第91話
※R15です。過激なシーンがあります。
ストックデイル領は隣国・ドゥムノニアの急襲を受け、大混乱の最中にあった。
領主自ら陸軍を率いて兵士を鼓舞し、民を安寧させ、敵を蹴散らす。
だが、海から軍艦が押し寄せ、大砲を打つ。こちらの海軍も威嚇用に出してはいるが、出来れば息子に指揮させたい。
とジリジリしている深夜、ついにノーマンが到着する。
「ユーインは?」
「時間差で到着します。僕がまず先行しました」
「よし、ノーマン、海軍を頼んだ。一艦残らず撃沈しろ!」
「了解!」
深夜にもかかわらず、ノーマンは元気に飛び出した。その頼もしい姿を見送って、アーロンは反転した。
「よし、てめえら!奇襲をかけるぞ!目にものを見せてやる!」
おおー!と意気揚々にアーロンは再出陣した。
ノーマンは艦隊戦が得意である。政治や陸上の戦術はユーインに及ばないが、艦隊戦ならユーインにも、父親にさえも負けない。
ーーこうなると、僕が先に戻って正解だったね
割と慎重なところがあるユーインは、恐らく到着が早朝になるだろう。
それまでにこの夜襲を成功させ、敵艦隊を帰国させたい。
真夜中の航海は御法度。死亡率が上がるだけだ。だが、ノーマンは夜襲を得意としている。彼は、死亡率を上げるのではなく、勝率を上げる夜の攻め方を考案した。
ーー光魔法と水魔法を駆使する、彼ならではの方法だった。
敵艦隊は、三時方向50海里の場所で停滞している。真っ暗闇の中、静かにストックデイル艦隊は進む。この海は、ノーマンの遊び場。目を瞑っても動ける自信がある。
ノーマンは水魔法で故意に波を立て推進力を上げ、ノットを速める。あっという間に敵艦隊を包囲し、光魔法で固定した。
ーーいやー便利!光魔法最高っ!
足止め程度の固定魔法だが、奇襲には十分だ。
「全艦一斉砲撃!撃てっ!」
ノーマンの合図で敵艦隊への砲撃が開始される。ーーそれは、一方的な虐殺だった…。
++++++++++
バシャッと顔にバケツ一杯の水を浴び、アンジェリカは目を覚ました。
少しだけ漏れ出た光から、アンジェリカは目の前に立つ女の顔を判別する。
「ようやくお目覚め…?」
「…マスグレイヴ様…」
パアン!と高い音を立てて、アンジェリカは頬を叩かれた。口の中に鉄の味を覚える。少し切ったようだ。
「いいザマね、アンジェリカ。貴女を穢したら、エルドレッド様はどう思うかしら?」
「さあ」
パアン!と今度は右頬を叩かれた。それでも、アンジェリカはアデラインを睨む。
「おいおい、それくらいにしとけ。価値が下がるだろ?」
若い男がゆっくり近づく。
「久しぶりだな、ソーンヒル。俺を覚えているか?」
「…痩せましたわね、ヤードリー様」
「…ふん。没落したからな。貴様のおかげで」
別に私のせいではない。貴方達が金を返さないのが悪いのだ、とアンジェリカは思う。ーー賢明にも口をつぐんだが。
「ふうん。スタイルいいな、アンタ」
「…どうも」
アンジェリカのふてぶてしい態度に腹を立てたのか、ヤードリーは制服を引き裂く。
すると、豊かなアンジェリカの白い胸がまろび出た。
「綺麗なおっぱいだな…。乳首もまだ桃色だ」
ヤードリーはおもむろに両手でアンジェリカの胸を揉みしだく。ペロペロと乳首を舐められ、アンジェリカに鳥肌が立った。
「……っ!」
「どれ?下もまだ触れられたことのない花園か?」
片手で胸を弄りながら、ヤードリーはアンジェリカの下半身に触れる。ビクリとアンジェリカの身体が跳ねた。
「ーーチッ!ちっとも濡れてねぇな」
「若様!俺たちにもおこぼれくださいよ~!」
しょうがねぇな、とヤードリーはアンジェリカから手を離し、横にズレる。するとすぐにチンピラと覚しき数十人の男どもが群がった。
「うへぇ…。こんなキレイな身体、初めて見た…」
「見ろよ!乳首が桃色だっ!美味そう~」
「堪んねぇな…」
男どもに揉みくちゃに触れられる。恐怖と嫌悪から、アンジェリカから大粒の涙が零れて叫んだ。
「いやあぁああああーっ!」
その刹那、アンジェリカから大量の光が放たれて、群がった男どもが全員吹っ飛んで気絶した。
「こ、これは…!」
アデラインが声を震わせて野蛮な男どもを眺める。ーーまさか、アンジェリカがやったのか?ここには魔法の発動を打ち消す呪術をかけたハズなのに…!
