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第76話 前野

前野玉藻と三峰竹丸の馴れ初めを話したい。


竹丸が陽太に“世界を救う”と伝えた日だった。

二人は同時に陽太の部屋を出た。


前野は汚いものを見るような目で竹丸をジロリと見ていた。


「そんな目で見ないでくださいよ。敵対心が多いですね嫂さんは」

「アンタ馴れ馴れしいよ。やっぱり犬だね。ハン」


そう言って顔を背けた。

別に二人で並んで歩く予定はない。

だが行く方向が一緒なのか並行してしまうのだ。


「さっさと行ってよ。気持ち悪い」

「いえ。女性をお一人で帰しては申し訳ないですよ。お送りしましょう」


「アンタが? ウチを?」


前野は竹丸の手を取った。


「え?」


竹丸が驚いた声を上げた瞬間、体をグルリ回された。

竹丸の体が宙を舞っている。


「自分より弱いヤツに送られたくはないね。お金もなさそうだし」


宙に舞っている竹丸にそう言い放つ。

竹丸が、空中で猫のように回転して着地した。


「お見事。さすがですね」


竹丸がそう褒めてもそっぽを向いてしまう。

だが、悪巧みを思いついたようにニタリと笑った。


「アンタは? アンタの家は?」

「はぁ。この近くのアパートですが」


「ふーん。ずいぶん人に溶け込んでるんだねぇ」

「そうですね。大学も出ましたし」


「ほう。それはそれは」


そう言って竹丸の手をつないだ。


「アンタの家に案内してよ」

「え? は、はい……」


竹丸は自分のアパートに案内した。ドアを開けるととてもいい雰囲気だ。目の前に廊下。奥にリビング。右手側にキッチン、左手側に風呂とトイレ。そして小さい部屋がある。ベッドがあるので寝室と思われた。家具のセンスもいい。高そうな自転車が部屋の中に置いてある。さっぱりとしていて人生を楽しんでいる独身男性の感じだった。


「へー。キレイにしてんじゃん」

「ありがとうございます」


前野を先に部屋に入れ、竹丸は部屋に施錠し、自分も部屋の中に入った瞬間。

そのまま玄関と部屋をつなぐ廊下に倒れ込んだ。

重い荷物を急に背中に乗せられたようだ。


「くぅ……。重力の術……」


竹丸が唸ると、前野は彼の前で一回転する。

その姿は竹丸と同じものになっていた。


「ずいぶんいい暮らししてるじゃん。ウチがもらうよ。アンタも妖怪なら覚悟してるんだろうね。今から殺して生きのいい肝臓をもらう」

「ふ、不老長生のためですか?」


「その通り」


竹丸は動けなかった。魔力の量が全然違う。

前野は自分が変わった竹丸の姿が寸分も違いがないか確認するために鏡を見ていた。


「ま、しばらく教師でもやってみるか。飽きたら逃げりゃいいだけだし」


そう言いながら、竹丸の持っていた荷物から貴重品などを取り出していた。


「ふーん。通帳の残高も結構あるね。当分は遊んで暮らせるかぁ」


竹丸は冷たい板間で唸ることしかできなかった。


「ま、魔神の嫂さんが悲しみますよ。そ、そんなことしたら」


竹丸がそう言うと、ひっくり返してその頬を打った。


「余計なこと言うんじゃないよ。アッちゃんの前では今までの姿をしてりゃいいだけの話なんだから。ま、アッちゃんと一緒に遠くに逃げて遊んで暮らしてもいいし」


「ひ、ヒナタさんは?」


また頬を平手で打ちつける。


「あんなやつ関係ないでしょ。たかが人間だよ」

「ヒ、ヒナタさんは世界を救うのです」


自分には関係がないことをペチャクチャとしゃべるやつだと、前野は板間に竹丸を転がす。

そして、面倒だから殺して肝臓を抜いてしまおうと思った。

前野の爪が鋭く伸びて輝いた。


しかし、前野は気付いたように竹丸をひっくり返して顔を覗き込んだ。


「アンタ、天狗の郷ではおそらく高位の僧侶でしょ?」

「は、はぁ……」


「天狗の修行は厳しく、僧侶は修行中は精を漏らすのは固く禁じられているはずよね?」

「そ、その通り。この竹丸、まだ精を漏らしたことはありません」


前野はニヤリと笑った。


「フン。肝臓を抜かなくとも不老長生の霊薬はここにあるじゃない!」


そう言って、竹丸のスーツを破り下着も何も取り除いてしまった。


「何百年も放出されなかった初精しょせいは美容にも不老長生にもよいはず。さっそくアンタが生きた証を頂戴しよう」

「な、なにをなさるのです。私は、あなたを……狐仙こせんのあなたを尊敬していたのに」


「フン。その狐仙さまを抱いて死ねるんだから本望だろ?」


そう言いながら前野も裸になってしまった。

そして、仰向けになっている竹丸の上に乗りかかった。


ふとリビングのテーブルが見えた。

その上には札束が見える。おそらく三百万円はあるだろう。

前野は竹丸の体を踏んづけながらその場所に急いでそれを手に取った。


「すごいお金! コンなにむき出しにして置いてちゃ物騒でしょ。あ、あ、あ、アグ!」


裸で、札束を手に取ったまま前野は動けなくなってしまった。

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