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続かない物語  作者: あしひと
1/1

稀によくない転生もの


「―――以上があなたに授けられた能力です」


真っ白な空間の中で対峙する二人の人物。


一方は青年。

長く伸び切った不衛生な髪、くすんだ肌、ひどく歪んだ姿勢、お世辞にも美少年とはいいがたい容貌。第三者が見れば一目で社会不適合者(ニート)と理解することは容易であろう。

しかし、本来暗く淀んでいる筈のその眼には、この先の展開に対する希望か、はたまた突如得られた幸運に対する喜びからか、怪しい光を讃えている。


もう一方は女性。

青年とは対象的で、長く光り輝いているようにさえ見えるブロンドの髪、透き通るような肌、見目麗しい端正な容貌そのどれをとっても非の打ちどころがないまでの美人。

その神々しい姿は、性に対する好奇心が旺盛な年ごろである筈の青年をもってしても、それに対し劣情を抱くこととさえ憚らせ、一瞬で彼女が女神であると理解せしめた。


勘の良い読者諸君はもうお気づきかもしれないが、

トラックに撥ねられる(お決まりの展開)からの、異世界転生(使い古された予想外)である。


「任せてくれよ、ヘガレーゼ様。アクタなんとかの平和は俺が取り戻してやる」

青年の下卑た笑み。

言葉にこそしないが貰った恩恵で我欲を見たそうという魂胆が透けて見える。


その腹積もりを知ってか知らずか、女神は柔和な笑みを崩さぬまま異世界への門を開き、青年を促す。


青年は意を決し歩みだす。

恐れがなかったかといえば嘘になる。

死んでしまえばそれまでの世界とは聞いていた。

しかし、現実世界に未練はなく、得られるものは神の加護(チートスキル)

その力をもって無双し、英雄として名声を恣にする魅力は青年を奮い立たせるには十分であった。


そう、この青年こそが、現代社会で不遇の待遇を受けながら、非業の死を遂げ

|アクタパッドネガラーシュ《異世界》を救う勇者として転生するこの物語の――――


「カズト、あなたの旅路に幸多からんことを―――」


***


新たな世界に降り立つ青年は周りを見渡す。

女神が開いた門である。予想していた通りではあったが

目下には長閑な街並み、遠目には城塞が見える。

城塞都市の中にある噴水広場に降り立ったことを認識した。


流石に戦争の真っただ中に放り込まれたり、いきなりダンジョンから始まるということはなかったか。と安堵する。

はたから見たら何もない空間から突如人が現れたように見えている筈であるが、

そこも何らかの加護が働いてるのか、青年―大賀カズトに奇異の目を向ける町人は居なかった。


身の回りの安全を軽く確認した後、カズトはある場所を目指す。


―――さて、異世界に降り立った勇者が最初にすべきこととは何であろうか?


現地言語の理解?

否、ご都合主義(チートスキル)で言語の壁は既に突破済みであることは

街ゆく人々の会話から把握済みである。


装備品の調達?

否、この世界で手に入り得る最上級の防具、武器(一番良い装備)は既に女神より賜った。


ギルドへの登録?

否、旅の路銀として使いきれないほどの莫大な資金も女神から融資されている。クエストをこなし小銭を稼ぐ必要などなかった。


寝床の確保?

否、それも重要なことに違いないが今はまだ昼。路銀もたんまりあることだ、宿屋を見つけるのは容易であろう。


そうこうしているうちに、カズトは目的の場所にたどり着き、木製のドアを勢いよく開け放った。

真昼間というにもかかわらずその空間には酒と煙草と料理の匂いが充満しており、昼間から飲んだくれているゴロツキ連中が一斉にひどく場違いな来客者に対し胡乱な目を向けた。


―――そう、酒場での情報収取。


注目を集めつつもカズトは店主と思しき男がいるカウンターに足を進め、銅貨をカウンターに置いて一言。

「マスター、ミルクをくれないか?」


―一瞬静まり返ったのち、店内にはけたたましい笑い声が響いた。

「おぃおぃ聞いたか?ミルクだってよ!」

「ガキは帰ってママのおっぱいでも吸ってな」

酔った男どもは新しいおもちゃを手に入れたといわんばかりに

カズトの行動を揶揄し、喚きたてる。


店主は深いため息をつきながらも、銅貨を受け取りジョッキに注がれたミルクをカズトへ差し出した。

「坊主、悪いことは言わねぇ、これを飲んだら直ぐ帰るんだな」

金を出す以上は客として扱うが、これ以上のトラブルは御免被るといった表情を向ける。



カズトはそれを受け取るとひと際大きな声を上げて笑い転げていた男めがけて投げつけ叫ぶ。

「情報が聴きたくて酒場に来たわけだが、どうやらその前に礼儀を教えてやらねばならないらしいな!」


―――そしてゴロツキども相手の小手調べ

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