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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

俺、レベル1.人差し指、レベル999

俺、レベル1。人差し指、レベル999 【前篇】

作者: 白兎

 俺の名前は小鳥遊(たかなし)辰巳(たつみ)


 突然ですが今、異世界に来ています。あり得ない話ですが本当です。

 その割には落ち着いてるって? まぁもう一週間ぐらい経つからな。最初はパニくったけど慣れた。

 漫画で読んだような風景。木骨造の家々、石畳の道。そんな世界に住むのは人間だけじゃない。

 獣の顔を持つ獣人。エルフやドワーフというまさにファンタジーの世界。


「タツミ、俺ァ今から出かけるから店番頼むぞ」


「ぁ、ああ。行ってらー」


 そんな世界に来た俺は、オルクというおっさんの元で住み込みで働いている。

 変わった身なりで一般常識皆無、文字は読めず、更には無一文という如何にも怪しい人である俺に救いの手を差し伸べてくれたのがおっさんだ。

 キツイ言葉を吐いたり、憎まれ口を叩くこともあるが、こんな俺に衣食住を提供してくれる優しい人だ。


 オルクの構える店は武器屋だ。

 有名という訳ではないが、常連客も多く信頼の厚い店だ。


「おい坊主、オヤジに防具の修理を頼んでたんだが……」


「防具の修理……ぁあ聞いてる聞いてる。ちょっと待ってなー」


 元の世界でもバイトしていたから接客業は慣れている。文字は勉強中だが、基本的に仕事中に文字を読むことは無いから問題ない。


「はいよ。修理代6万オール」


 防具の修理や武器の購入が主な仕事だ。

 この仕事が成り立っているのも訳がある。

 この世界にはモンスターが存在しており、冒険者や騎士なども存在しているからだ。


 まるでゲームのようなこの世界には、ステータスや役職も存在している。

 因みに俺の役職は平民、レベルは1だ。王道で行けば勇者なり賢者なりにしてくれてもいいだろうに。


 ステータスは誰でも見ることが出来る。

 VRの世界みたいに視界にステータスが浮かびあがっている。

 こんな感じで――


 #############

 NAME  【タカナシ タツミ】

 JOB   【平民】

 LEVEL 【1】

 #############


 この世界の文字が読めない俺は何が書いているのかさっぱり分からなかいが、名前と役職、レベルが書いてあるとオルクが言ってた。

 役職は平民。特質的な長所は無いが唯一の利点は成長次第では役職を変えることが出来る所だ。


 例えば平民が剣術を習い修業を積めば剣士になることも可能だ。だが、元から剣士の人に比べればレベル上げの成長速度は劣るし、必死にレベル上げしても70を超えたくらいで寿命を終えてしまうらしい。


 レベル70だったら高い方だと思うかもしれないが、この世界のレベルの上限は999。

 平均的に見れば70は確かに高いが、そこまでいく頃にはヨボヨボのじいさんになっている。


 因みに、人類最強と謳われる勇者ギルドハードはレベル354。世界でたった一人に与えられる【勇者】の役職を持つ、生まれながらに多数の才を持った羨ま怪しからん男だ。


 他人のステータスは眼を凝らせば見ることが出来る。勿論ステータスを隠す道具も存在しているが、ステータスは言わば名刺の代わりであり、他者に自分の力を誇示して威嚇する手段でもある。

 個人情報秘匿が普通の元の世界とは違い、この世界ではステータスを隠す人は思ったより少ない。


 そして、このレベルと役職について、俺がこの世界に来てから頭を抱える要因が一つ。


 #############

 NAME  【人差し指(アンデクス)

