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第74話 陽太の魔法

陽太の目の前には腕を押さえて震えているラティファ。絶望的な顔で覚悟を決めているようだった。


「だ、大丈夫ですか?」


しかしラティファは答えない。答えられるわけがなかった。完全に追い詰められた。

恐ろしきシャイターン


「うそ? なんで? オレは、キミにやられて……。キミは誰にやられたの? まだどこかに敵が?」


遠くからコツコツと靴音をならしながら御大登場だ。

明日香が陽太とラティファの前に近づいて来た。

その顔に妖しい笑みを浮かべながら。


「足下がやったのだ。驚いた。まさか余に変貌するとはな」

「あ! アスカ。助かったよ。他に敵がいるのかも……。え? 変貌? オレがアスカに??」


「さよう。まさに余だった。まぁ、魔力は余には到底及びつかんが、並の悪魔では勝てまい。タマちゃんならなんとかなるかもしれんが」

「な、なんで? そんなことに……」


「知らん。だが、おおよそだが想像はつく。はっはっは。愉快痛快だ」


ラティファも気づいた。この女。これもシャイターンだ。

そしてこれが元凶。大悪魔アスタロト大公爵なのだと。

彼女はブルブルとふるえ、どうにか逃げ出そうとしていた。


「さて。余の正体を知ったからには生かしてはおけん。死んでもらうぞ?」


明日香はラティファの前にしゃがみ込み、彼女の細い顎を手で掴んで無理やり自分の方に顔を向けさせた。

殺されるかもしれない。ラティファに残された道はもはや神に祈るだけだった。


「か、神は偉大なり。神の他に神はなし。神の平安と慈悲が、我らの上に……」


「うるさい!」

「ひ!」


祈りの言葉など明日香が一番嫌いな言葉だ。もはや容赦はならないという風に立ち上がりラティファを見下ろしたが陽太は、ラティファにかぶさって彼女を庇った。


「ちょ、ちょっと待てよ。なにも殺さなくても……」

「オイオイ。足下も殺されかけたのだぞ? 女だからか? 女だから」


「そ、そうかもしれないけど……。もう弱っているものに手をださなくても……」

「しかし、余の正体を知ってしまった。しゃべれないように口を糸で縫い付けてしまおうか?」


そう言ってラティファの顔を隠す薄絹の上から唇を掴んだ。


「オレが記憶を消す!」

「ほぉう?」


やれるかどうかは分からない。魔法など自力で使うのは初めてだ。

だが陽太がラティファの腕を軽くさすると、彼女の腕から痛みが消えて行く。


「え? な、治った……?」


「ふーん。面白い」


さらに、陽太がラティファの頭に手をかざす。


「ゴメン。なにかの行き違いでこうなっただけだ。今起きたことは全て忘れて下さい」


ラティファは目を閉じた。陽太の手から暖かいものを感じる。

やがて空間は徐々に暗くなり、三人はいつの間にかアパートの前にいた。


それを見るなり、陣内は叫んだ。


「ラティファ!」


ラティファの名前を。

陣内は彼女に抱きついた。

ラティファは陣内を不思議そうに見ていた。


「ご、ご主人さま……」

「うん。帰ろう」


「ご、ごめんなさい。三つ目の願い叶えて上げれなくて」

「いいんだ。もう。いいんだ」


陣内はラティファに肩を貸して家まで歩き出した。

二人の姿がどんどんと小さくなって行く。

陽太と明日香はその後ろ姿を眺めていた。


「ホントに記憶消えてるみたいね。感覚でわかる」

「うん。なんとなく出来た」


「ま、それでこそ私のヒナタ」

「そうか? なんでアスカのオレなわけ?」


「だって結婚するじゃん。まー神の祝福とかいらんけど~。さて、ラーメンでも食べようか」

「塩ですか? 閣下」


「うむ。今日は味噌の気分である」

「かしこまりました~」


カンカンカンとアパートの階段を踏み鳴らしながら二人は駆け上がって行った。

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