アンジェリカもしばし呆然とした。引き裂かれた制服を見つめ、アンジェリカはハッと気付く。
ーーリリアン嬢…!
これは、リリアンのブローチから放たれた聖魔法だ。彼女の献身的な愛が、いまアンジェリカを救ってくれた。
ーーああ…!
アンジェリカから温かい涙が流れる。ーー今度は、嬉し涙だった。
「こ…こうなったら…!」
アデラインはナイフを取り出し、両手で柄を握りしめる。
「貴女がいる限り、エルドレッド様は私を愛してはくれないの。……だから、死んで?」
狂気じみた瞳でアンジェリカを見つめ、アデラインが力を込めるその瞬間、入口から大きな声が上がった。
「アンジェリカ!」
地下室に乗り込んだ男が、咄嗟にアデラインを蹴り上げる。ぎゃっ!と叫んでアデラインは倒れた。
「アンジェリカ、無事か?!」
震える手で、男は優しく触れる。すると、安堵からアンジェリカはまた涙をこぼした。
「……エルドレッド、さま…」
「ああ、アンジェリカ…!こんなに乱暴されて…!」
太い鎖で吊されていたアンジェリカだったが、エルドレッドはいとも簡単にその鎖を切断した。安堵から意識を失ったアンジェリカを優しく抱きしめる。
「間一髪、だったな。だが…本当に無事で良かった…。執事君、アンジェリカを頼む」
「はい」と返事をして、セバスチャンはアンジェリカを抱きとめた。セバスチャンの手が震える。制服が引き裂かれた姿を憐れんで、セバスチャンは上着を脱いでアンジェリカに掛けた。
ユラリとエルドレッドは動いた。アデラインの前に立ち、その顔を蹴り上げる。
「がはっ!」
「…貴様如きがアンジェリカに傷を付けやがって…!」
「あ…愛されたかったのです!貴方に、どうしても…!」
「僕は言ったはずだ。『邪魔をしたら、容赦しない』と。ーーさようなら、マスグレイヴ嬢」
何の躊躇いもなく、エルドレッドはアデラインの首を刎ねた。ーー断末魔すら響かなかった。
「そこに転がっているヤードリー以外の男は、全て殺せ。ヤードリーは公爵家で尋問する。ーー行け!」
「はっ!」
エルドレッドは配下にそう命じて、一行は地下室を出る。ーー朝日が眩しい。
エルドレッドは腹の虫が治まらない。助け出した時、アンジェリカは頬を腫らし、服は裂け、豊かな胸は唾液で光っていた。純潔は散らしていないが、あの白く美しい胸が男どもに穢された。
ーーヤードリーとマスグレイヴ如きが…!
余程怖かったのだろう。エルドレッドを見た瞬間に、ホッとしてアンジェリカは崩れ落ちた。しかも、初めて名を呼んでくれた…。
彼女への愛は少しも変わらない。だが、自分の腑甲斐なさを、エルドレッドは痛感した。
「……執事君、アンジェリカちゃんを頼む」
「ソーンリー様はどちらに?」
「ヤードリーを尋問する。背後関係を知りたい」
「…畏まりました。この度は主人を救ってくださり、誠にありがとうございました」
丁寧に、だがしっかり頭を下げて、セバスチャンは心からの礼を言った。
エルドレッドは頷いて、セバスチャンの腕の中のアンジェリカを見つめる。
「…愛してるよ、アンジェリカ…」
そう呟いてアンジェリカの頭をそっと撫で、エルドレッドは踵を返した。