 JOB   【?】

 LEVEL 【999】 

 #############


 俺の人差し指は俺よりも遥かにレベルが高い。

 俺がこれに気づいたのは一昨日。仕事中刃物が指に触れたのだが傷付くどころか金属音を奏でるという状況があった。

 不思議に思った俺は人差し指を見るとステータスが浮かび内容がこれだ。

 職業不明。だが、レベルだけは化け物の人差し指。


 こればかりはオルクも笑い飛ばしてまともに取り合ってくれなかった。

 なんでも、一人の人間が持つステータスは一つだけ。例えば片腕の男が他人の腕を自分につけてまともに動いたとしても、腕の持ち主だった人のステータスが影響されることはない。そもそも他人の腕を自分のものにするという話など聞いたことが無いのであくまで理論上の話みたいだが。


 とまぁこんな意味わからん状況でも俺は元気にやっている。




 ◆◆◆◆◆




 そして、ここに来てから一ヵ月が立とうとしていた。


「タツミ。そろそろ文字も読めるようになって来たろ。いっちょ御使いでも行ってくっか?」


「お、もうそん時期か。そうだよなー居候の身でいつまでもおっさんに買い出し行かせるのもなんだし、一回くらいは行ってみるか」


「一回じゃなくてこれから何回も行くんだよ居候。不安ならついて行ってやろうか?」


 濃い顔が刻む不敵な笑み程気味悪いものは無い。

 俺はオルクの本気か冗談か分からないお節介を適当にあしらって外に出た。


 ビルや車、スマホにゲーム機。そんなものとは無縁の世界が視界に広がる。

 この光景にも慣れたものだ。不便と言われれば確かに不便だが、住めば都というものだろうか。元のごちゃごちゃした世界より分かり易くて過ごしやすい。


 今日の夕飯の買い出しを終えて、俺は雑貨屋に向かっていた。


「別にいいじゃねぇかよ。一緒にパーティー組んだ仲だろ?」


「いやぁッ放して!」


 人通りの少ない路地。

 本当はこんなところ通りたくないのだが、目的地の雑貨屋はここを通らないといけない。


「一体俺のどこが不満なんだ? 強くて頭もキレるAランク。俺と付き合いたいって女は何人もいるが、その中でもお前を選んでるんだぜ。誇ってもいいくらいだと思うが?」


「あなたみたいな自意識過剰でしつこい男は嫌いなの! それに一緒にパーティー組んだって目的が同じだったから一緒に行動してただけじゃない! パーティー申請してないでしょ!」


 確かここを左に曲がったら近いのだが、ここはあえて真っすぐ進む。

 何故って? ここを曲がったら面倒なことになる気がするからだ。

 ちょっと見ちゃったけど大丈夫。目は合わせていない。


「これからパーティー申請すればいいさ。どうせ彼氏とかいないんだろ?」


「か、かっ彼氏くらいいるわ!」


「へぇ、それは会ってみたいな~」


 何か聞こえる? 小鳥の囀りじゃないかなー。

 俺は何も見ていないし何も聞こえない。面倒事には首を突っ込まないことが平穏に生きるコツだ。

 まぁ俺もただのチキンじゃない。ちゃんと助けは呼んでくるからもう少し待ってなお嬢さん。


「あ、あの人よ!!」


 俺を指さした気がするが、気のせいだろう。この際聞こえていたことは認めるが会話の内容は少女の彼氏が登場する場面。多分俺の横を歩く人を指さしたんだろう。


 少女は男の手を振り払ってこちらに駆け寄ってくる。

 緋色のショートヘアーを揺らしながら、空色の瞳は真っすぐ進行方向を向いていて、


「こ、この人が私の彼氏よ。文句ある?」


 俺の腕を掴んで抱き寄せた。

 文句? あるに決まっている。俺を巻き込むな。


「ぁ? こんな雑魚そうな男が彼氏? シーラ……悪いことは言わねぇから考え直しな」


「余計なお世話よ。彼はとても優しくて誠実な男だわ。あなたみたいなフラフラした人とは違うの」


 お前が俺の何を知ってるんだ。

 左腕に広がる女子特有の柔らかい感触が無ければとっくに振り払って逃げている所だぞ。

 女子に抱きつかれるなんか経験したことないからな。よし、あと十秒この感触を堪能したら逃げよう。


「テメェはシーラの事をどう思ってるんだ?」


 男は俺にその鋭い眼光をぶつけてきた。

 屈強な肉体、褐色の肌、金色の髪。背中に携える大剣。身長は180センチくらいか。

 対する俺。

 仕事で多少は筋肉はついているがそれでも平均的、恐怖で鳥肌は止まらず、買い物かごに携えるはネギ。因みに身長は170センチくらい。実際は169.2だけどもう170でいいよな。


