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セバスチャンと私  作者: 海老茶
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第94話 Ending ver.Y

※第93話の続きです。

※R15です。過激なシーンがあります。

その日は冬らしい清廉な空気に満ちていた。


雲一つない青空が、まるでアンジェリカの門出を祝ってくれているかのようだ。


いま、アンジェリカは執務室の前に立ち、己の将来を決める選択をするべく、父親と話し合う。


アンジェリカは息を吸い、大きく吐いて扉をノックした。




「ーーそれで、決まったのか?」


無駄をーーいや、面倒事をーー嫌う父らしい聞き方だった。彼は理由を求めているのではない。いつだって、ただ結果しか求めていなかった。


そんな老獪な父親相手に出来ることは、せいぜい虚勢を張ることだけだ。


アンジェリカは目を細めてニッコリと笑って告げた。



「私は、ユーイン・ストックデイル様と結婚します」



そう言い切ったアンジェリカを、興味深げに見つめてウィリアムが問う。


「…ほう、意外だな。バートの馬鹿息子を選ぶかと思ったが」

「ソーンリー様では、結びつきが強くなりすぎてしまいます」

「まあ、そうだな」


ソーンリー公爵家からは、縁切りされたとはいえすでにヴィクトリアが嫁いでいる。確かに、これ以上の結びつきは不要かもしれない。


「3人とも、私には過分なほど素晴らしい男性です。お人柄も好ましく思っております。ならば、ソーンヒル家が縁を結びたい方を選びました」

「……お前が家を気にするとはな。確かに、ストックデイルとは関係を強めておきたい家の一つだ」


アーロン・ストックデイルは、多少アクが強いが、悪い男ではない。


ーーこちらとしては、最も望ましい婚姻先だ


ウィリアムの瞳がギラッと光る。涼しげに微笑むアンジェリカを見て、ウィリアムは手を打った。


(グッド)!では先方にそう返答しよう」

「ありがとうございます」


ニッコリと微笑んだアンジェリカを、ウィリアムは上から下まで眺める。ーーその自然な笑みに嘘が無いことを知り、娘は案外見る目があると高く評価した。



++++++++++



後日、婚約のためにストックデイル領を訪れたアンジェリカは、一族の歓待を受けた。


アーロンはソーンヒル公爵との結びつきを大いに喜び、ウィリアムと二人で酒を酌み交わしていた。

義姉となるエレインにも笑顔で迎えられ、アンジェリカは安堵の息を吐く。「強くて素敵なノエル騎士団長様をご紹介下さいましね」と艶を含んだ声でお願いされたのには、ちょっと驚いたけれど。


婚約の書面を交わし、ユーインはアンジェリカを自分の部屋にエスコートする。

バルコニーから見る景観は、夏に案内された丘からの光景のように美しい。


「ここからでも、港が一望できる」

「ええ。あの丘のようですわ」


…覚えていてくれたのか、と嬉しそうにユーインはアンジェリカを背後から抱きしめる。つむじにキスをして、ユーインは言った。


「これからは、この景色が貴女の日常になる」

「はい」

「…貴女がなぜ俺を選んでくれたのか、聞くのが怖いよ。多分、好感半分と家の利益半分ってとこだろう?」

「好感は8割ですわ」


クスクス笑って、アンジェリカは答える。悪びれもせず、当然のように。


「8割も好かれていたんだ!」

「好きな殿方でなければ、結婚しませんわ」

「…では、これからその2割を埋めよう」


ユーインはアンジェリカのおとがいを持ち上げ、その潤んだ唇を己のそれで塞ぐ。ちゅっちゅと啄むようなキスに、アンジェリカが笑う。その刹那、ユーインは舌を入れ込んだ。アンジェリカの舌に絡ませ、その柔らかさを堪能する。


ーー甘い…


女性の舌がこれほど甘いとは。ユーインはこれまで経験したことのない感覚に酔いしれる。

目を開けると、アンジェリカの長い睫毛まつげが見えた。深いキスに耽溺しているようで、頬が紅潮している。


ーー可愛い…!


