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第82話 時空魔法

土曜日。四人の仲間たちは早朝から電車に乗って陽太の母親の働く旅館へ向かった。


「たっのしみ! たっのしみ!」


電車の向かい合わせの四人掛け席に座って、女子二人が嬉しそうな声を上げると、竹丸は冷静に眼鏡を上げながら答えた。


「女性お二人は旅を充分に楽しんで下さい。我ら男は修行を積んで参りますので」


そう。竹丸に連れられて陽太は天狗の郷で修業。

最初は修行を楽しみにしていた陽太だったが、せっかく母親がいる温泉に行くのに楽しめないとため息を吐いた。

竹丸の言葉に女子二人はいつものように応えた。


「そーだね。ウチは別に行きたくないし~」

「え~? 私は行きたい。興味がある」


「え~。アッちゃん……」

「そうですか。アッちゃんさん。本来は女人禁制の聖地なのですが」


その竹丸の言い様に前野の柳眉は吊り上がった。


「む。なにそれ。女はダメみたいな」

「あ~。いえいえ。そう言われるだけで。一族の女もおりますし」


「アッタマ来た。絶対行く」

「あー……。そうですか……」


久々に竹丸が前野を怒らせながらも、楽しい電車の旅だった。

女子二人の話しが止まらない止まらない。

男子は聞いてるだけだったが、とても楽しかった。


普段は食べない駅弁まで食べて、とうとう到着。

チェックインの1時間前だ。

陽太の母親が少し話そうと言っていたのだ。

彼らは電車からバスに乗り継ぐと、旅館への道を歩いて進んだ。

その道すがら竹丸が明日香を止める。


「アッちゃんさん」

「なに? タケ」


「分かっているとは思いますが、ヒナタさんのお母さんに決して一緒に暮らしてるとか、男女の関係だとか、そういうことは言わないようにしてくださいね。」


男女の関係ではないのだが、竹丸はすでにそう思っているようだ。


「分かってるよぉ! タケはしつこいな~。そんなこと言ったら、ヒナタが困るんでしょう? うっふっふっふ」


その笑いの意味するところはと思ったところで旅館の入り口が見えてきた。

そこにはたくさんの従業員が出て四人が来るのを笑顔で待っていた。

こういうところなのだと思っていると、陽太の母親が手を上げた。


「ヒナタぁ~」

「母さん!」


陽太も大きく手を振った。

鬼にだまされて、母親に殺されたことを思い出して少し涙が浮かんでしまう。


その時だった。


明日香が母親目掛けて走り出した。


陽太も竹丸も青くなったが明日香はお構い無し。


「はぁはぁはぁ。ヒナタのお母さん。わたし! ヒナタに手篭めにされたんです〜! そして、結婚しろって脅されてるの!」


やっぱり悪魔だった。陽太が困ることが楽しくて仕方がない。

しかもなまじ知識があるので手篭めなどと普段使わないような言葉を使っている。


陽太を見ながらニヤニヤ顏。

ちゃんと着地点はあるのだろうか?

この困ったいたずらもののために皆、そこで足を止めてしまったが明日香はなおも続けた。


「助けてくださぁ~い。みなさぁ~ん」


母だけに限らず、他の従業員の手を握りながら泣きすがっていた。

見るに見かねて竹丸もそこに近付いていった。


「あの、みなさん、そんなことありません。彼女、少々いたずら好きでして」

「あ、ありゃ!?」


明日香が驚きの声を上げたのは竹丸が割って入ったからではなかった。前野が辺りの風景をグルリと見渡す。


「時間が……止まってる」

「ふーん。ヒナタ。せっかくの私の楽しみを邪魔してくれたね」


明日香が体の向きを陽太の方へと変える。

陽太は何のことか分からなかった。


「なるほど。アッちゃんさんの行動を事前に察知して、緊急的に時を止めたんですな。我々、力があるものは動けるようですが」

「ふーん。やるじゃん。面白い」


「アッちゃんさん!」

「なんだよぉ。止めりゃいいんでしょ。あーつまんない!」


「帰りますからね!」

「分かったよ! もう」


「アッちゃんさんは風呂上がりのアイス抜きです」

「あん! ゴメンてば!」


「ダメです」

「もう! なんだよ!」


「これに懲りたら、こんなことしないことです」

「タケの悪魔!」


そりゃオマエだ。と言うじっとりとした目で明日香を睨みつける陽太。そこに前野がやって来て陽太の肩に手を添えたこと


「はい。ヒナタ。元に戻して」

「え? でもどうやって?」


時間を止めるのは明日香の魔法だ。明日香に顔を向けて助けを求めたが、明日香は面倒臭そうにしていた。


「戻れって思えばいいんだよ」


アドバイスが適当。しかし、このままではどうしようもない。

心の中で『戻れ』と思ってみるが、さっぱり戻る様子などなかった。もう一度祈る気持ちで明日香に目をやる。


「思い方が雑なんじゃない? こう、一点を見るような感じで、瞬間的に「戻れ!」って思ってみなよ」


なんほど、雑念。たしかに焦りの気持ちがある。一点を見ると言うことは気持ちを集中させると言うことだろう。

陽太は母親の鼻の頭を見るような感じで、『戻れ!』と念じた。


途端に、ざわざわと音が戻ってきた。

小鳥の声、風に揺れる葉っぱの音、流れる川の音。


陽太は集中を解放するように深いため息を吐いた。

いたずら好きの明日香はちゃんとアドバイスしてくれたことに感謝し嬉しそうな顔を向けたが明日香は自分の荷物を手に取った。


「じゃぁ、普通に挨拶しようか。アイス抜かれたくないし」


それだけのためだった。


陽太は目線を落とし明日香のつむじを見ながら『いい子になれ!』と、強く念じた。

その瞬間、アスカは振り向く。


「ならないから」


心の声まで読まれていた。明日香はそのまま陽太を置いて旅館の中に入っていった。

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