「お、俺っすか?」


「あぁ? テメェ以外誰がいんだ」


 俺に抱き着くシーラという少女は小声で俺に、


「お願い。話合わせて」


 そう耳打ちするが、正直俺にどうしろというのだろう。


「え、ぇ~っと、しし、シーラさんとは清く健全なお付き合いを……」


 あぁ駄目だ。頭が回らん。なんか相手もかなりイラついてるみたいだし。


「俺はなぁ、テメェみたいななよっちぃ奴は大っ嫌いなんだよ!」


 恐ぇえよ! もういいかな。これ以上ここにいるとちびりそうなんだけど。

 怯えている俺を見て、男は深い溜息を吐いた後、


「はぁ……俺はクリード。お前名前は?」


「た、タツミです……」


「なぁタツミ、俺と勝負しねぇか?」


「勝負っすか?」


「あぁ。俺が勝ったらシーラと別れろ。お前が勝ったら大人しく手を引いてらぁ」


 ふっ……そういう事なら話が早い。この男に見せてやるか。謝罪の奥義『土下座』を。

 勝てない相手には白旗を早めに上げるのが俺のスタンス。


「いいわ。その勝負受けてあげる!」


 勝手に決めないでくれる? 勝負するの俺なんだからね?


「まぁ俺も一般市民相手に本気にはならねぇよ。正々堂々素手で勝負しようや」


 正々堂々と言うのならまずその逞しい肉体を贅肉だらけの身体にしてもらおう。

 とまぁ口に出さないけれどそれぐらいやってほしいものだ。


「オーケー。じゃあ始めようかッ!」


 開始の合図はない唐突な正拳が俺の顔面目掛けて飛んできた。

 驚嘆と困惑で俺の身体は膠着するが、ただ一か所だけは俊敏に反応した。


 ――スキル・<自動防御(オートディフェンス)>発動――


「なッ!?」


「うそ……」

 

 頭中に響く声。

 その言葉と同時に俺の人差し指はひとりでに動き出し、力強い正拳をいとも簡単に受け止めた。

 屈強な男の拳をヒョロヒョロの男が指一本で受け止める。この光景にクリードもシーラも驚きを隠せないでいた。

 

 俺? 驚きよりも困惑が勝っていた。何せ状況を理解する前に俺の人差し指は勝手に動き出すからだ。


 ――スキル・<自動反撃(オートカウンター)>発動――


 俺の指はクリードの拳を上に弾く。

 相当強くはじいたのか、クリードは拳に引っ張られるようによろめき、俺の指は自ら後ろに引いた後、クリードの逞しい腹筋に突っ込んだ。


「ぐぁはッ……」


 硬い腹筋がゴムのように人差し指が抉り込んで、地面に二、三度身体を打ち付けながら数メートル吹き飛んだ。

 指は痛くないのかって? 全然痛くない。むしろ触れたという感触以外何もなかった。


 クリードは気絶したのかピクリとも動かない。


「凄い……あのクリードに勝つなんて」


 シーラが口を手で覆いながら呟いた。

 こいつ、自分から巻き込んでおいて俺が勝つと思ってなかったのかよ。俺も勝つとは思ってなかったけど。

 それよりどうしよう。クリードって奴Aランクって言ってたし、仲間連れて復讐されるかも。



 ギルドに通う冒険者には実力ごとにランク分けがされている。

 C、B、A、S、SSという順に上がっていき、言葉で順に表すならば初心者()普通()実力者()熟練者()化け物(SS)という感じだ。

 俺がここにランク付け誰るならCランクよりも遥かに下だ。そんな男がAランクを倒したなど流布されれば、Aランク冒険者のブランドに傷がついて殴り込みに来るかもしれない。


