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第63話 アラーの力

その女の子は頭は金の環で一つにまとめるポニーテール。

小顔で目だけはでているが鼻と口は薄絹で隠されている。だが、その奥が可愛らしい若い女性だと分かった。

服装は上半身に小さい薄いTシャツに短いチョッキ。ヘソを出している。

ズボンは紫色で腰には白い布を巻き、膝の部分が大きく膨らんでいた。


「えええ!? 誰? どっから入ったの?」


その女の子は銀色の皿を指差した。

そして自分の胸に手のひらを当ててお辞儀をし自己紹介を始めた。


「あたしはジナニアのラティファ。皿の中にいた水の精霊マリッドだよ」

「は? え? なに? ジナニア?」


「アラジンってアニメ見たこと無い? ジーニってイフリートが出て来るでしょ? アレの女版」


そう言って、金の腕輪がついた手を腰に当てて威張って見せた。


「ゴメン。見たこと無い」

「ないの? あ~。アラーよ。彼のものの無知を許したまえ~」


そう言って、床に身を伏せ土下座の姿勢になって神に祈った。

陣内は無知と言われたことに多少ムッとした。


「あー! そうだった! 定型文を言うの忘れてた。……貴方が新しいご主人様ですな。お呼出いただきありがとうございます。私は貴方様の召し使い。どんな願いでも三つ叶えて差し上げましょー!」


そう言いながら、彼女は両手を広げてクルクルと楽しそうに回転した。


「え?」

「はぁい」


「願いを叶える? 三つも?」

「そーそー。さ~。なんなりと」


願い事を叶える。それが三つも。

陣内は嬉しくなった。一つ目はもう決まっている。早速願うことにした。


「実は好きな子がいるんだ」

「あ~。ダメダメ」


「まだ何にも言ってない!」

「あのさぁ、魔法でその子の気持ちを射止めました。でも、ご主人様が心変わりしたらどうするの? 性格があわなかったとかさぁ。家風が合わないとかさぁ。その子はずっとご主人様を好きになっちゃうんだよ? 責任とれないなら止めといたほうがいい」


「あっ。そうか」

「はい、他ぁ~」


「他って言われても」

「え? ないの? 彼女が欲しいだけ? よ! 少年! 青春したいのか!?」


軽い。彼女の軽い言いようだったが普段女の子はおろか友人もいない陣内にはとても話しやすい雰囲気だった。


そして考える。明日香とのこと以外、願い事がそんなにないことを。


「じゃぁ……。なんだろ?」

「なんだろ?ってなんだろ♪」


ラティファは楽しそうに聞き返した。

陣内はしばらく考えていたが、彼女の方を向いて質問した。


「キミは? ラティファだったら、何を願う? 参考にさせてよ」

「ん? あたし? あたしに言ってんの?」


陣内はコクリとうなずいた。

ラティファはためらいながらだが楽しそうに話し出した。


「そうだね~。そうかぁ。あたし。あたしだったらねぇ。友だちとアイスクリームを食べて、カフェでずーっとお話をして。仕事で疲れたぁってお風呂に入らずに寝て、休日をただただ待つ一週間。ある時出会うの。運命の人! キャハ! そしたらどうする? ご主人様! 時間を合わせてデートして。あん! 彼のお母さんが怖い人だったらどうしよう! でもね。いつか結婚する。結婚して子供も生んで……」


陣内は長い話に引いてしまった。話し好きな魔人だなぁ。と思った。


「それで?」

「ん? それでって?」


「願い事!」

「ん。ああ。だから、平凡な人生だよ。自分の意志で決められる……そんな人生があればなぁ」


参考にならなかった。平凡な人生など欲しくない。


「お金とかは? 手っ取り早く」

「あ~。ダメ」


「なんでだよ!」

「だって、この時代のお金ってセキュリティに番号入ってたりするでしょ? だったら、どこかのお金をとることになる。誰かのを盗むってことなんだよ? 地中に眠ってる宝石を手に入れることだってできるけど、加工はどうするの? そんで、どうやって捌くの? ルートは?」


なんだかんだと理屈を並べて断られる。陣内は声を上げて怒鳴りつけた。


「役立たず!」

「なんでよ! あたしはお役立ち!」


陣内は鼻で笑った。


「はっ! なんなんだよ。結局何が出来るんだよ。実際は何もできないんじゃないの?」


そう言うと、ラティファは顔を覆う薄絹の後ろでプッと膨れたように見えた。

陣内はその可愛い姿に少したじろいだ。


「そこまで言うなら、アラーの力を思い知らせてやろうじゃないの」


そう言って、右手の人差し指をクルリと回すと陣内の体に光がまといついた。

そしてフワリと体が浮く。


「うわ。うわぁ~」


驚いていると、部屋の窓ガラスが開いた。そこに陣内の体が飛んでゆく。

ラティファの背中を追いかけて。


二人は夜の街の空を飛んでいた。夜2時30分の空を。

民家の屋根の上を飛んでゆく。

誰も気づくものなどいないだろう。


「落ちる! 落ちるぅ!」

「んふ。そんなにもがかないでご主人様。落ちないよ~だ」


二人の体は大きく舞い上がり高いビルの上へ。

ラティファの指先に合わせて陣内の体は給水タンクの上に舞い降りた。


あまりのことにあっけにとられた陣内。

魔法などと非科学的なことが本当にあるのだと目の前で思い知った。


「……すげぇ」

「どう?」


横にラティファの体もふわりと舞い降りる。

その時、顔を覆う黒い網も舞い上がってその姿があらわになった。


「か、かわいい……」

「え? んふふ。そう? ホントは見せちゃダメだけど」


「い、いや。ゴメン」


陣内は、ラティファから顔をそらした。赤い顔をしながら。

そして、夜の街を見る。

闇に光る街の少ない光。たまに道を走る車のライト。不思議と心が落ち着いた。


「すごいなぁ。夜ってこんな雰囲気なんだ」

「そうだねぇ。キレイだねぇ」


「勉強、勉強でこんなところ見たことなかったから」

「ふーん。そうなんだ」


「でも、こんな力があるんだね」

「そーですよ。お気に召しました?」


「うん」

「じゃ、部屋に帰りましょうか。その間に願い事考えておいて」


そう言いながらラティファは給水タンクに立ち上がると、ツルリ! 滑って闇の奈落に落ちそうになった。


「危ない!」


とっさに伸ばす陣内の腕。それがラティファの腕を摑んだ。

だが、重さに堪えきれず巻き込まれて陣内も奈落の中に落ちていってしまった。

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