表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/189

第7話 一緒に登校

ネビロスがいなくなった部屋で明日香は手を叩いてまた喜び出した。


「はっはっはっは。愉快痛快だ」

「なにがだよ。この二日満足に休息もできないよ」


「そうか。まぁ、よく寝てはいたがな」

「え?」


「どうした」

「見てたんですか? 一晩中」


「まぁな。だが退屈はせんかったぞ?人獣の睡眠に興味もあったしな」

「ありがとう。そうだよね。急に倒れちゃったし。明日香がすぐにネビロスさんをんでくれたんだろ? でもなきゃ、オレ、死んじゃってたもんな」


「ん? ん? ん?」


明日香の動きが止まった。

そして、つぶやくように


「感謝か」

「そうだけど」


「はっはっは」


と、また一通り大笑したところで


「なかなか良いものだな」


と言って嬉しそうに満面の笑みを陽太に向けた。

その言葉が陽太の胸を打つ。

美しい顔に明日香の言葉。胸が美しく震えたのだ。


明日香は、今までを思い返したような顔をして


「契約して達成しても感謝などされたことはないからな」

「契約なら、そりゃそうでしょうねぇ」


明日香の顔が笑顔になる。

それに合わせて陽太の顔にも自然に笑みがこぼれた。


「では足下が通う、その学校とやらに行くか!」


「あ! そうか! はーい」


陽太はすぐに支度を整えた。

焼いた食パンを口に食みながら学校の制服を着用する。

その隣りでは明日香が同じような真似をしていた。


二人でアパートをでて、扉に鍵をかける。

そんな仕草も明日香にとっては新鮮なようで間近で眺めていた。


それを見た陽太は微笑ましくてついつい頬の筋肉を緩めた。


陽太と明日香は二人で学校に向かって歩きだした。


「ところでさぁ」

「ん?」


「学校にはその格好では入れないよ? 消えてるの?」

「ふむ。消えているのもいいが。なぜ入れない?」


「生徒じゃないからさ。せめて制服でも着ないと」

「制服。足下が着ているようなものか」


明日香がくるりと身をひるがえすと、陽太と同じブレザー姿になった。


「わ。かわいい」

「ん? そうか?」


思わず口に出てしまった。こんなカワイイ美少女が男装するとギャップで可愛さが増量する。


「まぁ、足下に言われるのは悪い気はせんな。これで学校に入れるであろう」

「いや、ダメだよ」


「なに!? まだいかんのか? さっぱり分からん」

「オレが着てるのは男性用。アスカは女性なんだからさ……」


それを聞くと明日香は“ハッ”とした顔をして、またクルリと身をひるがえした。


「これでどうだ」


その姿は同年代の男になっていた。

それもミケランジェロのダビデ像に着色したような整った顔立ち。

そして陽太よりも高身長になり微笑みながら陽太を見下ろしていた。


「いや」


陽太は残念がった。美少女の姿が良かったのだ。良いに決まっている。

明日香がその姿が気に入ってこれから男になって一緒に暮らすとなったら二人の同棲生活は一日で破綻する。

必死にそれを阻止しようと陽太は頭をフル回転させた。


「ダメでしょ。名前がアスカなんだから。女の子じゃないと」

「そうか。この名前は牝用だったのか。なるほど。納得である」


明日香はまた一回転した。

姿は女性に戻り、今度は見事な大優秀館高等学校の女子のブレザーだった。


「わ! すげぇ~」

「正解か? 昨日のユイの姿を思い出してな」


やはりすごい。

魔法でここまでやってしまった。

陽太は明日香を連れてニコニコしながら学校への道を進んだ。


学校に到着すると回りの生徒たちが、チラチラと明日香を見ていることに気付いた。

見たこともない生徒。それが美少女なのだから当たり前だ。


周りの視線が気になり出した陽太。下手な質問をされたり、教師などが出て来たら答えに詰まると考えた。


「ねぇ、アスカ?」

「なんだ?」


「やっぱり、アスカは姿が美麗だから目立っちゃうんだよ。うまく目立たないようにできないかな?」


明日香は美麗と言われてまた気をよくした。


「そうか。わかった。ではやっぱり消えていよう」


そう言い終わると明日香は学校の大きなイチョウの大木に向かって行った。

その後ろに回ると、そこから出てこない。


陽太は驚いてイチョウの木をぐるりと回ってみたが明日香はいなかった。


「どうだ。目立たないように消えたであろう」

「わ! え? どこにいるの?」


その声は空から聞こえて来たのだ。


「今は大気に変じておる。触れても触れられまい。これで、学校とやらの中を見てこよう。足下はいつも通りの生活をせよ」


明日香は空気と身を変えたらしい。そんなことも出来るのだ。陽太はますます明日香の魔力に感心するとともに、心配がなくなり安心した。


いつも通りに自分のクラスに入ると待ち構えていたように陽太の周りにワッと人だかりができた。


「な、なに?」


「だれ? あのカワイイ子」

「ウチの学校の子じゃないよな? 転校生?」

「なんで一緒に歩いてたの? どういう関係?」


やいのやいのと楽しそうに質問攻めしてくるクラスメイト。

やはり見られていた。どうやって答えたらいいものか。


陽太はのらりくらりと質問をかわすのだが、早くも限界が来てしまった。適当にウソでもついておくか。と思ったところでチャイムの音が鳴った。


朝のホームルームとなった。陽太を囲む生徒たちは残念がって陽太の回りから離れ自分の席に戻って行くと先生が入って来た。


……明日香を伴って。


「え~。では、本日は転校生を紹介します」


転校生。その言葉に陽太は脱力感を感じた。


「はい。今日から転校してきましたアスカです。みんなヨロシクね!」


そう言って、陽太の方を見て微笑みながら手を振った。

しかも、話し方が違う。可愛い同年代の女子の言い方。

陽太はただただ驚くばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