06滴 魔女への贈り物
皆言葉遣い一緒な気がして……。
おじいちゃんって文字にするとどういうことばづかいにしたらいいかわかんない!
『じゃぞ』とか『のぉ』とかむずかしいわ。
悩んで結局使えてなくて、セリフが誰のかわかりにくいな……。
準備を整えいよいよ神殿を目指す旅に出る。
遠方の偵察に行っていた鳥の魔人の報告によると騎士の多くが王都へと戻ってきているらしい。
以前と比べて騎士の数は減っている為、問題がおきればすぐに招集されてしまう。
ちょっとかわいそうだな……とか思いながらこれをチャンスと地上に出ることとなった。
「短い間だったけど、お世話になりました。絶対に神殿を見つけて、また……会いに来ますね」
「いつでも歓迎します。各地にいる同士にもこの事はすぐに伝わるでしょう。皆協力を惜しみません。何かあれば是非頼ってください」
短い別れであることを願いながら礼を述べる。
「そろそろ行こうか。また騎士が配置されたら出にくくなるし」
「そうだね……。それじゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい! 気を付けてね!!」
「アスター、シオン頼んだぞ」
「ソルム様もお気を付けて……」
「「「いってらっしゃい」」」
「「いってきます!」」
アスターと同時に返事をし、目が合いクスっと笑った。
不安や緊張はあるものの、旅にでることは楽しみでもあり胸を高鳴らせた。
魔人達に見送られ、久しぶりの地上へと出る。
警戒しながら出てみたが、特に問題はなさそうだ。
日の光が気持ちよく、旅に出るには丁度良い晴天に目を細める。地下の日も同じはずだが、限られた空間の切り取られた空と、どこまでも続く自由な空とはやはり心地よさは違う。
自然に一人感動しているとアスターに現実へと呼び戻される。
「大丈夫? 眩しかったかな?」
心配そうに覗き込まれ思わず慌てて大丈夫だと伝えると、安心したように微笑む。
シオンはアスターへと視線を送ると、アスターもそれに気づき頷く。
すると狼の魔物へと姿を変え、どこかへと走って行ってしまう。
「シオンどうかしたの?」
「今から大樹のある所に一度行っておきたいんだけど、騎士とか魔物とか近くにいないか確認しに行ってるんだよ。念のためにね」
言葉を交わしたわけでもないのに通じ会えることに驚いていると、長い付き合いだからと返されたが、それでもすごいことだと思い感心した。
再度安全を確認し、足早に大樹の許へ行くと村の住人たちが騒いでいるのが見えた。
「木を倒すなんて、罰当たりだわ」
「傷をつけられないと言っても、どうなるかはやってみないとわからんしな」
「大樹の加護を忘れた馬鹿なやつらだ」
聞こえてきた話にアスターは飛び出す。
「ハル爺、今の話はどういう事?」
「アスター戻ってきたのか!? 魔女はどうし……んん!?」
こちらを見るなり怪訝な顔をする。
「お前さん……少し見た目が変わったようだが、あの時の魔女か?」
アスターの声で静かになった村人が、魔女をみてざわつき始める。
肯定の意を込め頷くと、長は安堵しているようだった。
「すまなかったな。魔女は騎士に狙われる者。共にいることを知られればアスターも危険に晒される。孫のようなこの子を放っておくことはできなかった……」
「あの時は何も分からなくて……。でも、今は皆から魔女のこととか聞いてるので少しは状況を理解しています。だから、大丈夫です! 気にしないでください」
微笑みを向けることでその心は伝わった。
孫と言われた事で照れていたアスターによって話は戻される。
「それで! さっきの話の続きは?」
「おお、そうだったな。お前たちがいなくなったあと騎士が来たんだが、数人の騎士が木を倒した方がいいと言っていてな。今は招集がかかって戻ったようだが、いつその案が通るかわかったもんじゃない」
騎士がいなくなったことで、村人も緊張が溶け文句を言っていたらしい。
ここの村人は、大樹に感謝し、人に善悪があるように、魔人にも善悪があることを理解し適切な対応を心掛けている中立の人達の集まりである。
「アスターはどうして戻ってきたんだ? 騎士がいるかもしれないのに危険だろ?」
「騎士がいないの確認してからこっちに向かったよ。これから旅に出るから、大樹に一言挨拶しておきたかったんだ。家にも一度戻っておきたいしね」
「それと後ろにいるのはシオンと……誰だ?」
「あぁ~彼は……」
大樹を守護する民にとって、旅に出る前の挨拶は納得できたが、日々共に行動しているシオン以外の人物が気になるらしい。
「ソルムだ。俺も魔人で旅について行くことにした」
「そ……そうなんだ! 今回一緒についてきてくれることになったんだ。善良な魔人だから安心してよ」
先にソルムが答えてしまって少し焦ったが、なんとか誤魔化せた。
シオンが魔人と言う事を知っている人たちなので、すんなり受け入れてもらえた。
本当は、神鳥であることを話したかったが、噂はどうやって広まるか分からないし、念のために彼らにも神鳥であることを隠す。
一通り話し終え、四人で大樹の前へとくる。
数日前に見たのになぜかとても懐かしく感じた。最初の時も思ったがこの感情は何なのか今はまだ分からない。
「アスティル行ってくるよ。いつ戻ってこれるか分からないけど、君が託した彼女を守ってみせるよ。行ってきます」
アスターが話し終えると、木はどこか寂しそうに見えた。
柔らかな風に葉が擦れざわめくと、隙間からなにかが魔女の手元へと落ちてきた。
落とさないようにうまく掴むと、それは木の枝で皆が注目する。
「めずらしいな! 大樹が枝を落とすなんて。傷つくことがないこの木は、枝も葉も落とさないからそれは餞別かもな」
村人の一人が興奮気味に話してくれたが、枝をどうしたらいいか分からずじっと見つめる。
「これはすごいことだよ!? そうだな……武器職人、いや『白の加工師』に持っていけば防御や補助の力を持った装飾とか武器を作ってくれるかもしれない!」
少し考えこんだアスターだったが、楽しそうに枝のこ今後について話し出す。
「よく分かんないけど……とても大事な物なんだね。その『白の加工師』が見つかるまで大切にしまっておくよ」
後ろにつけたウエストポーチから綺麗な布を取り出し、丁寧に包み戻す。
用事も終わり次の目的、アスターの家へと向かうことにした。
出発する前に木を見上げ、思いを伝える。
(あなたと私は、とても似ている気がする。忘れてしまったこの記憶にあなたは深く関係していると思うの。……まだ何も思い出せないけど、時が来たらまたここで会いましょ?)
「いってきます」
言葉にしたのは一言で、再会の時を心で誓った。
「アスター。騎士にはお前の事は話しておらんが、あの若者は、何かを見抜いているような目をしていた。気をつけなさい。そして彼女と共に無事に帰ってくることを願っているよ」
「ありがとうハル爺。絶対みんなで戻ってくる。それじゃあそろそろいくよ」
「いってらっしゃい。お前さんたちも無事でな」
「「いってきます」」
アスターとリチアは挨拶をし、シオンは軽く会釈しその場を後にした。
村の人は皆手を振り、旅の無事を願って送り出す。
いつの間にかソルムは森の中へと入っていて、何かを調べている。
「どうしたの?」
声をかけてみると、地に手を付け少し眉をしかめている。
「大地の力が少し弱まっている。陸の守護者と地の精霊は何をしているのか……、まぁ、今はそこまで気にする必要はない。すまない先を急ごうか」
少し気になるがゆっくりもしていられないので次の目的地、アスターの家へと向かうことにした。




