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セバスチャンと私  作者: 海老茶
19/98

第19話

日当たりの良い生徒会室に、爽やか風が入る。

最近は大分日差しが強くなってきたから、よく窓を開放するようになった。


聖アンドレア学園の生徒会には、特に活動義務はない。だが、今般は第1王子が会長に就任したことにより、不正を糺し不満を拾い上げ、学園の風通しを良くしていた。


ーー社会の縮図だな


アレクサンドルにとっては、国家運営の予行練習にもならないが、多少なりと経験を積んだ方が良いだろう。


彼には、実行困難な計画がある。誰を切り捨てようとも、いつか断行するつもりだが、まだ早い。


ーーまだ、今は我慢の時だ


アレクサンドルは17歳。来年には成人を迎えるが、この計画には、まだあと3年は欲しい。

雌伏の時を、アレクサンドルは学園で過ごしていた。



「今年の予算編成が終わりました」

「ご苦労さま、フェリクス」


会計担当から、予算編成資料を受け取る。その出来映えに、アレクサンドルは深く満足した。

フェリクスは、豪商の息子だった。平民出身だが恐ろしく数字に強く、恐ろしく損得勘定が上手かった。


「流石だね、フェリクス。社交部と魔法部の予算は削りたい。剣術部の不自然な金の動きは?」

「ジョージ・マカリスターを顧問として招聘しているようです」

「マカリスター氏を呼んだか。誰のコネだろう?わかった。剣術部は、これで良い」

「吹奏楽部は、前年同様でよろしいですか?」

「うん。これで良い。満点だよ、フェリクス」


二人は頷き合い、予算案が確定する。


背後では無言で議事録を作成し、たった今成立した予算案の清書をも作り始めている女性がいた。


『予算資料を完璧に作り上げる!』

『手柄は私のモノに!』


ーー毎日、飽きないなぁ…


とアレクサンドルは苦笑する。

彼女は、メリッサ・フェルトン。子爵令嬢だ。能力の高さは、誰もが認めるところである。そして、その野心の高さもーー誰もが認めるところなのである。


今のところ、女の武器を使うのではなく、実力でのし上がろうとする姿は、悪いものじゃない。ただ、彼女は目的を果たそうとして、手段を選ばなくなるかもしれない。

ーーそうなっても不思議ではない、と思うくらいには危うい女性だった。


「君たちに1つ報告がある。この生徒会に、新たなメンバーを入れる予定だ」

「え……!どなたです……?!」


いち早く反応したのは、メリッサだった。


一年生(フレッシュ)の、アンジェリカ・ソーンヒル嬢だ」

「ああ、首席の」


名前を出すと、すぐに頷くフェリクス。ソーンヒル嬢を知っているのだろうか。


「女……。会長、そのソーンヒル嬢のメンバー入りは確定ですか?」

本人には(・・・・)了承をとった(・・・・・・)


いけしゃあしゃあと言うアレクサンドルに、エルドレッドが苦々しい表情を浮かべる。「あれは脅迫(おどし)だ」と呟いた。


「まあ、よろしく頼む」


有無を言わせない微笑みで、アレクサンドルは締めくくった。




「お疲れ様ですわ、殿下」


お茶の用意が整っておりましてよ、とワゴンとともにズケズケと生徒会室にミリアムが入ってきた。


生徒会メンバーは、皆個性的で独立的だから、メンバーを奉仕しようなどという殊勝な人物はいなかった。

生徒会と全く関係のないミリアムなど、本来は立ち入りを許してはいけないのだが、割と甲斐甲斐しいものだから、今は黙認されている。


「……ありがとう、頂くよ」

「皆様もどうぞ」


嬉しそうに笑うミリアム。


『うふふ。これで好印象アピールが出来たかしら』


考えていることはややあざといが、まあ害はないだろう、とアレクサンドルは放置を決め込む。

ミリアム(の侍女)が淹れてくれた紅茶は、やや渋かったが、差し入れのお菓子は絶品だった。



「そういえば、ソーントン嬢」

「はい、何でございましょう」

「リリアン嬢をご存じかい?」

「え……」


『何故、殿下のお口から、あの平民の名前が出たのかしら』

『まさか、泥棒猫ではありませんわよね…』


泥棒猫。酷い誤解だな。それに私は、君のモノではないけれど。

思い込みの激しい女性は、やはり面倒だな。


「私、その方を存じ上げませんわ。お役に立てず、申し訳ございません…」


『あの平民女に問いたださなくては!』


あ、まずい。藪をつついて蛇を出してしまった。


「いや、何でもないんだ。こちらこそ、唐突にごめんね。本当に何でもない(・・・・・・・・)から、余計なこと(・・・・・・・・)しないでね(・・・・・)


極上の笑みを浮かべて、ミリアム嬢に近づく。私も大概あざといな。

ミリアム嬢は、分かったのだか分かっていないのだかイマイチ不明だが、赤ら顔で何度も頷いた。





翌日。

やっぱりミリアム嬢はしでかした(・・・・・)

わざとリリアン嬢にぶつかって、難癖をつけている。全く、あれでは悪役令嬢そのものだ。


アレクサンドルは、その様子を教室で眺めている。

助けるつもりはないくせに、「聞き耳(リッスン)」で一部始終を覗くものだから、やはりアレクサンドルの性格は褒められたものではない。


ーーおや?


そこに、意外な人物が現れた。今日も華麗なソーンヒル嬢である。


『彼女は、Sクラスの人(・・・・・・)ですから。級友のことは、見過ごせませんでしょう?』


おやおや。美しい顔してえげつないな。ミリアム嬢のコンプレックスをここぞとばかりについている。


『本当に言いがかりなら』

『一部始終を、殿下にご報告申し上げますわ。幸い、私は生徒会の一員ですから』


おやおやおやおや。脅しの材料(ネタ)に、生徒会を使うとは!拍手喝采したい気分だ。


ーー言質は取ったよ、お嬢様


中々に面白い一幕だった。ソーンヒル嬢は、興味深い存在だな。

アレクサンドルの瞳がキラリと光った。





さらに翌日。

聖女(トップシークレット)」が襲われた。

実行犯は男3人だが、これには間接的にミリアム嬢が絡んでいる。


ーーこれだから……


この性根の悪さで、何故私に嫁げると本気で考えているのだろう、あのご令嬢は。


ここでも活躍したのは、ソーンヒル嬢だった。


ーーまだ、見えない……


アンジェリカ・ソーンヒル嬢。あまりに多面性を持ち合わせていて、どれが本来の彼女だか、まだ把握出来ない。


ただし、持ち前の頭脳と鋭さで、リリアン嬢の存在を感知したかもしれない。


ーー面白い!


これは、生徒会が楽しみだ。これからに思いを馳せて、珍しくアレクサンドルの口角が上がる。



ーーでも、とりあえずは。


お仕置きの時間だね、と先程の笑みを殺し、アレクサンドルは倉庫へ向かった。



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