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「多分、純粋すぎるからいないんだと思う。綺麗過ぎる水って生物にとっては住めない環境なんだよ」
「どうして?」
「純粋ってことは、不純物のプランクトンとかがいないってことだから。魚にとっては餌がないんだよ」
「飯ないのか。それは辛い。最高級のホテルで断食するようなもんか」
「現実的な例えだね」
「わかりやすいだろ?」
さっきまで死のうとしていた人間の会話とは思えない。亜紀穂はちゃんと話している。それに夏目は問い、答えている。ああ、なんか湖に入ったのが馬鹿みたいだ。こんな所に彼女は居ないのに、何かしら水と聞くと連想し、確かめずにはいられない。そんな訳ないじゃないか。分かっている。分かっているのに勘ぐってしまう。もしかしたらと、そんな万一の低い可能性を希望にしてしまう。
「櫻井もこういう湖とか興味あんの?」
ふいに夏目が口にした。そんなことないよ、と言おうと思ったのにその質問が余りにも自然だったので違和感がなかった。
「うん、小五の夏休みに海と湖に囲まれた村に行って以来、こういう場所が好きになったというか、興味持っちゃったみたい」
「へー俺も行ってみたいかもそういう村。そういう所で泳いでみたい」
「今度地図で場所教えようか?すごい遠くて行きづらいけど」
「おう。夏休みにでも一緒に連れてって。そんで櫻井が今みたいに溺れたら、飛び込んで助けてやるよ」
意地悪そうな顔で悪がきみたいに笑いながら、言った。その台詞に亜紀穂は赤面する。そうだ、自分は湖に潜水して溺れた間抜けな高校男子となっているのだ。とっさだったから夏目の言葉に否定はしなかったために、今更撤回できない。ここで色々言い訳すると余計ややこしくなるし、何よりめんどくさい。気恥ずかしくなった。そんな亜紀穂の姿を夏目は、一瞬きょとんとした顔で瞠り、同時と言ってもいい