04滴 魔女の決意
過去の話は、その場の空気を重くした。
「魔女にも、いくつか救いはあります」
長老の一言にわずかな希望を感じ、胸を高鳴らせる。
そっと呼吸を整え、話の続きを待つ。
「いつからか、魔女の誕生と同時に世界のどこかに神殿が現れるようになったのです。神殿は簡単には見つかりませんが、過去に辿り着いた魔女が数人います。そこで祈りを捧げることによって人間に戻れたと伝えられています。」
人に戻れる可能性に嬉々と周りを見渡すが、続きがあるのか緊張感ある空気に包まれていた。
視線を長老に戻すと、言いにくいのか口をつぐんでいる。
「何か……問題でもあるんですか?」
「魔女は……、真の想い人と添い遂げることで、神の祝福を受け人間へと戻ることが許されるのです」
それは素敵な事! と目を輝かせてみるが周りの空気は変わらないままだった。
何も問題はなさそうだが続きがあると思い、視線を戻し促してみる。
「我々は、人間になりたいのです。力が欲しかったわけでもなく、魔人になりたかったわけでもない。ただこの力がある限り、人間は恐れ、魔人を悪とし消そうとするか従わせようとするのです。何人の仲間が犠牲になったか……」
少し苦しそうに話す長老。
皆、真剣な面持ちで話を聞いている。
「一部の魔人は争いを好み、人間や魔人を襲うものもいます。しかし我々は好みません。ただ静かに、日々穏やかにすごしたいのです」
その切実な願いは、胸を締め付け離さなかった。
「魔人が人間になるには魔女の祈りが必要です。神殿を目指していただきたいのです。危険な旅になるでしょう。想い人ができれば添い遂げ魔女から解放されたいと願うかもしれない。勝手な事とはわかっています。しかし、それでも頼む以外に方法がないのです。我々を神殿へと導いてくださりませんか?」
視線にこもる思いに耐え切れずうつ向いてしまう。
まだ魔女になったばかりで、記憶も曖昧。
その願いを叶えてあげたいと思えど、こんな自分にできるのかと不安で押しつぶされそうになる。
沈黙が続く中、立ち上がり声をあげたのはアスターだった。
「俺がついて行く! だから世界を見る旅に出よう。記憶の手掛かりを探しながら世界を周って、神殿を見つけたら皆を呼べばいい。今は難しい事は考えないで楽しく生きることを考えよう」
「アスターが行くなら、おれも行こう」
今まで、静かだったシオンも同行の意を示した。
「魔女の旅か……。面白そうだな。守の役目も果たせたことだし、俺もついて行くとしよう」
神鳥もついてくると言い出して、旅の主役の返事を待たずに話は進みだす。
でも、彼と……アスターと一緒なら大丈夫。そんな気がして顔をあげた。
「剣技には少し自信があるんだ。絶対に守ってみせる。だから一緒に行こう」
彼は、手を差し出し承諾を待っている。
今度は少し迷ったが、覚悟を決め、手を乗せ立ちあがり皆に視線をおくった。
「どのくらいかかるか分かりません……。諦めてしまうかもしれない。それでも待っていてくれますか?」
この言葉に長老達は喜び、人間になれるかもしれない未来に嬉し涙を流した。
外で聞き耳を立てていた魔人たちも抱き合い喜びを分かち合っている。
ここまで喜ばれるとなんだか照れてしまい、繋いだままだったアスターの手にも恥ずかしくなってとっさに離した。
お互い妙に照れてしまい、二人の間に気まずい空気が少し流れる。
「旅に出るなら支度も必要だが、魔女の名前はどうする?外で『魔女』と呼ぶわけにはいかないだろう?」
神鳥の一言で、名前を決めることになった。
皆口々に綺麗な物やそれらを意味する単語を並べるが、誰かしらが却下して決まらない。
じっと待つのも飽きたので、声をあげる。
「次に発言した人の案を名前にします!」
私の一言で騒がしかった室内は静まり返った。
先程までの勢いは何だったのか、と思うほどの静寂に包まれ苦笑を浮かべる。
「それなら、『リチア』はどうだ? 魔女の意思を尊重するとこれで決定だが?」
名付けの提案をした神鳥から始まり、結果的に彼の案を受け入れた。
まだ自分の名前という自覚はないが、記憶のない自分に『魔女』ではなく『リチア』という名前ができたのは素直に嬉しい。
周りも神鳥が決めたということもあり賛成のようだ。
◇ ◇ ◇
その頃、森には騎士が侵入しアスティルの樹の前まで来ていた。
若い騎士につづき、数名の騎士。少数精鋭とういことだろうか。
「長はいるか? 魔女の鼓動を感じた。直ちに引き渡してもらいたい」
「あいにくですが、魔女なら逃げてしまいました。ちょうどわたししかおらず、こんな年寄りでは追いかけることもできませんでした。騎士様にはお手を煩わせて申し訳ない」
長は、若い青年へと丁寧に対応した。
しかし、青年は鋭い眼で話の真偽を見極めようとする。
「他に報告することはないか?」
「は……はい。他には何も……」
焦りは言葉に迷いを持たせた。
「魔女の姿形、特徴は? 他に……共に逃げた者はいないか?」
核心をつかれ早くなる心臓を必死に抑え言葉を紡ぐ。
「淡い金髪を腰まで伸ばし、青い瞳を持った女性です。魔女の姿となってそのまま森の中に入って行っていまいました」
「そうか、もういい」
それ以上追及することはなく去ろうとする。
他の騎士達は、気が緩んだのかヒソヒソと話をしだした。
「やはり魔女を生む樹なんて切り倒したほうがいいんじゃないか?」
「でもあの樹は傷つけることができないんじゃ……」
「なら燃やすとか……、また魔女に死地を造られたらたまったもんじゃない」
長は、不快な顔で兵士達が去っていくのを見送った。
「この樹のお陰で、人の魔人化進行を抑えられているというのに……」
独り言は静かな森に溶けていった。
大樹のもとに魔女がいなかったことで、世界各地には魔女を探す騎士がみられるようになった。
難しいな難しいな。
お話書くの難しいな。
意味調べるのも大変だぁ……。