第66話 二つ目の願い
しかし、陣内を囲む様子がサッカーから大きく変わった。
先生、生徒からキャァキャァと言われる状況となったのだ。
学年にイケメンだけのリア充軍団があるのだがそこから声をかけられ仲間に入ることになった。
休み時間を共に過ごし、昼食も食堂で一緒に摂るのだ。
「オマエすげぇヤツだったんだなぁ」
「ホントだよ。もうちょっとオシャレにすりゃぁいい感じだぞ?」
「そう?」
「今度、アラタをイケメンにする会をカラオケでやろうぜ~。」
そう言われて、休日に服やアクセサリーを選んでもらったり、一緒にカラオケ歌ったり。
「オイオイ、カラオケ来たことねーの?」
「ははははは」
「ご、ゴメン。このリモコン、どうやってつかうの?」
「プスプスプス。アラタ、お前は愉快なヤツだなぁ~」
陣内の身辺はグルリと変わった。
友だちが出来た。ものすごくきらびやかである。
人生、受験だけじゃないんだと思った。
「アラタは将来なにになんの?」
「ああ、官僚?」
「やっぱすげー!」
告白も二人からされた。とても嬉しかったが断った。
路道明日香と付き合うのだ。
そのために願いを叶えてもらったのだ。
やはり暗示でないことが分かる。敏捷性も反射神経も全然違った。
昔だったら大きくスッ転んだところを微動だにせず回避できる。
髪も少し染めた。髪型も変えた。
メガネも取ってコンタクトにした。
いよいよ風格も変わり、女子の人気が急上昇に上がった。
休み時間になると後輩の女の子が教室に入り込んで我勝ちに勉強のアドバイスを求めた。
「先輩、これ教えてもらえませんか?」
「ああ、いいよ。これこれこうだよ」
「すっごい! 分かりやすい」
「そう? また分かんないことあったらいつでもおいで」
「ハイ!」
もう2週間前の彼ではなかった。
スポーツが出来るだけでこんなに変わるなんて思いも寄らなかった。
陣内の部屋。そこにラティファが姿を現した。
「さぁ、ご主人さま。二つ目の願いは何にするぅ?」
「いやぁ、人生面白い! でもこのままだと成績が下がっちゃう。そこは努力しないとな」
「ふーん。マジメ」
陣内は机に向かって勉強しだした。
少しサボるともうついていけなくなる。
友人と遊ぶ世界は楽しい。
だが、勉強はちゃんとしないといけないのだ。
いくら時間があっても足りないかもしれない。
陣内はペンを置いてラティファの方を見た。
ラティファは陣内のベッドに寝転んで暇つぶしに水の玉でお手玉をしていた。
「ラティファ」
「ん?」
「時間がもっと欲しい。一日24時間なんて短いよ。友だちとも遊んでたい。でも勉強もしないとダメだ。どうにかしてオレだけの時間を作れないだろうか?」
「うーん。時間系は難しいんだよね~。手っ取り早く頭良くしちゃったら?」
「うん。それでもいいんだけど、やっぱり受験は自分の力でしたい。願い事で叶えちゃったら今までの苦労はなんだったんだ? ってなっちゃうもん」
「ま! マジメ!」
「そりゃそーでしょ~」
「そっか。分かった。じゃぁ、ご主人様が机に向かったらご主人様の時間をゆっくりにして上げるよ。6分の1くらいに。そしたら1時間勉強しても6時間分勉強したことになるよ」
「ホント? すげー! じゃ、2時間やれば12時間。3時間やれば18時間!?」
「……ずいぶんやるつもりなのね。睡眠も大事だし、体力も大事だよ?」
「そっか。だよな。ゴメン。ラティファ。じゃ、時間の願い事でお願いします」
「んふ。召使いにお願いしますって。変な感じ」
ラティファは陣内に向けて二回ウィンクをした。
「はい。おしまい。さぁ、どーぞ勉学に励んで下さい」
陣内は机に向かって勉強し始めた。
やり始めると熱中するタイプだ。
最初は時計を見ていたが、どっぷりとのめり込んでいた。
「ふぁ~。今日はもう止めとくか……。あれ?」
時計を見ると勉強初めてまだ50分。
「マジか!」
しかし、書き記したノートの文字量は半端ない。
5時間は勉強した感じだった。
「そーか! そーか! そーだった!」
ラティファの魔法で時間がゆっくりになっていたのだ。
それとも、陣内の勉強のスピードが上がったのか?
どちらにせよ驚くべきことだ。
陣内がラティファの方を見ると、彼女は笑顔で微笑んだ。陣内の勉強が終わるのをずっとその背中を見ながら待っていたのだ。
二人の間では当たり前になっていた。陣内が真面目に勉強をする間、彼女が静かに待っている事が。
陣内はそんなラティファに感謝した。
「これで睡眠もゆっくりとれる~。じゃ、ラティファおやすみ~」
「おやすみ~。あたしも皿に帰りまーす」
「はいはーい」
たっぷりと就寝。
こんなに寝たのは久々であった。
陣内の毎日は劇的に変化して行った。
散々遊んで、勉強をしてたっぷりの睡眠をとる。
健康的な天才。それが陣内への新しい評価だった。
ますますモテる陣内。
だが彼の心には、路道明日香しかいなかった。
ライバルは浅川陽太。
端から見ればなんてことない男に全力の敵対心を燃やし始めたのだ。




