第89話 スタメン確定
そして四人は外に出る。松丸は宙に浮くお堂の上から手を振った。
階段を下り、竹丸を先頭に故障してしまった出場戦士であった人の家を訪ねる。
「強丸おるか?」
竹丸が玄関先で声をかけると、床に臥せっていた犬面の男が顔を上げた。
「な、なんとしたことじゃろう。おお。竹丸さま」
強丸という犬面をした戦士は必死に起き上がろうとしたがどこにも力が入らないようで辛そうに顔を歪めている。
「おいおい。無理はするな。どうだ。具合は」
「面目次第もございませぬ。この体たらくお許しください」
竹丸は家の中に上がり、臥せっている強丸の手を取った。
そして気付く。
「ふむ。やはり呪詛か」
「……と思います。禁呪です。しかし証拠がありません。腹の中が食い荒らされる感じです。なんとか気力で保っておりますが」
「実はな。ワシも昨日襲われた。哀れな幽霊の振りをして、池にひきずりこんで溺死させるつもりだったんじゃろう」
「と、なると……」
「正体はカラスじゃった。つまり」
「やはり、九郎の! クソ!」
「怒るな。呪詛の思うつぼじゃ。勝負はワシにまかせておけ。ここに並みいる客人はみな強者ばかり。ワシもでて、きっと雪辱を晴らそう」
「あ、ありがとうございます」
竹丸を先頭に強丸に別れをつげて外に出ると、犬の顔をした武術家らしいものがそこに立っていた。
竹丸がそのものの名を笑顔で呼ばわる。
「寅丸」
「はい。竹丸さま」
「みなさん、こやつが今日共に出場する寅丸です。なかなかの強者です」
それに陽太と明日香は頭を下げて自己紹介をする。前野は竹丸に紹介されて軽く手をあげた。
「では、本日のオーダーを発表します」
全員揃ったところで竹丸、オーダーとは戦う順番のことだ。
「先鋒。ワタクシ竹丸。次鋒、タマモさん。中堅、アッちゃんさん。副将、寅丸。大将、ヒナタさん。以上です」
大将と言う言葉に陽太は言葉を失った。
石のように固まっていると、寅丸は明日香と前野に頭を下げた。
「女性の方々にまでお力をお借りして大変申し訳ありません」
「この方達は、我々とは及びつかないくらい強いぞ?」
と竹丸が得意気に笑顔を向けるころ、ようやく陽太は口を開くことが来た。
「ちょっと……」
「え?」
「オレが大将って?」
「ああ。大丈夫です。ワタクシ、タマモさん、アッちゃんさんで三勝ですから。大天狗様は最後まで試合が見たいというでしょうから、すぐにやられたフリしてくだされば」
まるほど。五人の総当たり戦であれば前の三人で決着するだろう。
前野も明日香も心配いらない。竹丸も自信がありそうだ。
これならば大丈夫と陽太はようやく安堵した。
「オーケーオーケー。じゃ、早速やろうよ!」
と、明日香はそこで軽くワンツーとジャブを打ったが、修行を積んだ陽太から見ればそのパンチにはまるで武道家としてのセンスというものが感じられない。しかし彼女の魔力は無尽蔵だ。心配はいらないだろう。
「いえ、試合は昼食をとって、我々の時間で言うと14時からです」
と竹丸が案内すると、明日香は笑顔で提案した。
「あっそ。じゃ~、この世界を飛んでみない?」
と、楽しそうに金色の空を指差した。
なるほど、この金色に輝く雲の上の世界を飛んでみるのも楽しいだろうなぁと陽太は思ったが、相変わらず前野はテンションが低い。
「ウチはパス」
「あん! タマちゃん」
「ワタクシも出場手配など忙しいので」
「あっそ。じゃ、ヒナタ。二人で飛んでみよう!」
「う、うん」
陽太は明日香の腰に抱きついた。
「ちょっと! 違うよ。自分の力で飛んでみな」
「え! ああ。うん……」
明日香は軽々と宙に飛び上がった。
つまり、魔法で飛んでみると言うことだ。
陽太は頭の一点に集中して念じた。
空を自由に飛びたいなっと。
すると陽太の体はふわりと浮き上がり、明日香の位置に追いついた。
出来たことに感動し、その場でニタついていると、明日香が声をかけて来た。
「うむ。みなといると話し方が窮屈でいかん。このまま手を繋いで雲の間を飛んで行こうではないか」
「そっちの話し方の方が窮屈だと思うけどな。オーケー。行ってみようか」
二人は手を繋いで、雲の間を飛んで行った。