 だがまだ助かる道はある。

 今回の勝負に限っては俺が弱者であるという事、そして勝負自体はあっけなく終わり、クリードは気絶。今姿を消せば夢だったとうやむやに出来る。クリードって奴もプライドが高そうだし、平民に負けたとは自分から言わないだろう。


 そうと決まれば早めに立ち去ろう。


「んじゃ俺はこれで――」


 立ち去ろうとする俺の腕をシーラは掴んだ。

 振り向いた俺の眼に映ったのは、欲していたものを見たようなキラキラした瞳だった。


「いた……見つけたわ! ねぇあなた、私のパーティーに入らない?」


 頬を赤らめた乙女の顔をしてシーラは叫ぶ。

 そんな彼女に俺は満面の笑みをくれてやり、


「うん、無理!」


 彼女の申し出を一刀両断にしてやった。



 ◆◆◆◆◆



「ねぇ良いじゃない? あなたフリーなんでしょ」


「しつけぇー。お前さっきしつこいのは嫌だって言ってたじゃねぇか」


「しつこい男は嫌いよ。けど私は諦めが悪いのよ。これはしつこさではなく純粋な前向きさなの。だから大丈夫」


「うん、意味が分からん」


 こんなやり取りをかなりの時間やっている。

 雑貨屋で買い物を済まし、帰ろうとする俺の後ろをついてくるシーラ。

 言い合っている姿に、すれ違う人に目を向けられるが、俺もシーラもそんなこと気にしない。


「大体俺は平民だぞ。そんな奴がギルドで仕事なんかしてみろ。秒で死ぬわ」


「冗談言わないで。Aランクを倒す平民なんて……うそ」


 やっと俺のステータスを確認したのか、彼女は足を止めた。

 他人のステータスを見るときは顔を見なくてはいけない。俺の人差し指のステータスなど注視しない限り現れることは無い。つまり、彼女には俺がただの平民ということになる。


「そもそもさ、なんで俺に助けを求めたの? どこをどう見ても俺は強そうじゃないだろ?」


「男に襲われそうになった時はああ言って近くの男に抱き着けば解決するって母様が言ってたわ」


「そうか。なら今度からは見た目が強そうな男に抱き着くんだな」


 そう言って俺はオルクの店に帰った。

 彼女は終始ちゃんと取り合わない俺の背に向かって、


「また明日も来るからね!」


 来なくていい。と、流石にそこまで突き放したりはしていないが、それでも適当に手を振って今日は分かれた。



 翌日。

 窓から射しこむ朝日が俺の意識を覚醒させる。

 窓を開けると澄んだ空気が俺を包んで、


「おはよう、来たわよ!」


 耳残る声に俺はそっと窓を閉めた。



 ◆◆◆◆◆



「おうタツミ。なんかお前に客人だぞ。それもめっちゃ美人の」


「タツミ、今日こそ私の話を聞いてもらうわよ!」


 剣を見ていたのか、売り物の剣先を俺に向けて言い放った。

 緋色の髪に空色の瞳を宿す凛とした目。出る所は出ているが、全体的に引き締まった身体。

 首元にかけている十字架のペンダントがキラキラと輝き、腰に備えているレイピアは相当使い込まれているようだ。


 #############

 NAME   【シーラ・リリナス】

 JOB    【剣豪】

 LEVEL  【64】

 #############


 剣豪っていうと剣士の上位職か。

 その実力ならなおさら俺なぞ必要ないだろうに、なんで俺なんかに固執するんだ?

