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セバスチャンと私  作者: 海老茶
32/98

第32話

よく見ると、ジョアンナ・ハドルストンは同じクラスだった、とアンジェリカは思った。


よく発言し、よく活動する。積極的で親身なその姿は、誰の目にも好意的に映る。彼女の取り巻きも多い。


ーー優秀な方ですのね


アンジェリカはそう評価したが、彼女に微塵も興味を持てない。その辺の令嬢とそう変わらない様子に、正直なところ他の令嬢と区別がつかなかった。


ーー生徒会なんて、やりたい方がやれば良いのに


怠惰なアンジェリカは、恐らくジョアンナに嫌われることだろう。敵を作るために生徒会にいるわけではないのに。


チラリと横を見ると、ストロベリーブロンドが目に入った。そういえば彼女は、夏休みをどう過ごすのだろうか。


彼女自身は、己の存在が極めて稀有な『聖女』であることを知らない。だから、自己防衛の意識は持っていないだろう。おまけに平民出身だから護衛も侍官もおらず、とても不安定ーーいや危険な立場だった。


アレクサンドルは、彼女の立ち位置をどう考えているのか。

現況からみると、付かず離れず、といった(ライン)を守りたいようだ。王家としては、王族に組み入れた方が手っ取り早いだろうに。


ーー王子は3人。誰かが彼女と婚姻してしまえば良い


アンジェリカはそう思う。面倒ごとをこちらに持ち込まないで欲しい。アレクサンドルに興味がないならば、第2、第3王子で良いではないか。


彼女が倹しい生活から脱出し、命の危険も脅かされることがなくなるのは、アンジェリカにとっても嬉しい。

ーーと感じるのは、アンジェリカが周囲の人々に振り回されている証左である。


ーー色々面倒なことになったわね…


正義感とか責任感とか、縁遠い存在でありたいのに、知らないうちに巻き込まれているアンジェリカであった。





さて、正義感とか責任感とかが大好物のジョアンナは、憧れの生徒会に入って絶好調であった。

己の研鑽もさることながら、嫁ぎ先探しにも余念が無い。

いわゆるフツーのご令嬢であるが、自己研鑽に力を入れる分、マシな女性だというのが、アレクサンドルの評価であった。


「会長、こちら資料を用意しました」

「ああ、ありがとう」

「この案件は、寄付金を増額することでよろしいでしょうか」

「そうだね、それでいいよ」

「会長、先ほどの件は……」


優秀で活動的。生徒会員としては、アンジェリカなどより遥かに貢献している。


ーー殿下に”出来る女“をアピールしなくては!


そして、婚約者に私を選んで欲しい。そのための努力は惜しまない。そして、従姉妹のような失敗はしない、と強く誓うジョアンナであった。



ふと眺めると、アンジェリカが相変わらず退屈そうにしていた。ジョアンナが声をかける。


「ソーンヒル様は、如何お考えになりまして?」

「……ハドルストン様のご意向でよろしいと存じますわ」

「まあ…。私なぞ、まだまだですので。出来ればご指導下さるとありがたいのですけれど」

「ご謙遜ですわ。ハドルストン様の方が、よほど優秀でいらっしゃいますわ」

「そんな…」


ジョアンナは目を見張った。アンジェリカは自分の能力を誇示しないばかりでなく、他者を認める度量もあるというのか。


ーーまさか、ソーンヒル様も殿下の妃になりたいのかしら…?


貞淑な女性を演じているように見える。そこに意図があるとするなら……やはり、王家に気に入られたいのだろう。


ーー殿下、お気をつけになって…!


精一杯の慈愛を込めて、ジョアンナはアレクサンドルを見つめた。アンジェリカに惹かれないよう、騙されないよう、注意を喚起した瞳で熱く、強く……。



ーーってハドルストン嬢の思惑通りの女性なら、もう少し嬉しいんだけど……


アレクサンドルはジョアンナの注意喚起を聞き取り、考えた。

ジョアンナはまだまだ考えが浅い。アンジェリカのあの態度は、本物なのだ。生徒会などどうでも良いし、まして私なぞ、魔王扱いである。


ーー? 私は……ソーンヒル嬢に想われたいのか……?


少なくとも、警戒は解いて欲しいアレクサンドルであった。



++++++++++



陽が落ちて、自室に戻ったエルドレッドとアレクサンドルが語り合う。


「アレク、なんでハドルストン嬢を生徒会に入れたのさ!」


ウンザリした口調で、エルドレッドが詰問する。


「ソーントン家への牽制だよ」

「従姉妹を贔屓にして、内輪もめを誘うの?」

「それを含めた色々さ(・・・)

「君が決めたんだから、君が責任とってよね!」

「うん?」

「僕にまでアプローチしてくるんだよ、彼女。僕、彼女の匂い好きじゃないから、鬱陶しくて」

「いつものことじゃあないか」

「何言ってるんだよ。君が引き入れたんだろ?君が誘惑して、僕にとばっちりが来ないようにしてくれよ」


はぁ~と大きなため息をついて、卓上(テーブル)にうっぷすエルドレッド。


ーー僕は本気でアンジェリカが好きなんだ。

だから邪魔しないでくれ


と本気でこちらを非難している。


「アンジェリカちゃんを婚約者に出来たらな~。もうこんな面倒ごとはなくなるのに……」

「……それ程、惚れたのか」

「メロメロだよ」


とエルドレッドが顔を桃色に染めて、幸せそうに呟く。


「彼女は、僕のマタタビだよ。匂いを嗅ぐ度、もう爆発しそうになる」

「……猫か?君は犬だろう?」

「……殴ってもいいかな?」


ギラリと睨んでも、アレクサンドルは平然としている。

それにしても、人当たりは良いが実は女嫌いなエルドレッドが、これほど女性に入れ込むとは。


アレクサンドルは、改めてアンジェリカを思う。

私を見て怯える変わった女性だ。

私を見て媚びない稀有な女性だ。

私を知って……嫌悪しない女性だ。


目を閉じ、アンジェリカの姿を思い浮かべる。いつだって、彼女は私と目を合わせない。目を合わせても、エメラルドの瞳は冷たいままだ。

そこで、アレクサンドルは気付く。彼女が私に微笑んだことがないことを。


ーー笑ってくれたら、どんなにか……


アレクサンドルのこの気持ちに、名前はまだない。だが。


彼女(アンジェリカ嬢)は、王子妃の冠が似合いそうだな」

「!!」


何言ってんの!?ダメだよアレク!!というエルドレッドの怒声が遠く感じたアレクサンドルであった。



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