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水を飼う彼女  作者: きゃべつ
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椅子に腰掛けている亜紀穂が自ら積極的に話しかけようともしなかったし、友人と呼べる人間がいない自分にとっては彼の存在はどうでもいいとしかいいようがなかった。けれどこうして助けてくれたからには礼の一つもいわないといけない。それにきっと、湖に入った理由を聞かせてくれよとせがんでくるだろう。肩を上下させながら、にっと悪戯っぽい子供のような目で夏目が笑う。そして屈託なく、疑心皆無という声で亜紀穂に楽しそうに話しかけた。

「やっぱり入ったか。ここは入るよな?でも、櫻井が飛び込むなんてすごい意外。俺も入りたかったけど、さすがにやばいって諦めたのに。同志がいて良かったよ。でも溺れて死んだら意味ないぞ。あくまで潜水観察なんだから」

「え?・・・うん、そうだね」

 うつ伏せになりながら目を伏せ、しどろもどろに返事をする。そうか、そういう考え方か。夏目も亜紀穂と同じく草むらに体を移し、横たわる。チラリと横目で盗み見ると夏目は疲れた、それでいて安心したような落ち着いた表情で目を瞑っていた。上から細い雨が針のように掛かり、夏目の体を清めていた。瞠り、一瞬息が止まるくらいその光景は美しく、鮮やかで鮮明に、亜紀穂の瞳に映された。もう濡れてしまった服は、今更雨で汚れても気にしない。呼吸を止め、あわよくば心臓の動きをゆっくりにしたい。時間が一時でも止まるように。

ただ余りにも夏目の存在感が強すぎて、この幻想的な背景に、亜紀穂自身に、不似合いで浮き彫りになるのだ。いくら幻想的な光景だとしても、自然は何度でも蘇りその度に強くなる。結局、曖昧で幻の過去に囚われているのは自分だけなのかもしれない。そう思うと堪らなくなる。

「なんか見えたか?湖ん中」

「あ、うん。湖底が青緑だった。綺麗だったけど、それしかなかったよ」

「魚とかいなかったのか?そんなに綺麗な水ならなんか色々いそうだけど」


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