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第79話 旅行計画

楽しそうに玄関のドアが開き、キャッキャッと笑いながら明日香と前野が靴を脱ぎ捨てて二人の元に駆けよって来た。


「たっだいま~!」

「あ~。面白かった!」


またイタズラしてきたのだ。

街に繰り出して、男を手玉に取りさんざんおごらせたあげく幽霊のように消えてしまうパターン。

相変わらず能力を悪いことだけに使っているのだが、今日は別に収穫があったようだった。

明日香は陽太に笑顔で話しかけてきた。


「ねーねー」

「なに?」


「旅行いこ!」

「はぁ?」


そういって、テーブルの上に旅行冊子を広げた。

電車に乗って秘境のような温泉地に行くツアーのパンフレットばかり。

紅葉と寂れた一両列車やら、海辺の露天風呂やら、夜花火が打ちあがっているところの表紙のもの。

たしかに旅行気分を引き立てる十分なロケーションの表紙のものだ。


「なんだこりゃ。じゃまじゃま」


そう言いながら前野はテーブルの上に乗っている陽太の教科書、参考書、ノートを床にぶちまけて改めてパンフレットを開く。

陽太は前野恐ろしさに黙って自分の勉強道具を拾って片付けた。


「温泉。温泉」

「お湯につかるんでしょ~? 興味ある」


楽しそうな女子二人に陽太は水を差す。


「そんな金どこにあるんだよ。ウチは貧乏なのだよぉ?」


そう言った瞬間、前野の目が妖しく光る。


「あんた……。アッちゃんを騙してるね?」


陽太は驚いて前野から視線を反らした。


「え~? なんのことやら」

「ウチだけがレジの時でも時給めちゃめちゃ高かったでしょ? この辺じゃ、相場が1.5倍のバイト先だったんだよ? アッちゃん来てますます看板娘増えて来客数は日本一になって、時給もかなり高くなってるよね?」


陽太の緊張は一気に高まった。


「あんた、アッちゃんの分の給料ももらって、お小遣いちょっとしか渡してないでしょ!」


ついに。ついに露呈した。

たしかに陽太たちの働くパンバーガー屋は長蛇の列。

男性客多数。明日香と前野目当ての連中ばかり。

隣の街からもくるやつらがいる。


厨房も大忙しなので時給は相場よりも断然高い。

そして看板娘である明日香は陽太の倍。


たまにお客さんからの差し入れでコロッケとかたい焼きとかもらってくる。

それを二人で食べて食費を浮かすという生活してまる。


陽太にしてみればそれで少しでも貯金を殖やそうという魂胆なのだ。

明日香も面白半分で食事をする。

そして最近、どういうわけか寝るから新しいソファーベッドも買った。

ギターも買った。弾けないのだが。

腕時計もパソコンも買い生活水準が上がっていた。


明日香と暮らすにはストレスが多い。だからこれくらいの贅沢したっていいだろうと自分自身に言い訳をしながら。

言わば鵜飼と鵜。しかし、バレたらとんでもないことになるとは思ってはいたのだ。


その渦中の大公爵明日香が陽太に聞いて来た。


「ウチ貧乏じゃないの? お金……あるの?」

「少しは……」


しかし前野は追い打ちをかける。


「月一回の店長賞の一万円は? ウチだってもらってるから中身分かってるんだよ!」

「はい。ございます……」


明日香に殺されるかもしれない。

恐る恐るそちらの方向に目を向けると、


「そーなんだ。良かった」


という感触の解答。

陽太はホッとした。だが旅行などと言う贅沢で形にならないものに金がなくなるのが嫌だった。

しかし、この四人で旅行に行くのも楽しいかもしれないと思いなおした矢先、


「お二人だけでお楽しみ下さい」


という竹丸の言葉。


「どーして? タケちゃん休暇取れるって言ってたじゃん」

「言いました。それはヒナタさんの修行のため。連休は天狗の郷で修行をするんです」


「え~。一緒に行こうよぉ~」

「ダメです。来るべき決戦は明日かもしれません。今日なのかもしれません。幸いにしてそれがなっていないだけなのです。ですからヒナタさんには修行して頂きます」


真面目。恐ろしいほどの真面目だった。

余暇などない。そんな暇があったら少しでも筋肉を付けろと言うことだ。


「天狗の郷ってどこにあるの?」

「ああ、ここですよ」


丁度開いていた旅行冊子の地図を指差した。

その指先を見て陽太が声をあげる。


「あ」

「ん?」


「母さんの働いてる旅館とメッチャ近い」

「ふーん。温泉は?」


「あるけど」

「料理は?」


「地元牛とかお刺身とか有名みたい」


明日香は楽しそうにパチンと指を鳴らした。


「決まりだね!」

「え?」


それに竹丸も大きくうなづく。


「なるほど。夜はそこで暖をとり、早朝から修行。悪くないですね」

「やったやった! 旅行! 旅行!」


「お肉メッチャ楽しみ~!」


なんとか旅行に行くことになったが、その反面。

陽太は自分の母が働く温泉宿に竹丸はいいとして、大妖怪と大悪魔を連れて行くことが不安だった。

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