 

「分かったよ。話は聞くけど俺はパーティーには加わらないからな。おっさん、ちょっと用事済ましていいか?」


「……あぁ。話が終わったらしっかり働けよ」


 気を利かせてくれたオルクに感謝して、俺はシーラを部屋に連れて行った。

 椅子はシーラが座り、俺はベッドに腰を下ろした。


「で、なんで俺にこだわんの? 俺より強い冒険者なんてごろごろいるだろ。そいつら誘えよ」


 俺が言うと、彼女は呆れたように溜息を吐いた。


「分かってないわね。誰でも良いって訳じゃないの。ちゃんと条件があるのよ」


 彼女は指を三本立てた。

 その内一つを折ると、


「まずは私より強い事。これは必須条件よ」


「なるほど、んで次は?」


「二つ目は攻撃力がある人よ。タツミが倒したクリードって男はギルドでも鋼のクリードって言われるほど防御力に定評のある男。そんな奴を一撃でノックアウトさせたあなたは十分合格よ」


 ふむ。確かに攻撃力で言えば俺の人差し指は強いのかもしれない。


「三つ目は年齢が近い事。タツミって見た感じ十七、八ってとこでしょ?」


「十七歳だけど。でも年齢なんて関係あるのか?」


「関係あるのよ。私のパーティーは私を含めて三人。【剣豪】の私、【弓勇】のリア、【神官】のアイリス。このアイリスって子がかなりの人見知りで歳が離れれば離れるほど距離を置いちゃうのよ」

 

 なるほど。それなら年齢が近いという条件は分かる。

 だが、攻撃力の高い人をそれほどまでに求めている理由は何なのだろうか。

 

 彼女のパーティーは職業だけで見ると割とバランスの良いパーティーだ。

 近接系のシーラ、遠距離系のリア、サポート系のアイリス。勿論攻撃力の高い人がパーティーに加わるなら別に受け入れればいい。だが、彼女が喉から手が出るほど攻撃力のある人欲している意味が分からない。


「私のパーティーはギルドでも有名なの。10代で三人とも上位職。ギルドからの信頼も厚いわ」


「じゃあ俺なんか必要ないだろ」


「いいえ。私達にはあなたが必要なの。何故なら私達には弱点があるもの」


「弱点?」


 弱点が無いパーティーは無い。

 どのパーティーも職業や性格に寄った特徴が表れて、長所があれば短所も出てくる。


「私達はちょっとこだわりが強いパーティーでね。私の武器はこのレイピア。早く鋭い戦いに憧れてこの武器を使い続けてるわ。けど私の戦闘スタイルは圧倒的に破壊力が足りない」


「破壊力ね……」


「そう。人を相手にするときは力の流れを理解し、攻撃を受け流して生まれたわずかな隙に閃光の刺突を打ち込めば勝てるわ。けれど、モンスター相手だとそうは行かない。肉体そのものが武器のモンスターは武器を奪うことは出来ないし、攻撃しても硬い肉体には通用しない。レベルの低いモンスターならともかく高いモンスターは私じゃ太刀打ちできないの」


「じゃあリアって奴に頼めばいい。【弓勇】なら破壊力のあるスキルもあるだろ」


 【弓兵】の上位職である【弓勇】なら、高レベルのモンスターの硬い皮膚にダメージを与えることが出来る。その装甲さえ崩せばシーラのレイピアでも攻撃は可能だ。

 だが、俺の提案にシーラは首を横に振った。


「それがこだわりが強いのは私だけじゃないのよ。リアは弓の腕は誰にも負けないと言い切れるわ。けど、彼女は常に5本以上矢を持たないの」


「5本って少なっ!? 一体のモンスターを倒すのに使われる本数は少なくても大体10本だろ。いくら腕があるからって5本だったら高レベルなモンスター相手に出来ないじゃん」


