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第86話 入り口

次の日の朝。

陽太の体はユサユサと揺られて起こされた。陽太は眠い目を開いてスマートフォンの時計を見る。


「ん。え? 4時?」


早すぎる時間に驚くが、竹丸はすでに準備運動をしていた。


「さ。行きますよ。早朝ですから他の皆さんのご迷惑にならないように静かに」

「え? もうすか……」


早すぎる時間に不満をもらしたいが尊敬する人と怖い人ばかりでなかなかそれが言えずにいると、怖い方の一人である前野が恫喝した。


「オラ、早く起きろよ。ウチらは一睡もしてないで、さっき風呂浴びてきたからね。もう準備万端。アンタだけだよ? 遅いの」


ということだ。明日香と前野は一睡もしていない。もっとも明日香はもともと眠らない体質なのだが。

その明日香は一番元気なようで、陽太の前に紙切れを突き出した。


「ヒナタのお母さんに手紙書いといた。見て」


陽太はその手紙を受け取り読み上げる。


「お母さん、みんなで朝から遊びに行きます。夜の食事には戻ります。夜の料理はみんな骨付き肉のコースでお願いします」


準備が良すぎる。自分だけがまだ寝間着だというのが恥ずかしい。

4時に起きるということは、竹丸の本気度が分かる。

陽太はこれ以上時間を遅らせてならないとサッと起きて着替えた。


「これでいいです」


それはシャツとジャージという軽い服装。後は履いてきたスニーカーを履くだけだ。


「ふむ。動きやすそうですね。いいでしょう。では参ります」


静かに急ぎ足で、オレたちは外に出た。


修行。それは少しばかり心が重い。

だが、天狗の郷ってどんなところだろうなという気持ちは楽しみだった。


旅館から出ると、竹丸は指をさした。

それは昨日火の玉が飛んでいった方向だった。


「あの、そびえたつ三つの山が並んでいるのが三峰山みつみねやま


それは竹丸の姓と同じである。彼の出身の山から姓をとったのだと分かった。

そして彼はもう片方の山を指差す。


「それに迎え合わすように立っておりますのが、九郎山くろうやま


それぞれ規模は同じくらい。大きな山が2つ。

登山にはかなり苦労するであろうほどの山だった。


「我ら一族は三峰山におります。さぁ、参りますよ。ダッシュです!」


やはり走る。

山のふもとまで走って登る。

そうとうキツそうだが、これも修行の一環と陽太は竹丸の背を追った。


明日香と前野はスッと消えて悠々と飛んでいるようだった。

姿は見えないが、空から女子トークが聞こえる。


時折、気付いたように「走れ~。がんばれ~」という取ってつけた励ましに陽太はムカついた。


竹丸の後ろについて、山道を、沢を、岸壁を跳んで休憩もせずに二時間で山頂へ。

疲れたが、山頂から見る景色のすごいこと。素晴らしいこと。

陽太は思わずため息をもらす。


「はぁ~。これで修業は終わりっすか?」

「え? まだ天狗の郷に入ってもおりませんが」と竹丸。


やはり生半可ではない。

そこにスッと女子二人が姿を現した。

明日香は楽しそうに腕を上げる。


「じゃ、天狗の郷に行ってみよー!」

「では、こちらになります」と竹丸は手を広げて案内した。


山頂には、人工的な舗装された駐車場、トイレ、東屋(あずまや)

およそ天狗の郷には程遠いものばかり。


「なんか人間くささがありますけど。天狗の郷ってどこですか?」と陽太は訝し気に聞く。


竹丸はただ笑顔を浮かべ案内したところは、さらに奥の神社だった。


「ここっスか?」陽太が訪ねると

「さ、行きますよ」と竹丸。


すると、後ろから明日香の声がする。


「すごーい! キンキラだね! ほえー!」


陽太が振り返ってみると、何もない空を見上げている。

前野は何も言わないが、同じように空を見上げていた。


「まったく。八百万(やおよろず)の神にすら見えない隠れ里なのにお二人には敵いません」


そう言いながら竹丸は陽太の手を引いて、神社の境内の階段を上った。

お賽銭箱の前で、手を上げて、ジッパーを引くように空間を上から下になぞると、空間に裂け目ができた。


「うぇ! すげぇ!」

「ふふ。ようこそ。天狗の郷へ」


竹丸はそう言うと、陽太の手を引っ張ってその裂け目に入った。

女子二人が後に続いて入ると、竹丸は手を上げて空間を閉じてしまった。


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