬のため、そして私自身のために、私はここに居たんだね……。
唯一見えていた輪郭すらも暗闇へと変わり、この世界から……。
読んでいただき、ありがとうございます。自分の気持ちの吐き出し口として書いてしまったものではありますが、この痛烈な思いが伝わってくれれば幸いです。