表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

翻弄

このような状況を、誰が予測できただろうか。サザンカの頭上には地面が広がり、眼下には青空が広がっている。だが、木々は地面から抜け落ちること無く、家具は青い奈落に落ちてゆくことも無い。この状況は、サザンカだけが真逆の重力にかけられていると言った方がわかりやすい。


「どうなってるのよ……これ………」


サザンカは窓枠を握りながら唖然とした。だが、目の前の街の風景は、昨日までと全く変わらない。


向かいの家の植木鉢には、薄いピンク色の花々が咲いている。人が姿を消してから少し時間が経過しているのだろうか、隣の住宅のベランダには乾ききった洗濯物が風になびいている。だが、このありふれた風景に、昨日までとは違うことが一つだけあった。


「人が1人もいない……」



サザンカが住んでいるこの場所は、早朝から夕方まで、多くの人が行き交い、かなり賑わっている。だが、今は人の足音も話し声も全く聞こえてこない。それどころか、人のいる気配すら感じ取ることができない。鳥のさえずりだけが、遠くで響いている。サザンカは、昨日サクナと話したことを思い出した。


「今日は、天変地異が起こる予言の日………」


その予言が当たっているかどうかは、目の前の光景が代弁していた。サザンカはこの異常な現象を目の当たりにして、急速に喉が乾燥していく。あまりの衝撃に口を半開きにしていたせいか、口まで乾燥していく。サザンカは、とりあえず水を飲んで一息つこうと、コップを探す。しかし、この小さな行為ですら、容易ではなかった。


コップや水道が、全て手の届かない位置にあるのだ。


サザンカは身長が155cmとあまり高くない。それに合わせるように、家具も少し低めのものを自身で揃えていた。だが、皮肉にも重力が逆さになったサザンカにとって、圧倒的に高い壁となっていた。彼女が辛うじて触れられるものは、部屋の端にある冷蔵庫だけだ。だが、冷蔵庫すらもジャンプして指先が当たるほどの高さである。


サザンカは、自分に降りかかった災難を強く呪った。なんの罪もない、日常を淡々と送っていた私に、何の恨みがあってこんな苦しい思いをさせるのか。



水を飲むことすら簡単にできない私は、どうやってこれから生きてゆけばいいのか。



そもそも、この状態はいつまで続くのか。



昨日までの、日常は帰ってくるのか。



サクナとの約束は━━━━━。



突如、口から漏れた彼女の名前。


━━━━━━━━━そうだ、そうだった。サクナは大丈夫なのか。サクナも私のような状態になっているかもしれない。今頃、部屋の片隅で、泣きじゃくりながら私の助けを待っているのではないか。サクナはどんくさいから、パニックになって怪我を負っているのではないか。私が助けなくちゃ。私がサクナの傍にいなくちゃ。



この時のサザンカは、サクナのことで頭がいっぱいだった。サクナのことが心配でしょうがなかった。そして、直後サザンカは決断した。


「サクナを助けに行かないと」





この時のサザンカの瞳は、つい先程とは比べ物にならないほどに強く、鮮明に輝きを放っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