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魔女のもり  作者: 橙 果実
第二輪 魔女の旅
8/13

07滴 魔女と七人の魔人

 特に魔物に襲われるということはなく、森の出口が見えてくる。

 あと少しで森を抜けそうな所に、大きな家がポツンと建っていた。

 見上げるほどの大きな家。住んでいる人はかなりのお金持ちなのだろう。

 リチアが呆気にとられているとアスターは気にすることなく敷地へと入っていく。

 シオンやソルムも特に気にすることなくついて行くので、驚き立ち止まっているとそれに気付いたアスターに声をかけられた。


「リチアもおいで!」

「え……えっと……この豪邸は誰の家?」


 そんな質問に、アスターは少し言いずらそうにして、笑いながら答えた。


「ここは俺の家なんだ。正確には両親が研究に使ってた家なんだけどね」


 笑いながら答えるその中で、少し暗さを感じる言葉が気になってしまった。


「今は使われていないの?」

「あ~……。二人とも十二年前に亡くなってるんだ」

「! ……ごめんなさい」


 愛する家族の死に触れてしまい申し訳なく思いうつ向く。

 同時に思うのが自分の家族。生きているのか、探しているのかも分からないがそっと無事を願う。


「気にしなくていいからね? もう十二年も前の事だし。最初は寂しかったのはあるけど……今は、シオンや皆がいて毎日目標があって充実してるよ」


 優しく笑いかける彼に救われ、邸宅の中へと促されるままに歩を進める。

 入って目についたのは、七人の姿だった。


「おかえりなさいませ。アスター様」

「……おかえりさない」

「アスター今回は遅かったな? 一週間ぐらいか?」

「ちょっと! 気安く呼ばないで『様』をちゃんとつけなさいよ! サ・マを!!」

「だぁーーーーうるさいな! 本人がいいって言ってたんだからいいだろ!?」

「「おかえりなさ~い」」

「おかえりなさい。アスター様」


 七人のメイドと執事の騒がしい出迎えに、また呆気にとられる。

 見るものすべてが新しく、目を覚ましてからずっとこんな感じだ。


 一人目は、綺麗なお姉さんって感じのメイドさん。

 二人目は、綺麗なお姉さんに隠れて顔だけこちらに見せている小さなメイドさん。

 三人目は、明るいお兄さん。自由だな~って感じの執事さん。

 四人目は、ちょっと気の強そうな女の子のメイドさん。

 五・六人目は、双子の活発そうな女の子のメイドさん。

 七人目は、大人びた雰囲気の背の高いお兄さんな執事さん。


「皆ただいま。出迎えはいらないっていつも言ってるのに」


 困ったように笑うその顔は、その思いとは裏腹にどこか嬉しそうだ。

 帰った家に誰かが待っていてくれるのは、幸せな事なのだろう。

 

「仮にも屋敷を預かるメイドと執事なんですから、そこらへんはちゃんとしないと!」


 気の強そうな彼女は、少し得意げに自身の役目を話す。


「シオンもおかえりなさい」


 綺麗なお姉さんは、小声でシオンも出迎えた。

 当の本人は、照れているのかそっぽを向いている。

 「シオンはいつもあんななのにあきないわね」なんて小声で話しているのが聞こえる。


 アスターを出迎え終わると、注目はこちらに集まった。


「多分皆も気付いていると思うけど、彼女が魔女に選ばれた人間。リチアだ」


 皆姿勢を正し、深々と礼をする。


「アスター様と共にいるということは、神殿を目指されるのですね」


 言葉に頷くと、彼らは少し緊張が溶けたようにみえる。

 その後アスターからの説明でリチアの記憶がない事、本名でない事等を簡単に話した。


「リチアにも紹介するよ。ここの皆は魔人なんだ。右から……」

「ソフィアです。花の魔人ですわ」

「コルル。……人形」

「ギルダッド。ギルでいいぜ!オレは、鳥の魔人だ」

「リッカよ。クラゲの魔人ね」

「私はメア」

「私はミア」

「「私たちは双子の兎なの!」」

「クルスと申します。蜘蛛の魔人です。以後お見知りおきを」


 一通りの紹介が終わると皆、目配せをする。


「そして、これが我々の魔人の姿です」


 クルスの合図で皆が魔の姿となる。

 コルルが可愛い……! 思わず抱きしめたくなる容姿の人形だ。

 それにしても、皆魔核の場所を簡単に見せてしまうのはなぜか。

 自分は、知らずに見せてしまったが、本来は危険なはず。

 魔女への忠誠と言っても、人間が魔女になるのだから、種族間の溝で狙われることはないのだろうか?


「私は元は人間なのに、魔核を見せる事に不安はないんですか?」

 

「そうですね……。ないと言えば嘘になりますが、私達魔人は、魔女が存在する意味と理由、選ばれる者の資質を信じています。なにより……アスター様がお連れになる人が、理由もなく暴挙に出るような悪人とは思えませんからね」


