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セバスチャンと私  作者: 海老茶
34/98

第34話

陽が少し傾き、徐々に夕方に近づく頃。

アンジェリカはアレクサンドルにエスコートされ、東屋に立ち寄る。

腰をかけると、二人して安堵のため息を大きくはいた。


「……殿下」

「……分かってる。君には迷惑をかけた。だが毎日果てしなく声をかけられて、いい加減疲れてきたんだよ」


アレクサンドルはもう一度大きく息をはいた。アンジェリカが「お疲れ様です」と声をかけると、「ありがとう」と返された。


「そういえば、アンジェリカ嬢。私に話があるのでは?」

「ええ、そうです。夏休みの事ですけれど……」

「アンジェリカちゃんー!」


大きな声で名前を呼ばれ、思わず顔を上げる。すると、目の前にエルドレッドが現れ、すでに抱きつかれていた。


「無事?アレクサンドルに何もされてない?」

「……おい」

「無事ですけれど……一体何事ですの?」


突如抱きつかれ、驚く間もなく妙なことを言われる。おまけに、殿下との会話をぶった切られた。エルドレッドはどうしたというのか。


「さっき、ハドルストン嬢とぶつかったんだよ。そしたら、彼女、『ソーンヒル様と殿下が…こ、恋人関係に…!』とか言うから!」

「……彼女がそう言ったから、どうしたんだい?エル」

「焦って、彼女をリオンに突き飛ばして、君たちを探しに来たってわけ!間に合って良かった~!」


もう一度きゅっと抱きしめられる。すると、どこからか現れたセバスチャンに引き剥がされた。

セバスチャンはそのまま茶菓子を給仕する。


「エル……。君、ガスコイン君に押しつけて来たのか、ハドルストン嬢を」

「何だよ。元はと言えば、アレクが悪いんじゃないか!もっと上手くあしらいなよ!」


怒りながらも、ちゃっかりアンジェリカの隣を確保するエルドレッド。その見事な手腕に、セバスチャンが苦笑する。

はあ、とアレクサンドルが三度目の大きなため息をつくと、リオンの非難する声が近くなった。


「エルドレッド様!酷いじゃないですかー!」

「あ、もう追いついたの?」

「もちろんですよ。俺を犠牲にしてくれて…!」


全く、卑怯ですよ、とブツブツ文句を言いながら、リオンも空いてる椅子に腰掛けた。


「もうちょっと時間稼ぎしてくれても良いのに。早すぎない?」

「生憎、俺が気に入らないみたいで。エルドレッド様が俺に押し付けた後、あのご令嬢は舌打ちして『お前じゃない』と言って、何処へ去っていきましたよ」

「………」


元気そうだね、と思わずアンジェリカとアレクサンドルは顔を見合わす。

アレクサンドルが笑うと、アンジェリカも微笑した。


ーーえっ!?


初めて……私を見てアンジェリカ嬢が笑った!警戒を少しは解いてくれたようだ。

嬉しい、という感情かな、これは。何だか熱い。


「……ちょっと、二人で世界作らないでよ」

「そう言えば、アンジェリカ嬢は何故ここに?」

「……ハドルストン様のいざこざに、私も巻き込まれたのですわ」

「そ、そう言えば、アンジェリカ嬢は夏休みの話があるのでは?」


やや強引にアレクサンドルは話を変えた。じと…と冷たい視線を浴びせながら、アンジェリカは言う。


「……そうです。夏休みの事ですけれど、夏休み中はリリアン嬢をどうなさいますの?」

「「「あ」」」


男三人は、リリアンのことをそっちのけであった。聖女なのに。


「彼女、多分天涯孤独の身ですから、寮に残らざるを得ないと思うのです。そうしたら、どなたが護衛することになりますの?」

「うん、そうだね。正直思い至らなかったけれど、アンジェリカ嬢の言うとおりだ。彼女には護衛が必要だね」

「うちの騎士を貸そうか?」

「私の“影”でも良いのだが……。この際だ、別荘に招待しようか」

「ええ~」


と不平を鳴らしたのは、エルドレッドだ。アンジェリカとの仲を邪魔されたくない、という一心で不満を漏らす。


「僕がリリアン嬢に騎士をつけるよ」

「いや、出来ればごく自然な形で、彼女を父に紹介したい。アンジェリカ嬢はどうかな?」

「よろしいですわ。リリアン嬢をご招待なさっても」

「アンジェリカちゃんまで……」


いつも行き場が無さそうな様子の、リリアン嬢。アンジェリカには彼女の姿が、まるで捨て猫のように思える。


ーー招待するのは、やぶさかではないわ


それに、父にも彼女を見せたい。おそらく、宰相閣下(ちち)は『聖女』の存在を承知しているはずだ。


「分かった。リリアン嬢も呼ぼう」

「では、全員で5人ですね。レクサム領主に伝えておきます」


リオンの言葉に、全員が頷いた。



++++++++++



木蔭でランチを取りながら、アンジェリカはリリアンに夏休みのことを話した。


「で、でも……。私なんかが貴族様の別荘にお邪魔しては……ご迷惑では……」

「いつもの5人しかいないから、安心してくださいまし」

「正直、助かりますけれど……。お言葉に甘えてしまっても、よろしいのでしょうか……?」

「もちろんですわ。殿下も心待ちにしておりますから」

「え……」


それはちょっと嫌だな、と不敬なことをリリアンは思った。一部には大変不人気の、アレクサンドルである。


ーーこうして、ソーンヒル様とランチをご一緒しているだけでも……ご迷惑をおかけしているのに……


リリアンは、自分が何を言われようと諦めているが、リリアンと一緒にいることで、最近はアンジェリカが非難されている。


『あんな平民と一緒に行動するなんて、頭がおかしい』と。


ーー私って、ソーンヒル様を貶めるだけの存在なんだわ……


優しくしてもらって、舞い上がってしまった。私は孤児で平民で、ソーンヒル様の何一つお役に立てない。


「ご一緒して下さると、嬉しいわ」

「えっ!」

「男性ばかりで、困っておりますのよ。リリアン嬢がご一緒して下さるなら、私、とても助かりますわ」

「……ソーンヒル様……」


やっぱりソーンヒル様は優しい。私が承諾し易いように話してくださるのだもの。

ーーとモダモダ悩んでいると、柔らかく美しい手が、リリアンの手を包んだ。


「お願いしますわ」


ーー小首をかしげて、お願いされました!

尊い!尊くて死ぬ!!


リリアン嬢の脳内はお祭り騒ぎだ。


「で、では、図々しいですが、よろしくお願い致します」

「こちらこそ、よろしくお願いしますわ」


ふんわりと微笑むアンジェリカ。「尊い…!」と、涙目で喜ぶリリアンであった。



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