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第65話 スポーツ万能

次の日学校。


陣内にとって苦手な体育の授業がある。

でも、今日からは違う。


クラスで半分に分かれサッカーをするらしい。


「なんだよ。ウチのチームに陣内いんのかよ~。」

「向こうは菅原と向井いるもん。勝ち目ねーよ。」

「あ、でもキーパー浅川じゃね?いけるんじゃね?」


見ると、キーパーに浅川陽太だ。

恐らく長期で休んでいたので、病み上がりの彼は動くのが少ない場所なのだろう。


向こうにはサッカー部の菅原と向井もいる。陣内のチームには厭戦的な雰囲気が流れていた。

そこでこう切り出した。


「オレにフォワードやらせてもらえるかな? な、な~んて……」


早速スポーツ万能になったのか試してみたい。そこそこスポーツができるチームの中心人物たちに提案すると彼らは陣内の方を一瞥しながら考え出した。

おそらく、どうせ勝ち目はないし、それならそれで陣内を笑いものにできるとかそんな考えに達したのかもしれない。


「あ、ああ」

「いいぜ」


陣内がフォワードのセンターに立つと先生も驚いた。


「お。勉強の虫がフォワードか? 大したもんだ」

「ありがとうございます」


「じゃ、キックオフ!」


先生がホイッスルを咥えピーと大きな音を鳴らす。


陣内の前には敵チームの向井。サッカー部のエースだ。

余裕気な顔をして、遊んでやろうとばかりボールに足を出した。

だが陣内の方が早い。向井の頭上に軽くボールを舞い上げ、走った。


すれ違い様、向井はキョトンとしていたが、ハッとして陣内の後ろを走る。


ボールを取った陣内は敵チームを華麗にあしらう。

迫ってくるものを左右に避け、スライディングしてくるものにはボールを足で挟みあげて空中に回転しながら飛んだ。

みんなが驚いている間に陽太の待つゴールに迫る。


まるで陣内だけが一人チーターやインパラや猿のように動いてる!


「おいおい! なんだ! アイツ!」

「すげぇ! 陣内! いけ! いっちまえ!」

「ひょー! かっちょええ~!」


陣内は味方に向けて軽く笑顔で手を振った。


そして、対するゴールの陽太目掛けて、足を大きく振り上げてまっすぐにボールに振り下ろしてゆく!


陣内のボールが狙う先はゴールではない。キーパーの陽太だ。

陽太の顔面だった。授業で倒れるのは不可抗力だ。例え当たり所が悪くて死んだとしても。


よこしまな考えを抱きながら陽太目掛けて思い切ってキックを繰り出した!

ボールは勢いよく陽太の顔を目掛けて飛んでゆく。

陽太のチームメイトから負けを覚悟した悲痛な声が漏れた。


「よっ」


見ると、陽太はかぁるくキャッチしていた。

陣内は驚いている。チームメイトも驚いている。

立ち尽くす時間が数秒。陽太の掛け声で時間が戻った。


「いくぞー! 走れー!」


そう言ってポーンと陽太の投げたボールが、放物線を描いて陣内の頭の上を越えて行く。


陣内の中で考えが追い付かない。

なぜ人類トップクラスの運動能力を持つ自分のボールが、涼しい顔して軽くキャッチできてしまうのか。


陣内は空中にあるボールを見ながら全速力で追いかけ落下地点へ移動。


落下地点には敵チームの菅原が待っていたが、彼の前で高くジャンプしてオーバーヘッドキック!

菅原は驚愕して声を漏らした。


「マジかよ……」


だが、陣内にはそんな言葉は関係ない。キックの反動をそのままにひざを抱えて空中で二回回転した後に見事に着地。

視線の先には陽太。

回転を付けた数倍の脚力でにっくき陽太にボールを蹴り返したのだ。


「行けたか!?」


陣内はボールの行く先を見た。

ものすごいスピードで陽太のいるゴールに向かって行く!


「入れぇ!」


もはやこの怪物のような運動神経をもつ男を全員が見つめるだけだ。

ボールの行く末など誰も見ていなかった。

しかし、その視線はパシンという高い音の方に変わった。


「ほ」


そこにはまた、軽くボールを受け止めている陽太がいた。

陽太の胸でキャッチされたボールがまた彼のチームメイトの方に飛んでゆく。


意味が分からず呆然とする陣内。


「あ、あれ? 陣内?」


菅原の呼び声が聞こえたが、陣内はそのまま空を見ながら意識を失った。





目を覚ますと、保健室のベッドの上。保健医と学校の制服を着てマスク姿のラティファがいた。


「わ! ラティファ! な、なんで?」


陣内は驚いた。昔の奴隷のような服装から急に学校の制服。そのギャップにまた可愛らしさを感じていた。

驚く陣内に保健医が


「ん? さっきからずっと一緒にいてくれてたぞ? この転校生彼女か?」

「いえ。彼女ではありませんけど……」


「そうか。いいか? 優等生。体育の授業で張り切りすぎたんだな。過労だ。疲労でぶっ倒れたんだ。電池切れ。さっきまでサッカー部の菅原と向井もいたんだぞ?」

「へー。そうだったんですか」


「サッカー部に勧誘するっていってたけど。まぁ、オマエは受験もあるし、アイツらだって3年生だから部活ももうおしまいだしな。なんで今頃本気出すんだって悔しがってたぞ?」

「ああ。そ、そうですよねぇ」


「キミは、勉強もできるしスポーツもできるなんてスーパーマンだったんだなぁ」


「はは。あの、ラティファと二人にしてもらえませんか?」

「ああ、いいぞ。職員室にいく用事もあるし」


そう言って保健医は出て行った。

ラティファと二人きり。


「実は近くにいたの。大気に変じて様子を見てた」


そんなラティファに陣内は睨みを利かせた。


「あのさぁ。なんで? 全然通用してないじゃん。オマエ嘘つきだなぁ。多分、オレはオマエに暗示をかけられて出来ると思っただけ。それで火事場のクソ力がでて、普通以上のことをやってのけただけだろ? だから体力が無くなって意識不明になった。そーじゃねーのか?」


「何言ってんの。ご主人様は間違いなくスーパーマンなんだよ? でも、体力がついてこなかっただけ。どうする? 次の願いは体力にする?」


「うさんくせー。なんで、浅川に全部止められちまうんだよ。世界トップクラスなんじゃねーのか? オレの球は誰にも止められないんじゃねーの?」


「いやいや。相手の子がまぐれで止めただけだって。ホントにトップクラス。それどころか世界一位!」


「マジか? ホントに? じゃぁ、もうすぐスポーツテストがある。そこで好成績をだせたら信じてやろう」

「臨むところよ~」


陣内はラティファの力が催眠術か、暗示だと思ったのだった。あの空を飛んだことでさえ。

次のスポーツテストで結果が出るまで信じられないと思った。

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