ユーインは夢中になって、アンジェリカの口腔内を犯す。唾液を分け合ったところで、ようやくユーインが唇を離した。

くったりと力なくアンジェリカはユーインの胸にもたれる。そのしどけない姿に興奮しながら、ユーインは耳元で囁く。


「2割は埋まったかな…?」

「…まだ、分かりませんわ…」


アンジェリカの瞳に情欲が浮かぶ。「では、もっと埋めようか」とユーインは己の熱を分け与えるように、アンジェリカに溺れた。



++++++++++



アンジェリカとユーインはスキップして卒業し、春になったら結婚することになった。


残り少ない学園生活だが、アンジェリカはそのほとんどを学園ではなくストックデイル領で、奥様勉強と結婚準備に費やした。それでもたまに学園に行くと、アンジェリカはリリアンと楽しく過ごす。


そんな折、アンジェリカはリリアンから相談を受けた。


「アンジェリカ様、いま私は王家から監視されています」

「…ええ、そうでしょうね…」

「王様から条件を突きつけられました。3王子の中の誰かと結婚するか、生涯結婚せず王城に留まり『聖女』の役目を全うするか…」

「それは…」


それは、『リリアン』という優秀な個性を埋没させ、あまりにも勿体ない選択肢だ。…なんということを…。

アンジェリカが眉をひそめると、リリアンが少し明るい声で言った。


「でも、宰相様がもう一つ選択肢を増やして下さったのです。その…ソーンヒル公爵家と関係をもつことを」

「え?それは…どういうことなのでしょう?」

「多分ですが、養子になるか、ご兄弟とけ、結婚するか、とか…」


語尾が段々小さくなり、代わりにリリアンの頬が段々赤みを増す。


ーーあらあら。


この反応、結婚するなら私の兄様が良いということか。アンジェリカの胸が弾む。


「リリアン嬢がお嫌でなかったら、私の兄と結婚なさらない?」

「そ、そそそそそそんな!私ごときがルーカス様のお嫁さんになんて…!」


あ、本命はルーカス兄様だったのね、とアンジェリカの顔がニヤける。


「リリアン嬢が私のお義姉様になったら嬉しいわ」

「お義姉様…アンジェリカ様の…お義姉様…!」


ナニソレ美味しいっ!とリリアンが夢みるようにうっとりする。そんな幸せで良いの?罰が当たるんじゃないの?!とリリアンは赤くなったり青くなったりした。


「では、第3の選択肢でよろしいですわね?」

「…はい。よ、よろしくお願いします…」


最後は顔を真っ赤に染めて、リリアンが頭を下げた。



こうしてリリアンはルーカスの妻となり、アンジェリカの義姉として、堂々と遊びに行き来するようになったのだった。




リリアンと別れた後、馬車の中でユーインが尋ねた。


「リリアン嬢と何を話していたの?」

「リリアン嬢の未来を」


アンジェリカは掻い摘まんでユーインに説明する。すると、ユーインは瞬きを二回して、ため息をついた。


「それなら、第4の選択肢として、ノーマンの嫁でも良かったじゃないか…」


それならアンジェリカとリリアンはいつも傍にいれるだろう?ノーマンにはしっかり者の嫁さんを迎えて欲しいし、とユーインはガッカリする。

そんな婚約者の可愛らしい姿に微笑んで、アンジェリカは告げた。


「リリアン嬢が好きなのは、私の兄ですもの。ノーマン様には、他を当たって頂きたいわ」

「そっか、それなら」


ユーインはスルッとアンジェリカの腰を抱き、深い口づけをする。


「…ン…」


アンジェリカの身体から力が抜けるのを感じて、ユーインはその豊かな胸に触れた。


ーーうん!アンジェの胸は最高っ!


