第95話 明日香の戦い
そしていよいよ御大登場である。
ドンと太鼓が鳴った。
「じゃ、行って来る!」
「アッちゃんさん! 手加減して下さいよ!」
「うん。任せときな~」
明日香が石畳の上に乗ると、ドシンと相手方の中堅、凰丸が石畳の半分を占めてしまった。
「こんな小さい女が相手とはのう」
「へー! 近くで見るとやっぱりでっかいね!」
「一撃じゃ。一撃で決める」
相手の凰丸は7メートル程の大きさ。
明日香は1メートル60センチ。
凰丸は小さな明日香を見下ろして笑っていた。
大きさが全然違う。
一殴りされたら場外に落ちてしまうであろう。
普通の相手なら。
試合開始の太鼓の音が響く。
唸りを上げて凰丸の拳が明日香を薙ぎ払った!
しかし、明日香は飛び上がって、凰丸の頭に手刀を叩き降ろした。
「やー!」
ポフン。と小さな音。小さな黒い羽毛が舞い上がる。
音を鳴らして地面に着地し笑みをこぼす明日香。
凰丸は頭頂部に手を当てて不思議そうな顔をした。
「ぜんぜん……効かん……」
効いていなかった。しかし7メートルもある凰丸の頭を叩けるほどのジャンプ力は脅威だと思ったらしい。
凰丸は明日香の末恐ろしさに気付いたのか、すごいスピードで足やら手やらを出して猛攻を加えて来た。
明日香はそれを避けつつ、「ペチ」やら「ポン」やら音を立てて叩いて行く。
「うーん。私の方が当ててるのに!」
たしかに当たっているがダメージになっていない。
竹丸は焦って叫んだ。
「アッちゃんさん!」
「うるさいなー。分かってるよ!」
明日香にスキができた。凰丸は大きな拳を明日香に振るう。
まさに拳の正面に明日香がいた。避けられる距離ではなかった。
しかし、それをアスカは片手の平で受けてしまった。
「もう。武術で倒そうとしたのにさ」
凰丸さんは何かを感じて、手を引いて翼で飛び上がった。
「ふーん。飛ぶんだ」
「ええい! なんじゃ! 底知れぬ力を感じる!」
「アンタは大きいけど、それより大きくなったらどうかな?」
そう言って、明日香はニヤリと笑う。
するとその体はズンズンと大きくなって、50メートルほどに伸び、空を飛んでいる凰丸の羽をつまんでしまった。
「え?」と凰丸の間抜けな声。
「ふふ。トンボみたーい」
と明日香は凰丸をつまんだままその場で一回転。
するとドンと鳴る太鼓。
つまり試合終了だ。
まだ勝負はついてないんじゃないかと陽太は太鼓の係の方を見ると、係の視線は明日香の足下に。
見ると、アスカが余りに大きくなりすぎて、足が石畳をはみ出していたのだ。
場外だった。
明日香もそれに気付き
「ありゃ! 私、負けちゃったの? くやしー!」
と言いながらドンドンと小さくなって元の大きさに戻った。
「ほー!! こんな術は初めてじゃ!」
手を叩いて喜ぶ大天狗とはうらはらに、三峰一門に重い空気が流れた。
それもそうであろう。明日香が勝たないと計算が総崩れだ。
九郎側に残っているのは、武術トップクラスの実力者が二人。
それに寅丸か陽太のどちらかが一勝しなくてはならない。
「えへ。失敗。失敗」
笑いながら明日香は自分の席に座った。
「ヒナタ。後は頼むね」
と悪びれもなく。
「ふむ。勝負は時の運ですし、たとえ大僧正様が大天狗になれなくてもそれは運命です。責任はオーダーを決めたワタクシにあります。気にせず戦って下さい」
と竹丸は陽太の方を向いた。
だが大天狗の跡目になるのは、何千年に一回渡って来るチャンスである。
それは九郎の方も必死になるだろう。
例え反則な手を使っても。
勝たなくてはならないという思いが陽太に重圧をかける。
陽太の背中に冷たい汗が流れた。