「そうなの。だから私ももう少し矢を持ってって言ったわ。けど彼女は「うちは数より質を優先するんや」って言ってきかないのよ」


「じゃぁアイリスはって言いたいけど【神官】じゃなぁ……」


 【魔導士】の上位職である【神官】は主に回復や防御に特化した職業だ。攻撃力など皆無に等しい。

 精々アンデット族い対抗できるくらいか。


「アイリスにもせめて攻撃スキルのある上位職にってお願いしたんだけど、あの子も譲らないから」


「速さに固執するシーラ。数よりも鋭い一発を優先するリア。サポートにこだわるアイリス……そんなんでよくギルドの信頼を得れたな。高レベルのモンスター相手に出来ないだろ、それ」


「いやぁ……それがさ……」


 俺が尋ねるとシーラは頬を掻きながら目線を逸らし、少し照れ臭そうに下を向いて呟いた。


「確かにモンスターは相手に出来ないわ。けれど相手が人なら話は別よ。盗賊海賊山賊、闇ギルドに悪徳商業団……」


「確かに人相手ならシーラの剣技使えるし、リアの弓も腕がいいなら一撃必殺になる。なんつうか対人特化型パーティーだな」


 俺が言うと彼女は机に突っ伏した。

 これが落ち込んでいることは顔を見ずとも漂わせる雰囲気で理解出来た。


「私達も生活が懸かってるから取り敢えずそういった仕事で稼ぐしかなったの。けどその内変な異名が付いたわ」


「変な異名?」


 尋ねると、シーラは突然机を叩いて立ち上がり、俺にその怒った顔を近づけると、


人間狩り(ヒューマンスレイヤー)よ!! これって酷すぎない!? 確かに相手にしているのは人ばかりだけど誰も殺してないし、こんなにも愛らしい少女たちにまるで闇ギルドにでもいそうな異名で呼ぶのよ!」


「自分で愛らしいって……」


「このままだと私達のイメージに関わるわ。そこで高レベルのモンスターの防御力に対抗できる力を持った人をメンバーにしようって決めたの」


「普通に誰かがスタイル変えればいい話じゃ……」


「それはダメ。少なくとも私は今のスタイルを崩す気はないし、変えるならリアかアイリスね」


 多分他二人も同じ事言うんだろうなぁ……

 口にはしないけど。


「まぁ俺を勧誘する理由は分かったけど、俺は見てもらった通り平民だ。足手まといになるのは目に見えてる」


「そこよ。平民のあなたが油断してたとはいえクリードを倒すなんて。ステータス偽造する力でも持ってるの?」


「残念ながら俺にそんな力ない。実際はこうやって身の丈に合った生活してるんだ。だから他の奴を誘ってくれ。俺はモンスターの前に立つ勇気も度胸もないからさ。頼むから俺を巻き込まないでくれ」


 俺の指は強いのかもしれない。けど、俺は今まで平和な世界で暮らしていたんだ。

 喧嘩すらまともにしたことない俺が、化け物の前に立つことは出来ない。

 彼女には悪いけど、流石に強く言わせてもらう。


 冷たく突き放すように言うと、彼女は何処か寂しげな表情をした。

 それは周りのイメージや仕事内容の不満が原因で現れるような表情ではなくて、どこか強く諦められない思いがあるような、そんな気がしてたまらない。


 けど、俺はそんな彼女の本当の思いにわざわざ踏み込むことはせず、


「……そう……よね。分かったわ。何度も押しかけてごめんなさい。仕事頑張ってね」


 明らかな作り笑いを浮かべて出ていくシーラの背中を、俺はただ無言で見送った。

 胸に引っかかるような感覚を覚えた俺は、仕事中も脳裏に刻まれた光景が離れない。


 寂寞としたシーラの背中が、頭から切り離すことが出来なかった。

気分転換に書いた作品です。

楽しんでいただけたら感想、評価お待ちしております。

本作品は前篇、中篇、後篇の三部構成で行くつもりです。

ではまた次回もよろしくお願いします。

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