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セバスチャンと私  作者: 海老茶
25/98

第25話

部屋に戻ると、執事が仁王立ちで待ち構えていた。


「お帰りなさいませ、お嬢様」

「ただいま戻りましたわ。セバス、お父様は如何でしたか?」

「お変わりございません」

「そうですか」


部屋着に着替えるため、隣の部屋に移動しようとするアンジェリカを、セバスチャンが引き止める。


「……紅茶を用意致しました。お座り下さい」

「着替えてくるわ」

「お話があります」


有無を言わせないセバスチャンの口調に、アンジェリカが折れた。ため息をついて、席につく。


幻影(ファントム)から聞きました」

「……そう」


相変わらず、有能すぎる影の護衛(ファントム)である。それを手先として使うセバスチャンの実力が恐ろしい。


「ソーンリー様と抱き合ったとか」

「正確に言えば、抱きしめられたのですわ」

「お嬢様」


腕を取られ、セバスチャンに抱きしめられた。


ーー護身術でも覚えようかしら…


アンジェリカは、あまりに簡単に腕を取られてしまうこと、ようやく危険だと認識した。


「ソーンリー様に、告白でもされましたか…?」

「されましたわ」

「どうお答えに?」

「何も答えていませんわ」

「……そうですか……」


ソーンリー様は流石ですね、とセバスチャンが耳元で小さく息を吐く。

今すぐの答えを求めてくれれば、アンジェリカはにべも無く断っただろう。

だが、エルドレッドは気長に待つから、最終的には自分を選んで欲しいと告げただけで、答えを求めなかった。


ーーお嬢様の性格を知った上での行動だ


エルドレッドの本気を、セバスチャンは強く感じた。


「まぁ、ソーンリー様は手練れですから。ボンヤリしているお嬢様を抱きしめることなど、造作もないですね」

「ボンヤリ……。強い悪意を感じますわ、セバス」

「当然です。お嬢様の隙だらけな点を非難していますからね」


やっぱりか。説教コースになると思った!

とアンジェリカはセバスチャンの腕の中で、ゲンナリする。


すると、つむじにセバスチャンの唇が落ちた。思えば、いつの間にかセバスチャンは躰付きが男らしくなり、背が高くなった。


ーー初めて会った時から、美しい少年でしたけれど…


今は精悍さが増して、美しさに凄味が出た。全方位の女性から、悲鳴が上がるほどの美形である。


アンジェリカは、セバスチャンの顔の造形には興味がなかった。彼女は、セバスチャンの持つ美しいオーラをこそ、愛してやまない。


彼のオーラの色が変わらない限り、アンジェリカはセバスチャンを愛し続ける。


こうしてアンジェリカを抱きしめている今も、セバスチャンのオーラは、愛すべき色のままである。


「……お嬢様は、ソーンリー様をどうお想いなのですか」

「彼の持つ雰囲気は、とても好ましいわ」

「男としては?」

「考えたことがありませんわ」


セバスチャンは、ハァと大きな大きなため息をついた。このお嬢様は、恋愛脳0%の幼子なのだ。


ーーこうして、力を抜いて素直に抱きしめられているのも、俺を男として見ているからではない。


セバスチャンは、アンジェリカに拾われてから、アンジェリカだけを見つめてきた。主人として心酔し、心から慕っている。1人の女性としても愛していることに気付いたのは、割と最近であるけれど。


もちろん、愛しい姫が横からかっ攫われるのを、セバスチャンは指をくわえて眺めたりはしない。ーー最終的には、主人を己のものにするつもりである。セバスチャンの野望は、冥くて強くて、執拗だった。


「では、お嬢様は誰のものでもありませんね?」

「誰のものでもありませんわ」


さあ、そろそろ開放してくださいまし、とアンジェリカはセバスチャンの胸を押す。

2人に少し空間が出来たところで、セバスチャンの頭が少し降りた。


ふわり、と唇に何かが掠める。



「お嬢様の(キス)は、私が最初に頂きました」

「……セバス……」

「学園に通うことになったのを、よかれと思っていましたが……。想定以上にお嬢様が好かれてしまい、作戦を変えることにします」

「貴方も、大概面倒な人ね…」


その作戦が何なのか、聞くのが怖いから言わないように、と釘をさして、アンジェリカは今度こそセバスチャンから離れる。

セバスチャンもアンジェリカを素直に開放し、夕餉の支度をし始めた。



++++++++++



翌朝、主従は何事も無かったかのように振る舞う。

どんなことがあっても、セバスチャンの紅茶は完璧な美味しさであった。


「いってらっしゃいませ、お嬢様」

「いってまいりますわ」



部屋を出て教室へ向かう足取りが重い。


ーーなんだか色々ありましたわね……


エルドレッドに抱きしめられて告白されて。

セバスチャンに抱きしめられてキスされて。


身辺が慌ただしくなってきたことに、アンジェリカはウンザリしはじめた。


男に興味がないとは言わないが、本能的に避けているのか、食指は全く動かない。


エルドレッドにしろセバスチャンにしろ、男性としてかなり上等な類なのだろう。アンジェリカの立場は、さぞや羨ましがられるものなのだろう。


嬉しくないわけではないが、それ以上に面倒くさい。アンジェリカは考える事を放棄して、成り行きに任せることにした。



重い足取りでボンヤリ歩いていると、前方にストロベリーブロンドが見えた。


「リリアン嬢」

「はい…? そ、ソーンヒル様っ!」


振り返って、リリアンが驚く。アンジェリカは柔らかく笑って、リリアンに話しかけた。


「試験結果を拝見致しましたわ。素晴らしい順位でしたわね」

「い、いえ。ソーンヒル様こそ、首席おめでとうございます」

「リリアン嬢の努力に比べたら、私の順位なぞカスみたいなものですわ。本当に頑張りましたのね」

「……ソーンヒル様……」


涙目になって礼を言うリリアンに、お昼の誘いをする。リリアンは顔を真っ赤にして、その誘いを受けた。



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