ユーインの手よりも大きく、ふかふかな触り心地。揉むと弾力のある胸ははち切れんばかりに押し返す。頂は美しい桃色で、「食べて」と言わんばかりにツンと立ち上がっている。


ユーインは馬車の中で思う存分、アンジェリカを堪能したのだった。





数ヶ月後、ユーインはアンジェリカを妻に迎え、ストックデイルは益々賑わいを帯びる。


海の敵にはノーマンが、陸の敵にはユーインが無敵を誇り、ストックデイルはこれまでで一番の発展を遂げた。


ユーインはこれまで浮名を流していたが、結婚後は一切浮気せず、妻を溺愛していることで有名になる。公式の場だろうと非公式だろうと、彼は常に妻を伴い、妻に触れ合い、妻を離さなかった。


アンジェリカも残り2割の思いをすぐに埋め、ユーインを支えユーインを愛して幸せな毎日を過ごしていた。




++++++++++




花が綻び柔らかな日差しが暖かい季節。


自領に引きこもったエルドレッドに、招かれざる客が訪れた。


誰に取り次いだのでもない。おまけに、玄関から来たのでもない。勝手に邸に入り、勝手に執務室に押し入った。


「…何の用だ?」

「久しぶりに会ったんだから、もう少し温かい言葉が欲しいね、先輩」


エルドレッドはジロリと睨むが、侵入者は全く怯まない。


ソーンリー家は、武力の家柄。護衛も少なく、自衛が基本だ。家訓は「弱い奴は死ね」。


もちろん、国内では両手、あるいは片手にさえ入るほどの剣術使いであるエルドレッドだ。真正面に闘えば、誰にも負けない。


だが、目の前の侵入者は蛇のように狡猾な男だった。しれっと居座り、こちらが放つ殺気にも全く動じない。


ーー腹から上がる怒気を隠さず、エルドレッドは低い声で言い放った。


「帰れ」


言うなりうち窪んだ瞳をギラつかせて、エルドレッドは抜刀する。


「用が済んだら、すぐに」


肩をすくめて、侵入者は合図した。


「……!こ、れは…!」

「先輩は強いから、闇魔法で拘束させてもらったよ」


これほど高度の闇魔法…!使い手はセバスチャンか、それともヤツの抱える暗殺組織か…。


侵入者はエルドレッドに近寄って、剣を持った利き手をベロリと舐める。2回…3回。


「『己が剣で心臓を貫け』」

「ぐっ…!」


侵入者が呪いの言葉を吐くとともに、闇魔法が消える。だが、侵入者の呪いは、いかなエルドレッドでも抗えるものではなかった。抜刀した剣が、そのまま自分自身の心臓を貫く。


ーー断末魔は、短かった。



「うん。これで憂いはなくなった」


侵入者はエルドレッドの亡骸を眺め、安堵するように言った。そして行きと同様、帰りも断りもなく邸から出ていった。






「お帰りなさい、ユーイン」

「ただいま、愛しい人」


ユーインは自宅に戻ると、出迎えた妻にキスを贈る。


「ずいぶん遅かったですわね。どちらへ?」

「ちょっと、野暮用だよ。はい、これお土産。アンジェが好きな紅茶だよ」

「まあ!ありがとう、ユーイン!」


紅茶を受け取って、花のように微笑むアンジェリカ。


ーーああ。好きだな…


ユーインを信頼し、ユーインを愛しんでくれる笑顔。ユーインは毎日アンジェリカを好きになる。


ユーインは愛しい妻のお腹を優しく撫でて、もうすぐ産まれる子供に思いを馳せた。





END



これで終わりです。皆様はどのルートがお気に召したでしょうか?

アンジェリカだけでなく、リリアンも裏ヒロインとして各ルートで別な道を辿っております。

「タイトルの割にセバスチャンが活躍してない」と思います。こればっかりは…本当にすみませんです。そもそもセバスチャンはじじいという設定だったので…。(※言い訳)


長々読んで下さり、誠にありがとうございました。


※言い訳という名の補足

ユーインはスペルを『Ewen』と綴るのですが、エルドレッドと区別がつかなくなるので、分かりやすく『Y』にしました。『Yu-Ying』的な。

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