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セバスチャンと私  作者: 海老茶
21/98

第21話

「お嬢様、もう少し真面目を装った方が良かったのでは?」


爽やかな朝に、穏やかではない発言をする執事がいた。セバスチャンである。


「装うのも面倒ですわ」

「子どもじみたことを。お嬢様はもう少し駆け引きを覚えた方がよろしいですね」

「面倒ですわ」


豊かな金髪をとかしながら、セバスチャンは苦笑する。この美しい人は、その美しさでは賄えないほど、怠惰な女性である。


ーーいや、美しさは正義か


アンジェリカから美を引いたら、後に残るのは怠惰のみである。美しいということは、七難どころか、難を総て隠してくれる。


「そう言えば、王子はどうでした?」

「クロね。多分向こうも、私をクロだと思ってますわね」

「やはり……」


先日忍び込んで会話をしたとき、思念を読まれたとしか思えない発言があった。以降、セバスチャンは王子の前で必ず遮断魔法をかけている。


「……どうします?王子を始末しますか?」

「不穏なことを言わないでくださる?とりあえず後ろ暗い点はないから、王子(アレ)は放置でよろしいわ」

「畏まりました」


セバスチャンは、アンジェリカの剣であり盾であり、執事であり影であった。

セバスチャンの存在は、総てアンジェリカの意向に添うものである。ーーはず。


「こうなると、ソーンリーやソーントンも怪しいですわね」

「まさか!能力者がそんなにいてたまりますか!」


ゾッとしない話だ、とセバスチャン。そうね、確かにとアンジェリカ。アンジェリカにとって、能力なんてどうでも良かった。自分が利用する立場でもされる立場でも、彼女のやることは変わらない。


そんな不動の立ち位置を保持するアンジェリカが、セバスチャンはとても好ましかった。



++++++++++



大きな影が、アンジェリカの視線に入る。見上げると、目の前にリオンがいた。


「こんにちは、アンジェリカ嬢」

「ごきげんよう、ガスコイン様。何していらっしゃるの?」

「これから剣術の練習に」


模擬刀を片手に、はにかんで答えるリオン。ふと腕を見ると、中々に太い。きっと剣も強いだろう。


「そうですか。どうぞお気をつけて」

「あ、あの、もうすぐ試験ですよね」

「ええ、確かにそうですわね」

「その、ええっと……。良かったら、一緒に勉強して頂けませんか……?」

「まあ、私と?」

「は、はい。お嫌でしょうか……?」


チラチラこちらをうかがいながら、自信なさげにリオンは聞く。


ーーなんだか大きな犬みたい


アンジェリカは微笑する。


「嫌ではありませんわ。ただ、私、人に教えるとか人から教わるとか、不得手ですけれど」

「そんなこと!い、一緒に勉強出来るだけでも、勉強になります!」


意味が分かるような分からないようなことをいって、リオンはアンジェリカに迫る。


「それなら喜んで」

「ーー!ありがとうございます!」


抱きつかんばかりに、アンジェリカの手を握りしめるリオン。そこへ…


「あ、僕も混ぜて~」

「………ソーンリー様………」


明るく声をかけられる。

え?またこのパターン?!とリオンが涙目になった。


「混ざってどうするのです?貴方、2年生(セカンドグレード)でしょう」

「多分、僕よりアンジェリカちゃんの方が頭が良いと思うんだ。教えてくれない?」

「アンジェリカちゃん(・・・)


呆れ顔でエルドレッドを睨むアンジェリカ。「ちゃん」付けなんて、キモい。


「……気持ち悪いから、そんな風に呼ばないで下さいまし」

「いやいや、可愛いよ、アンジェリカちゃん。普段の大人っぽい君とのギャップに、萌え萌えだね~」

「……ソーンリー様、オヤジくさいですよ……」


ちょっと気持ちは分かりますが、と言いかけてリオンはやめた。アンジェリカに嫌われたくない。


「それじゃ、勉強会いつにする?」

「え?ソーンリー様も?」

「うんうん、よろしくね、2人とも!」


だから、1年生と勉強してどうするんだ…と言ってもきかないだろうから、アンジェリカたちは諦めてうなだれた。


「……ソーンリー様、魔王(でんか)は絶対に連れてこないとお約束して下さいまし」

「うんうん。分かった。アレクは連れてこないよ」

勝手についてきた(・・・・・・・・)という言い訳も、絶対にダメですわ」

「げげ、先読まれたか。うーん、保証出来ないけど、分かった」

「保証出来ないなら、勉強会は諦めて下さい」

「君たちね、アレクを舐めちゃいけない。魔王(アレ)は絶対に嗅ぎつけるんだ」

「では、ソーンリー様抜きで」

「分かりました!魔王なしで!!」


スミマセン、アレクに露見し(バレ)ないように頑張ります!と意気込むエルドレッドを見て、アンジェリカとリオンは顔を見合わせて思った。


多分、無理だろう、と。




「そもそも、試験ってどんな感じなんですか」

「ただの筆記試験だよ。実技試験を兼ねた大会は、もっと先の話だな~」

「大会?」


リオンが興味津々にエルドレッドに問う。頼りなく見えてもだらしなく見えても、先輩は先輩。聞けることは聞いておこう。


「魔法やら剣術やら、何でもあり(バーリトゥード)の試合だよ。2人一組で出るんだ」

「強制ですの?」

「一応、実技試験を兼ねてるからね。上位に入れば、ご褒美もあるよ。去年はアレクと僕が優勝したんだ~」


懐かしいように、エルドレッドが語る。

あの時はね、どの敵よりもアレクが怖かったよ~と事もなげに話すエルドレッド。


ーーちょっと引く。


「2人一組って、決まりがあるんですか?」


あわよくば、アンジェリカと…と下心丸出しなリオンがたずねる。


「同じクラスの人に限られるよ。だから君たちが組むことは出来ない」

「ぐっ!」


してやったり顔のエルドレッドと悔し顔のリオン。隣でアンジェリカは退屈そうに聞いていた。


「でも、その前に筆記だよ!僕、暗記モノはてんでダメなんだ!全然覚えていられない~!」

「ソーンリー様、本能的で直感的っぽいですもんね」

「分かる?リオン君。僕、もう、困ってて!」

「あら、殿下に教わればよろしいのではなくて?」

「……魔王(アイツ)が、素直に、教えると思う……?」


顔を青くして、エルドレッドが言う。


「「……思えません(わ)」」


異口同音に2人は言った。

結局、エルドレッドを見捨てられず、3人で勉強会をすることになった。



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