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第62話 銀色の皿

大優秀館高等学校。

学力、体力に優れる生徒を全国から集め、優秀な人材を育成し、開校以来大臣や有名なスポーツ選手を排出して来た日本有数の高レベル高等学校。


登校時間。生徒たちは学校への道を整然と進んで行く。


そこに一人の少年がいた。


陣内じんない あらた。17歳。


彼は目の前を歩く者を見つめていた。


どう 明日香あすか


学年トップの学力を持つ。

まるで白人のような顔だち。

濡れたような青い黒髪。

イタリアの彫像のような完全なる姿形。

そこら中が黄金比で出来ているような。

そんな妖艶な姿なのだ。


彼は彼女に対し密かな恋心を抱いていた。


こんな人間がいるのかと誰しもが思うだろう。

憧れだ。彼女のそばにいれたら、どんなにいいことだろう。


しかし、その隣にはいつも浅川あさかわ 陽太ひなたという冴えない男。


パッとしない風貌に、学力は中程度。

スポーツはお粗末だ。


なぜ彼なのか? 陣内の心の中にメラメラと闘志が湧いてくるが彼女が選んだ人。

そう思うと咲きそうな恋心がしぼんでしまう。


同じクラスでいつもの席に座る明日香。

凛とした顔で自分の席に座って正面を向いていた。


辺りを見回して、いつもついている陽太の姿はない。

陣内は思い切って立ち上がった。


明日香の前に立ち初めて声をかけてみた。


「ろ、ろ、ろ、路道くん、おはよう」


明日香は微笑んで陣内を見つめた。


「あ、おはよう。えーと……」


「陣内 新です」

「アー! 知ってる。学年5位に入ってる人」


「え? え? え? 知ってるんですか?」

「うん。私は1位だけど」


会話が弾んだ。陣内は嬉しくなって緊張の糸が少しずつほぐれて行った。


「そーなんですよね~。すごいです。路道くんは」

「ありがと」


「今日、浅川くんは一緒じゃないの?」


明日香はすでにピーンと来ていた。

この男は自分に興味がある。好意を持っている。

陽太がいないからつまらない。少しこの男をからかってやろう。とそう思ったのだ。


「昨日は一晩中がんばっちゃって、全然ベッドで寝てないから今日は学校休むみたい」

「え!?」


「も~。身も心も私ヒナタのトリコなんだぁ」


嘘は言っていない。マラソンを一晩中してきてベッドで寝ていない。

全身筋肉痛で今日学校は休みなのだ。


「うぇ……」


言葉を受け取った陣内は勘違いをし別の想像をして後ろに倒れてしまい、保健室に担がれていった。


明日香はニッコリと笑い“ああ楽しい!”と思った。


その日、陣内はずっと保健室にいた。精神的にやられてしまったのだ。

明日香を思う気持ち。陽太を憎いと思う気持ち。


明日香の体に手を出しているという黒いドロドロとした気持ちが陣内の中に増幅されてゆく。

夕方になって落ち着いたようで保健の若い女教師がベッドに寝ている彼に声をかけた。


「どうだ? もう大丈夫か? 放課後だぞ? 家に帰って休め」

「……ハイ」


「勉強のし過ぎか? 自己管理をしっかりしろよ」

「……ハイ。そうですよね」


陣内は保健室を出て、校門をくぐり家路についた。


明日香の身がすでに陽太に汚されていると思うと胸が潰される思いだ。

美しく学力もある彼女には自分こそが相応しい。


「クソ。浅川なんてゴミみたいなやつと。たかが親戚ってだけのクセに!」


気鬱な気持ちのまま進むといつもの通学路に目立たない古びた妖しい店がある。

店頭の貼り紙にこう書いてあった。


「あなたの願い叶えます? は。バカバカしい」


陣内はそのまま一度通り過ぎたが、もう一度戻ってくる。

そして埃だらけのショーウィンドウを覗いてみた。


そこには古びた骨とう品が所狭しと陳列されていたのだ。

それがいったいどうやって願いを叶えるのか?

あり得ないセールスポイントに呆れてしまった。


そう思いながらしばらく店内を見ていると


「いらっしゃい」


「うわ!」


声の方を見ると、自分の腰ほどの老婆がいた。


「さぁさ。興味があるなら店の中に入って」

「え、ええ」


店内に入ると、古びた道具が重なり、壺やら部族の衣装やら武器やら物騒なものまである。


「願いを叶えたいんでしょう?」

「え? え? まぁ」


「それじゃ、これだ」


といって出してきたのは銀色の皿。


「なにこれ」

「一万円」


「はぁ? これが? 無理無理。そんな金ないよ」

「ああ。そう。あるでしょ? 本当は」


老婆の目が妖しく光る。


たしかにあるが、そんな汚い皿に一万円も出せない。しかも願いを叶えるなど信用できない。


「その皿をよ~く拭いて、それに水をふちまで入れてみな。きっといいことが起こるよ」


陣内は老婆を蔑んだ目で見ていたが、体が言うことを聞かない。なぜか一万円を渡していたのだ。


「ふふ。毎度あり」


陣内は新聞紙に包まれた銀の皿を持って店の外に立っていた。


「オイオイ。おかしいだろ。オレ! ババアの思うつぼだろ。バッカ見てぇ~」


皿をカバンに入れ、それから塾。帰宅が22時。

部屋に入るとそのまま机の方に向かった。

さらに勉強するつもりなのだ。


机にカバンを置くとカチと金属音がした。


「ああ。そーだ。1万損した皿が入ってるんだ」


陣内は、新聞紙から皿を取り出してみた。


「きたねーな。そういえば、よく拭いて水を入れろとかって言ってたっけ。バカバカしい」


大きな雑巾でキュッキュと音がするくらい磨いた。

細かい装飾のところは綿棒でクリクリと拭いて。


気がついたら深夜の2時になっていた。


「うわ! やべ! ついクセで熱中しすぎた。くっそ~。こんな分けのわかんない皿に時間費やしちまった。ハァ。脱力大きいぞ~」


皿を持ったまま、ベッドにドサリ。

磨いた皿を見てみる。自分の顔がそこに映っていた。それほどまでにきれいに磨いたのだ。


「ハァ。どーしょうもねぇな。こんな皿なんにも使えねーのに。人生で一番無駄な時間を過ごしたわ」


しかし、無駄と分かっていても老婆の言ったとおりにしてみようと、机の上に皿を置いてコップに水を入れて皿に注いでみた。


「えーと。どうすりゃいいんだろ? 祈ればいいのかな?」


陣内はひざまずいて皿に祈りを捧げた。


「え~お皿さま。ご利益を持ちまして路道アスカさんと付き合わせて下さい。将来は一緒になりたいです」


――気のせいか、願いが叶ったような。そんな気がした。


「なんだろ? この感覚」


「なにが?」


自分以外の声!

驚いて陣内が声の方を振り返ってみると、露出度の高い衣裳を着た同じくらいの年代のキレイな女の子が立っていた。

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