第78話 防衛修行
ジナニアの一件が終わり、また生活は平穏に戻っていた。
陽太は竹丸にいつものように自室で個人的に勉強を教えてもらっていた。
そんな二人などつまらないだけだと明日香と前野は二人で遊びにでかけていた。
「ふぅむ」
「ん? どーしたっスか? 竹丸さん」
「いえ、魔神アスタロトの血肉を分けられたのですから、当然、神並みの叡智があるのかと思いきや。なかなかどうして」
「と言いますと?」
「フツーですね。」
普通だった。竹丸にしてみれば、魔神アスタロトと言えば喚び出した魔術師に叡智と予見した未来を教えるという存在である。当然、智慧の大悪魔だ。
それの心臓が入っているということは陽太も同じようにと思ったが、ここ数日勉強を見ているが基本的なところで間違え、基本を理解していないところは応用なんて効くはずもない。
いわゆる普通の高校生の能力だったのだ。
「竹丸さん」
「なんですか?」
勉強の質問をしてきたのだろうと竹丸は眼鏡を上げて聞き返した。
やる気があると思ったのだがその質問は勉強のことではなかった。
「アスカが前に言ってたんです。魔力で時間を止めたら学校の中にアスカが止めた時間の中で動けるものが二体いるって。それって、茨木先生と星隈先生だったのかなぁ? ということは学校内に、もう脅威はないってことですよね?」
「え? そうなんですか?」
「うん。あんなのがたくさんいられたら困っちゃうよね」
「ううむ……」
竹丸は腕を組んで考え込んだ。
「ん?」
「アッちゃんさんの魔力はワタクシとは雲泥の差です。茨木とワタクシは同じくらいの魔力。向こうのが少し多いかもしれませんが」
「そうなんだ」
「それが、アッちゃんさんの止めた時間の中で動けるなんて考えにくいです」
「え? じゃぁ……」
「ええ。まだいるのかもしれません」
「でもアスカ言ってた。天使かもしれないって。でもオレ、あのゾンビ騒動はその二体がやったって思ってて」
「ああ強力催眠の。そうかもしれません」
「そいつらが戦いを仕掛けてきたら勝ち目あるのかなぁ?」
「うーん。考えたくはありませんが、防衛のためにキチンと修行しておくとよいでしょう」
「ああ、うん。」
竹丸はニコリとほほ笑んだ。
「行きますか! 天狗の郷へ」
「うん。行ってみたい」
「ふふ。決まりですね。では今度の連休に」
「やった!」
「当然、走ってですからね!」
それには陽太も苦笑いをするしかなかった。
あの京都からこの部屋までの600キロメートルの走破など竹丸には大したことなどないことなのだろう。
そんなのはオードブル。修行はもっともっと味付けの濃いメインディッシュなのだと。
考えただけでもお腹いっぱいだった。
竹丸は、小休止と言うことでおもむろにテレビをつけた。
するとテレビに生徒会長の流辺昴が映っていた。
一緒にいるのはインタビューを受けている若い政治家で、その傍らで笑顔で立っていたのだ。
「ほうほう。流辺くんが与党青年部長と一緒にいるとはすごいですな」
「この政治家みたことあるっスねぇ」
「ええ。次期総理と言われてる人ですよね。流辺くんは将来政治家かな? 大したものが人間の中にもいるもんです。ひょっとしたら流辺くんは天狗の子孫かもしれませんね」
映っていたのはほんの少しの時間だった。
昴は夢に向かって走っているようだ。しかも実現するのはかなり有力な位置にいる。
自分は、天狗の郷で遊び気分で修行。
比べてみるととても差を感じてしまって、ついつい陽太は強がった。
「でも誰が政治をやっても変わんないでしょ」
「そうでしょうか?」
「ん?」
「現在の日本は国の体を成してませんよ? 自分で防衛もできず、他国に守ってもらってるだけ。それでもブーブーと声高く不満を言う」
「だって危ないじゃん。事件も起こすし」
「その通りですよ。ですから自分で責任を持って守って初めて文句を言うことが出来るのです」
「日本にだって自衛隊がいるし」
「そうです。ですが緊急時には動けません。首相の命令、国会の承認が必要です。突然他国から攻められたとき、初動で動けるのは警察と消防です」
「え? そ、そうなの?」
「そうです。身に起こる危険が迫っているのに、なにも決まらない政治。政治家と言う職業は決められる力を持つ人、発言力が強い人がならないといけませんね」
「ふーん」
その時、玄関が慌ただしくなってきた。
この騒々しさ。言わずと知れた小悪魔な……。いや大悪魔な二人の女子が帰って来たのだ。




