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第84話 魔法修行

竹丸は、楊枝を一本取り出し、陽太の前のテーブルの上に置いた。


「ヒナタさん」

「え?」


「動かしてご覧なさい」


そう。つまり、先ほどの時間止め。

恐ろしいほどの魔力がなくては出来ない。

だが、魔法の使い方を全然知らない。

この磨かれていない原石を磨こうと言うことだった。


陽太はそれを理解して手を使わずに楊枝を見つめた。

魔法のコツは、一点に集中して命じる。


陽太は楊枝の先端を見つめて叫んだ。


「浮け!」


楊枝は、ピンと直立して陽太のイメージ通りに20cmほど上に浮き上がった。


「落ちろ!」


すると力を失ったように、楊枝はそのままポトと音を立ててテーブルの上に落ちた。


「おー!」


前野の歓声に陽太は得意満面の顔をした。


「このビール、超冷えてるゥ~!」


違う方への感動だった。

どうやら見ていなかったらしい。

恋人である明日香はどうだろうとそちらに目をやる。


「うーん。このお茶美味しい」


こちらもまったく見ていなかった。

しかもお茶が紫色。


魔法でお茶をワインに替えたのが分かったが、竹丸の手前気付かないフリをした。




竹丸は、今度は10円玉を机の上に置いた。

陽太は同じように、宙に浮かせて二、三度回転させてみせた。


「すばらしい魔力を感じます」

「そう? どのくらい?」


「そうですね。ワタクシの100分の1ほどでしょうか」


まったくの戦力外。陽太は気が遠くなりそうだった。


「しかし、ワタクシは時を止めることはできません。やはりアッちゃんさんの能力を受け継いで、魔力は発展途上といった感じでしょうかね?」


女子二人はこっちなぞお構い無しに、ガブガブと飲み物を飲んで楽しそう。

陽太はその間、灰皿、旅行カバン、テーブルを魔力で動かしていた。


「うんうん。大したものです。テーブルみたいな大きなものにみんなで乗って移動とか出来るようになるかもしれません」


陽太がなるほどと思っていると、女子二人がテンション高めに


「面白そー! 早速やってみよー!」


といって、テーブルの上に座りこんだ。

竹丸は最初はその無邪気さに驚いたが、落ち着きを払った様子で咳払いをした。


「じゃぁ、まずは二人を乗せたまま」


陽太は集中する。大好きな明日香の目を見ながら念じた。

精神が明日香の黒い瞳に吸い込まれるようだ。

動け、動け……。

その刹那、テーブルはふわりと浮いて、ゆっくりと本当にゆっくりと回転しだした。

まるで二人の重さなど感じないように。

だがその途端、


「ププ。あっはっはっは!」と前野の笑い声。


余りに笑うものだから、陽太の集中が途切れてテーブルは「ドンッ!」と音を立てて落ちた。

陽太は脱力してしまった。せっかくうまくいっていたのに。


「な、なんで笑うんですかぁ」

「だって、真っ赤な顔して真剣な顔でアッちゃん見てるんだもーん」


と前野がいうと、明日香も間をおかず同調。


馬鹿(バカ)づら


バカづらと言われて頭にくるやら恥ずかしいやら。

こっちは真剣だと言うのに。


竹丸の方を見るとこちらも後ろを向いて肩を震わせてる。


「ちょっと、ちょっと。竹丸さんまで」


そう言うとさすがに真面目な竹丸は気を入れ直してこちらに振り向くものの、顔の筋肉は緩んでいる。


「……いやなに。真剣なのはいいことです」

「真剣にやんなきゃ動かせねーでしょ。みんな笑うけどさぁ」


苦情をいうと、珍しく明日香が口を開いてアドバイスしてきた。


「さっきは見るって言ったけど、集中のことなんだよ? 目をつぶってたってできる」


そう言っていつもの明日香の指鳴らし。パチンと音がなると旅行バッグのチャックがあいて、ポテチの袋が飛び出し、開封して一枚飛んできて明日香の口の中に。


「どんなもんだい。ほら。別に見なくても出来るでしょ?」


威張ってみせる明日香。

だが陽太には難しすぎたようだ。そんな複雑なことできないと思った。

すると今度は冷蔵庫があいて、ビールが飛び出す。それは空中で「カシュッ」と音を立てて開封され前野の元へ。彼女はそれをキャッチする。


「ウチもできるよん」


酔っていても二人ともできることにやはり尊敬。

だがこの二人は魔法のトップクラスすぎて参考にならない。

竹丸の方へ視線を送ると、やはり教師。彼は的確にアドバイスした。


「例えば、自分の頭上とか、額とか、鼻の先、口、のど、胸の中央、腹、ヘソなどに集中してみはいかがでしょう」

「な、なるほど。でも、見ないと動かすビジョンがつかめないと言うか」


それを聞いていた明日香。今日は酔っているせいか口数が多い。


「そうじゃない。魔法なんだから、こうなれ~って思えばいいんだよ」

「時間を止めるのだってそう思ったんじゃないの?」


と、前野もそれに合わせる。


陽太は二人の大先輩よりのアドバイスを受け、テーブルが落ちたときの衝撃でハンガーから外れて落ちてしまったジャンパーをハンガーにかけることにした。

彼は頭の上にその想いを集中させてみた瞬間。

ジャンパーが上にあがってハンガーにスゥとかかった。


「やった!」

「そうそう。ホイ!」


陽太が出来たことを笑うと、今度は明日香が指をならす。

すると部屋中のグラスがみんな割れて床に散乱した。


「はい、どうぞ!」

「おいおいおい。こんなことしちゃダメだろぉ」


「だから直すんでしょ?」

「あ、ああ。そうか」


陽太は頭の上に治れという思いを集中する。すると徐々にグラスは元の状態に戻って行く。

それを見ながら陽太は魔法の面白さに感動した。


「すごい。すごい。上達が早い」


明日香の褒め言葉に顔の筋肉が緩む。

その途端に陽太に疲れが襲ってきた。


「はぁ。でもけっこう疲れた」


集中力が凄すぎるためだろう。

猛烈な眠気。


「慣れないことですから疲れたでしょう。明日は早くから修行です。どうぞ、お休みになって下さい」

「はい。みなさん、おやすみなはぁぁい……」


そう言うと、陽太は布団に入ってそのまま泥のようにぐっすりと眠ってしまった。

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