 アスターに向けたその表情は、とても穏やかで、言葉に嘘偽りがないことが見ていても分かった。


「彼の事、とても信頼しているんですね。私も、彼なら信用できるってなぜか思えます」


 話していくうちに緊張も解け、自然と笑みがこぼれる。


「魔核を見るというより、魔の姿を理解していただければ幸いですわ。いつかお役に立てるかもしれないですし」


 信用されているということに、静かに照れていたアスターがの一言によって話題は変わる。


「そういえば……ソルムは?」


 周りを見ると、姿がどこにも見当たらない。

 屋敷の住人達は、三人だと思っていてもう一人いたことに驚く。


「ソルムって……まさかあの神鳥か!? 結界はどうしたんだ」


 神鳥がついてきていたことに、彼らが驚いていると奥から悠々とソルムがでてきた。


「結界なら魔女の力を借りた。俺がいなくても維持できるから安心してよい。それよりアスター、地下の部屋には入れなかったが、加工をしているのはそこか?」


 周りの驚きも気にせず、話を続ける。


「そうだけど、入ったことないから俺もよくわかんないんだ。できたものはいつの間にか部屋の外に置かれてるし。それよりいつの間に奥に行ってたんだ?」


 神鳥と対等に話すアスター。

 地下で生活する間に打ち解けていたので、動いている神鳥を初めて見た彼らは、その様子に驚きを隠せずにいる。

 彼らも地下に住んでいた時期があるので、神鳥の存在は認識していた。


「す……すごい、魔女も神鳥もここにいるなんて夢でも見てるんじゃ……」


 リッカは、夢か現実かを確かめるためにギルの頬を抓った。


「イダダダダダダダ! 何するんだリッカ!」

「やっぱ夢じゃないか~」

「おい!」


 二人の微笑ましいやり取りを横目に話は進んだ。

 ソフィアは神鳥へと一礼すると、手にある小さな包みを広げた。


「アスター様、これを。先程できたばかりの物ですわ。3つありますけど、全てお持ちになられますか?」

「いや……1つだけ予備に貰っていくよ。残りは長老に渡しておいて。二人の分を貰ってきたから町にある数が少ないんだ」

「かしこまりました。あとで届けておきますわ」

「頼むよ。」


 ここに戻ってきた目的の一つとして、リングを受け取り本題に入る。


「皆もう分かってると思うけど、俺も一緒に旅をすることにした。だからここにいつ帰れるか分からなくなる。長くなると思うから家の事や研究室の事、皆にお願いしたいんだ。いつも通りに過ごしてくれればいいから……頼んだよ」

 

「「「「「「おまかせください」」」」」」


 六人の安心できる返事と小さく頷いたコルル。

 賑やかな人たちだが、その声音は信用できる心強さを感じた。


「アスター様! お越しになられる少し前に王都の様子を見たのですが、騎士の多くが西の地へと向かったようです!」

「噂では、西の地に魔物の大群が出現し、その対処に各地へと送った騎士を向かわせたようです! 騎士達からは不満の声が漏れてますよ~」


 双子はいたずらっ子のような笑みを浮かべ、楽し気に情報を伝える。

 アスターに情報を褒められるとご満悦のようだ。

 後にかわいそうだねー。なんて言い合ってるが、その表情は微塵も感じられないほどの笑みだ。


「すごいね。ここから王都はあんまり見えないけど、二人の力?」


「そうだよ! わたしの目は全てを見渡す『箱庭の主(カミノメ)』」

「わたしは、遠方の音を拾い、聞き分ける『風の便り(レシーバー)』」

「ミアの耳はわたしの音」

「メアの瞳はわたしの目」

「「足りないところは補えばいい。二人で一つの力なの」」


 双子特有の息の合った掛け合いは、互いを必要とし、欠けてはならないという強い意思を感じる。


「って事で、今の王都には騎士がほとんどいないので用があるならチャンスですよ!」


 ミアの提案に少し考えこむアスター。


「リチアの姿もはっきりとはバレてないし、まさか王都に来るとはおもわないだろうから、武器とか防具の調達に行くのはいいかもしれない。それにリチアを知ってる人がいるかもしれないし、何か思い出せることがあるかも……」


 行くのを良しとしながら少し不安そうなアスター。

 今の自分達にとっては敵地に乗り込むようなものだから、簡単に決められることではないのだろう。

 でも、今しかチャンスがないのなら必要な行先なのかもしれない。


「王都に行ってみたい……かも。騎士の本拠地っていうのは不安だけど、いずれ私が、魔女だということはバレると思う。だから記憶の手掛かりになるようなものが今しか探せないなら、ちょっと怖いけど行ってみたい」


 緊張からか、少し震える手を強く握り、意思をはっきりと伝えた。


「それなら行こう。何かあればすぐ引き返せばいいし、王都なら魔鉱石をつかった武器や道具もそろってるから、今後の役に立つと思う」


 記憶の手掛かりを探す為、武器を入手するため王都へと向かう。


「「いってきます」」


 善は急げ、ゆっくりしていられないということもあり、次の目的地へと急ぐ。




 ◇ ◇ ◇


「あーあ。俺もついて行きたかったな~」

「あんたがついて行っても足手まといよ! 神鳥様もいるんだし」

「な……俺の方が攻撃は向いてると思うんだけどな」


 ギルのぼやきに、リッカの容赦ない一言。

 喧嘩しながらも仲のいい二人だ。



「私はこれを町に届けてきますわ」

「コルルも行く」


 小さな手で袖を掴み精一杯のアピールをする。

 アスターの頼み通りすぐに魔人達のもとへと届けられることになった。



「うーん、大丈夫だと思うけど不安だなー」

「ちょっと気になるね……言った方が良かったかな?」


 双子の会話を聞く者が一人。


「どうかしたのですか?」


 二人だけの会話だと思っていたのに、突然声をかけられ驚く。


「それが……、魔女の鼓動の後から、少し妨害されてる気がするんです」

「気がするだけではっきりとは分からないんですけど、一部歪んで見えたり聞こえたり……」

「「言った方が良かったですか?」」


 不安そうに首をかしげる二人に、小さな溜息を一つ。


「はぁ……、なぜ先に相談しなかったんですか。言った方がいいに決まています。歪み部分が上級騎士なら危険です」

「「ですよね~……。追いかけます?」」


 もう遅いです。と言われてしまい小さくなる二人。

 力の使い過ぎは疲労するが、そうも言っていられないので交互に使用し、魔女一行の行動を見守ることとなった。

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