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第87話 三峰の隠れ郷

「へー。すごーい!」


明日香の感動。それもそのはずだ。

見ると、目の前に中国の仙人が住みそうな大きな山。

金色の雲が流れ、鶴が飛び回り、木々には宝石の実がなって、緑の葉っぱはヒスイで出来ていた。まさに別天地だ。

陽太も驚きの声を上げる。


「えー! なにここ。日本?」

「もちろん。日本ですよ。ある程度の力がないと、この道は開かれませんが」


「この大きな山は?」

蓬莱山ほうらいさんです。表は三峰のものの天狗の郷」


「ほ、蓬莱山? 表って、裏は違うの?」

「ええ。裏は九郎のものの天狗の郷です」


九郎は、朝説明してた三峰山と九郎山の片方であろう。

そちらにも天狗がいるんだと陽太は思った。

陽太や明日香の感動とは別に、前野は、かぶっている帽子を深くかぶりなおし、景色を見もしなかった。そして小さな声でつぶやく。


「んじゃ。さっさと修行して帰りましょ」


前野だけはすぐに帰りたいようだったが、明日香と陽太のテンションは高くなり、そんな声は聞こえていなかった。いたずら好きな明日香は無邪気にはしゃいだ。


「へー! ほら! ヒナタ見てみな! あの泉には砂金がたくさん!」

「ぅえ!? マジ??」


二人が泉に駆け込もうとするのを竹丸は咎めた。


「取ってはなりませんよ? 宝の木の枝も実も。とりあえず、郷に行きましょう。集落に」

「あ、はーい」


竹丸に続いて、陽太たちは長い長い石段を上った。

石段を三千段ほど登っただろうか?

ようやく景色が変わり開けてきて、右側に大きな集落が出てきた。


「さぁ、ここがワタクシの故郷です。さ、行きましょう。みんなを紹介します」


中腹にある集落。しかし、石段には続きがある。

陽太は、一人石段の上を眺めた。


「竹丸さん、この石段の上には何があるんですか?」

「ああ、大天狗様のお社がございます。後程行ってみましょう」


「へー。大天狗様かァ」


竹丸の案内で集落に進んでいくと、歓声と共にゾロゾロと人というか、二足歩行の犬らしきもの。竹丸のように人間の姿のものもいる。それらが笑いながら集まって来た。


「おお。竹丸さま!」

「みんな達者であったか?」


「それはもう。こちらのお客人は?」


と住人に問われると竹丸は、陽太の肩を両手でつかんで前に出した。


「この方こそ、先見壺で予知された世界を救う、ヒナタさんです」


郷の住人からオオ―! と大声援。

しかし陽太は世界を救うためには何をするのか、何をしていいのかも分かっていない。苦笑しながら小さく手を振る。

それに郷の住人は集まって歓待した。


「それはそれは。三峰へようこそ。さぁ、どうぞこちらへ。ご家来衆も」


家来と言われて顔を見合わせる明日香と前野。

しかし、前野は気付いたように帽子を深くかぶった。


「うむ。しかし時間がない。修行の場へ案内せよ」


と竹丸が言ったところで、目の前に光る階段が現れ、その天辺にはお堂がある。

陽太は一人、あれが修行の場かと思っていた。


すると、お堂が開き僧衣を纏った一人の男性が階段を降りて来る。


「おお……」


それを見ながら竹丸は涙を浮かべて深く頭を下げた。


「大僧正さまにはつつがなく……」


その人は、階段をかけ降りて竹丸の肩をグィと抱く。


「おお竹丸! 久しかったな。そこもとは元気でおられたか?」

「はい。大僧正さまのご威光にございます」


竹丸はクルリと振り向き陽太たちの方を見て、その人を紹介した。


「この方は、大天狗様を補佐されております大僧正さま。ワタクシの兄でございます」


陽太は聞いていた。竹丸の兄の存在を。


「あ! 松丸さんか!」

「そうです。兄の松丸でございます」


すると松丸の方でも気付いたように陽太に近づいて来た。


「おお! そうか。この方が!」

「左様でございます」


「おお、なんとしたことだ梅丸……」


梅丸と言われて陽太は首をかしげる。


「いえ……。浅川ヒナタです」


陽太は否定し、改めて自分の名前を言うと、松丸は慌てて繕い直した。


「あ! いえ、申し訳ございませぬ。弟に似ておったものでございますから。大変失礼をいたしました。ようこそ。ヒナタさま。無作法なものではございますが、竹丸をよろしくお願いいたします」

「いいえ! 竹丸さんにはいつもお世話になりっぱなしで」


あの真面目一徹で礼義正しく頼りになる竹丸を無作法者というものだから、陽太は慌てた。

すると、松丸は明日香の方へ顔を向ける。


「おや? こちらの方は?」


松丸は、目を大きく開いて明日香に近づきまじまじと興味深そうに見つめた。

それを明日香はどうしていいかわからず対応に困ってしまった。


「なによぉ。オジさん」

「のほぉー! すごい! 生まれて初めてじゃ! このようにすごい力を持つものは! 大天狗さまも、八百万の神にもこれほどのお力を持つものはおるまい! なんと、名のある神様であろう」


「まぁね……」


松丸の感動をよそに、竹丸は苦笑いを浮かべる。


「多少いたずらが過ぎますがね。そう大僧正様。こちらの女性がワタクシの婚約者」


すると郷から、大歓声が沸き起こった。

松丸も前野に近づいてその手を握る。


「おお。そうですか。そうですか。ふつつかな弟ではございますが、種族は違えど魂が同じであればよいことです。よろしくお願いいたします。この度はおめでとうございます」


と祝福したが前野は顔を隠したまま


「……どーも」とかすかにつぶやくだけに留めた。

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