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第73話 陽太覚醒

陽太とラティファが別の空間で戦っている頃。明日香は陣内の前でうろたえる演技をしていた。


「えええ? ヒナタは? ヒナタはどこに行っちゃったの?」

「浅川はもういないよ。君を魔法で縛るものは」


ラティファの話では二人はもう別の空間から帰ってこれない。

彼が魔人ならば、明日香にかけられた魔法が解けて、ラティファがかけた魔法が効いてくるはず。

明日香が陣内を好きになる魔法だ。陣内はそれに期待していた。

すると明日香の顔から不安の色が消えてゆく。そして、徐々に妖艶な笑顔を浮かべ始めた。


「うん。そうだね」

「え?」


「なんか、陣内くんを好きになって来たかも」


やはり、ラティファの魔法が効いて来たようだった。

陽太がいなくなり、彼が使っていた明日香への魔法の呪縛は解けたのだ。

陣内はラティファに心の中で感謝した。


だが、全然嬉しくなかった。

目の前に愛しい人が微笑んでいても。


ラティファが気になる。

彼女ももう二度と戻ってこれないのだろうか。と。


その陣内の前に明日香が立つ。色っぽい声を出しながら。


「あーん。好きな人を見てたら興奮してきちゃったぁ~」

「い?」


まだ、魔法が解けていないのだろうか?

陽太とはエッチなことをしていたということだが、好きになるということはそういうことなのか?

と陣内が思っていると、明日香は服の上から自分の胸に手を添えて持ち上げた。


「ねぇ。私の胸に触って……」

「え?」


「ね、お願い」

「い、今?」


「うん。誰も見てないよ」


胸を触るとは初めての経験だった。

ラティファを心配する気持ちが少しだけ小さくなった。

鼻血が出そうだ。


「じゃ、じゃぁ……」

「うん。早くぅ……」


ドキドキしながら陣内は手を伸ばして、彼女の胸に。

触れたその瞬間、彼女は後ろにグラついた。


「押---さーーーれーーーたーーー」


「えええ? 押され……え?」


明日香が後ろに倒れると、さっき開いたような空間の裂け目の中に倒れ込み、それはそのまま閉じてしまった。陣内は駆け寄ってその空間を触るが触れるものなどない。

三人ともいなくなって、彼は一人になってしまった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



別空間の中。陽太は水を大量に吸い込んで苦しんでいた。

ジタジタバタバタともがいている。川や海で溺れるならば岸辺を目指すのだろうが、水は自分の顔の周りにあるのでどうにもならない。


「ゴメンね。アンタが憎いわけじゃないけど……」


「ぐお……ぐお……」


陽太の手に力がなくなり、次第にぐったりとしてしまった。

完全に気を失ったのか。死んでしまったのか。


水の中にわずかに気泡が浮いている。

肺の中の最後の一つの空気すらなくなってしまったのだろう。


だが、その目がカッと見開いて光りだした。


「いい加減にせんか! この狼藉もの!」


陽太の顔から水の玉がはじけた。


「ええ!!?」


ラティファはまだ水の魔法をかけている。だがそれは強引に破られた。陽太は普段の立ち居振る舞いではなかった。自信に満ち溢れ、胸を張って腰に手を当て鋭い眼光でラティファを一瞥した。


「はっはっはっは。どうやら驚いたらしいなぁ。……ほう……。貴様はジナニヤだな? 水の化身マリッド。そうであろう」


「や、やっぱり! 正体を現したのね! すっごい魔力だわ!」


ラティファは手を前に出して構えた。何かあれば水の壁で防御する姿勢なのだ。しかし陽太は意に介さずといったところだ。


「下等な精霊如きが余に戦いを挑むとは面白い。興味があるが苦しくされた礼はさせてもらうぞ?」


シュルリ、シュルリと陽太の身に豪華な衣装が絡まり、空間から黄金の杖、それに絡まる黒い毒蛇、またがるのは火竜、そして、頭には大公爵の王冠。


「余がアスタロト大公爵である。見知ったか」

シャイターン!!」


「いかにも。足下などお目にかかれるはずもない大貴族様が相手をしてやる。潔く地獄へ落ちろ」


火竜がラティファ目掛けてゴゥ! と炎を吐き出した。

ラティファはそれを手をかざして水の壁を出し消火した。


「はっはっはっは。面白い。逃げろ逃げろ」


ラティファは転がりながら陽太から間合いを取ろうとする。

だが、逃げたと思ったが目の前にはいつの間にか火竜にまたがる陽太がいた。


ラティファは手のひらから勢いよく水流を放つ。

しかし、火竜の火が陽太に届く前にそれらを全て蒸発させてしまった。


「はっはっはっは。弱い。弱い。次はどんな手で来るのかが楽しみだ」


ラティファはこの空間に陽太を置き去りにして自分だけ出てしまおうと考えた。

空間にこっそりと裂け目を作ろうとするが……。できない。


「ふふ。空間の主導権はすでに余に移っている。知らなかったであろう。さぁ、絶望するがいい」


彼女はまた水が出る手を陽太に向ける。

陽太はその行動を一笑に伏した。


「貴様の弱点が丸見えだ」


陽太が指を鳴らすと、ラティファの腕の骨がきしむ音。

ビキビキと音を立てて、腕の内部で骨が千切れているのだ。


「あーーーあ!!」


「はーーーはっはっはっは! 小気味良い声だ! もっとだ! 泣け! 叫べ! それで水は出せまい! はっはっは……あ、あれ?」


陽太の目が通常に戻った。

正気を取り戻したのだ。とたん豪華な貴族の服も、毒蛇も火竜も消えていった。

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