表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/189

第9話 嘘つき?

陽太がクラスメイトから冷たい視線を浴びていると、そこに遼太郎と結が割って入って来た。


「ハイハイハイ。今から彼女に学校内を案内するから、君たちどいてくれるかな?」

「そうそう。さ、アスカさん。行きましょう! ホラ。ヒナタも」


「お、おう」

「んふ。二人ともヨロシク!」


陽太はようやく危機を脱した。遼太郎、結には感謝しかない。この悪魔のおかげで全身汗びっしょりだった。なにも出来ないがとりあえず10センチメートルほど背が低い明日香のつむじをにらみ付けた。


四人で並んで校内を歩く。

渋い苦虫を噛み潰したような陽太とは反面、明日香は上機嫌そのもの。


「はっはっはっは! 愉快痛快。ヒナタをからかうのは面白いのぉ!」


ムカついている陽太をよそに、遼太郎と結はまたもはしゃいでいた。


「すげぇ! すげぇ! どうどうと生徒として入っちゃうなんて!」

「ホントに! やっぱり魔法?」


「ああ。こう、チョイチョイっとな」


と、明日香は得意気に指先をクルクルと回す。


「すっげー!」

「こんなの、人生で味わえるのなんてフツーじゃできないよ!」


「はっはっは。そうであろう。そうであろう」


キャッキャ、キャッキャとはしゃぐ三人。

だが、陽太は一人疲労の色が濃かった。もう帰りたかった。


すると、前から眼鏡をかけたイカツイ女教師。

生徒指導の教師、宮川だった。


「こら。廊下で騒ぐな」


「は、はい。すいません」


遼太郎はかしこまって頭を下げた。

すると、明日香はまたも上品に笑いながら


「はっはっはっは。これはこれは」


教師宮川のメガネがキラリと光り、彼女はそれを指でクイッと上げた。

そして、笑った明日香を睨みつけ


「なに? 転校生?」


明日香は楽しそうに


「ハイ。そうです」


とニコリと笑った。宮川はそれを一瞥し、陽太に顔を向けながら


「そうですか。浅川」

「は、ハイ」


「放課後、生徒指導室に来なさい」

「え? な、なんでですか?」


「最近、授業態度が悪いらしいな。授業中に居眠りしたり、おろそかになっている」

「は、はぁ」


「少し指導したい」

「は、はい」


そう言い終わると教師宮川は三人に背中を向けて柳のように腰を振りながら去って行った。

疲労の多い陽太はさらにガッカリとし


「ああ。生徒指導室か」

「残念だなぁ」


と、遼太郎は人ごととばかり慰めた。するとまた明日香の笑い声。


「はっはっはっは」

「なにが面白いの?」


と結が聞くと、一歩前に出て三人の前に振り向いた。


「これは愉快痛快である。彼のものの正体が分からんか?」

「え? 正体?」


「面白いものに魅入られよって」

「お、面白いものって?」


明日香は、なおも楽しそうな笑みを浮かべて


「死神だよ」


「し」

「に」

「がみ?」


「はっはっは。余と波長があうと思ったら、他の人ならぬものにも好まれる性質らしいな」


と笑うが、三人にとっては笑い事ではなかった。


「ちょっと! 笑い事じゃねーよ!」

「そうですよ。なんとかならないんですか?」


遼太郎が陽太に変わって明日香に聞くと、何でもないような顔をして


「なんとかなる」


その言葉に三人は胸を撫で下ろした。

なんとかなるようでホッとしたのだ。


「ま、放課後、余がついて行ってやろう」


三人とも吹き出した。

それはそれで不安な気がしたからだ。


まんじりともせずに放課後。陽太は生徒指導室に向かう。

その陽太に明日香は引っ付いて来た。


生徒指導室の戸を開けると、すでに教師宮川は座っていた。


「さぁ、浅川。そこに座りなさい」

「ハイ。失礼します」


そう言う陽太の隣に明日香も座る。

当然、呼んでもいない明日香がまるで夫婦同伴のようにそこにいるので宮川の顔が曇った。


「あなた誰です」

「誰も何もないですよ。ロドーアスカと申します。どうぞよろしく」


「あなたを呼んだ覚えはないです」

「先生。すでに正体は露見してますよ?」


「正体? ハ! 何を言ってるの? バカげたことを言うのはやめなさい」


全く動じない宮川の様子を見て、陽太は明日香にかつがれたことを悟った。


どうして明日香の言うことを信じてしまったのか。

これは普通の先生だ。明日香は面白半分で魔法で悪さをしたいだけなのかも知れない。

なにしろ悪魔だ。

ホームルーム後の休み時間と一緒で陽太にイタズラして困らせたいだけなのだと陽太は悟った。

先生に迷惑をかけるわけにはいかない。


そう思っていると、明日香はなおも楽しそうに宮川を揺さぶっていた。


「私には見えますよ? 先生の大きな鎌」

「あきれた。中学生気分が抜けていないようね」


陽太は、明日香の肩に手を添えて彼女の言葉を止めた。


「アスカ。もういいよ。先生すいませんでした! 最近たるんでました。明日からしっかり勉強に励みます」


陽太が心から謝罪をすると、宮川先生はクイっと眼鏡をあげた。


「反省してるならいいでしょう。しっかりやんなさい。それからお友達は選びなさい」

「ふーん。どこまでもなりきるつもりなんだ」


爆弾のような明日香の言葉に陽太は慌てて、彼女の二の腕をとって立ち上がることを促した。


「ホラ。アスカ。帰るぞ」


教師宮川を見ながらニヤついている明日香を無理やり立たせ、逃げるように生徒指導室を出た。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