09滴 魔女と静かな夜
長くなったので切り取ったら短くなりました。
アスターの背を借りたまま、足早に王都の外へと出る。
王都には東西南北に門があり、南門から入りすぐの宿で問題は起きた。
西には魔物の討伐へと向かった騎士がいる。
残るは北か東。一刻も早く抜け出すためには東門を選択するしかなかった。
東門の外はすぐに森林があり、身を隠すにはちょうどいい。
戦闘による疲労が残る体を休めることなく暗い森を進むと平な場所を見つけ、今夜は野宿をすることとなった。
ソルムの結界により、魔物の襲撃を警戒することなく眠りにつく。
とはいえ、万が一の事もある為ソルムが見張り役を買って出た。
アスターやシオンも順番を提案するが、長年結界を張り続けた神鳥にとって、1日寝ないぐらいなんということもない。
好意に甘え、持っていた軽食をとり、二人は眠りについた。
夢を見た。
座り込む女性と支える男性。
また何かを話している……。
「――――約束ね」
「ああ……約束だ。絶対にまた――――」
モヤのかかる夢から目を覚ますとまだ夜の中にいた。
約束を交わした女性は、森で見た夢の女の子の成長した姿に思える。
「目を覚ましたか。魔女」
声をかけたのは、ソルムだ。静かな夜にその声は凛と響く。
「ここは……。ごめんなさい、逃げたとこから覚えてなくて……」
「魔女は人の身で『言の葉』を使ったうえに、本来魔人化しなければ扱えないその力を無理に引き出した。その反動で意識を失ったようだが不思議だな?」
驚きはしたが、そんなことを言われても使いたくて使ったわけでもなく、不思議と言われても自分でも分からない状況に不安を覚える。
この先も無意識に力を使い、また倒れることがあれば迷惑をかけてしまう。
旅は始まったばかりなのに、心配だ。
思考を巡らせうつ向くリチアの様子を見て、話を続けた。
「魔女の力は魔物のものとは違う。大事なことは想像と思いの力……、魔女が直したいと強く思ったゆえの発動だったのかもしれないな」
「でも……、無意識にまた使ったら……」
「安心させるような事は何も言えないが、徐々に力に慣れていけばいい。発動の感覚と条件をつかめば、思いのままに使用することもできる。人の身でできたことは謎だが、それも旅を続ければ、何か分かるかもしれないしな」
解決することのない悩みでも、話したことで少しは楽になった気がする。
夜はまだ長く、緊張と慣れない戦闘につかれた体は、話終わるとすぐに眠りについた。
朝になり日の光によって目を覚ます。
あの後、夢を見ることなくよく眠れた。
「おはよう。調子はどう? 痛いところはない?」
声をかけてきたのはアスターだ。
夜の話を知らない彼は、心配そうにこちらを見ている。
「おはよう。寝たらだいぶスッキリしたよ。昨日は急に倒れたみたいでごめんね」
「気にしなくていいよ。驚くことはあったけど、リチアが無事なら問題ないさ」
「ありがとう。でも……ちょっと筋肉痛かも」
そんな話をし、笑い合って今日という1日が始まった。
アスターやシオンも大きな怪我がなかったのは幸いだ。
目的の一つの記憶の手掛かりは、残念ながら何も無かったことに落胆したが、まだ諦めたわけではない。
滞在時間も短かったので、見ていないところは多くまだ希望はある。
騎士も追ってくる気配がなく、思いの外ゆっくりとした時間を過ごすことができた。
「メアとミア、焦ってるかもしれないな……。」
身支度を整え、歩を進めるうちにアスターはつぶやく。
彼女達の見立てでは、騎士がほぼいない状態、ましてや上級騎士の話など無かった。
鉢合わせを目撃していればその焦りを想像するのは容易だ。
「仕方ないよ……戻ってきたばかりだったかもしれないし。見てるなら、あの場から離れてるのも確認できてるはずだし大丈夫だよ。……もしかしたらこの話も聞いてるかもね」
「そうだなー……。こっちは大丈夫だから自分達の仕事頼むよ」
家の方へと向かい話す。
見るか聞くかしていれば、彼女達も少しは安心できると信じて。




