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第52話 ひとり

6日目。

前野との稽古もずいぶん上達した。

その時、二人は空中で蹴りあっていた。前野が空中を満月を描いて飛ぶ。陽太はそれを追いかけて壁を蹴り矢のように追撃し蹴り込もうとする。


しかし、攻撃は当たらず、前野のほうから3つ4つ多い反撃をくらう。

陽太の体は床に墜落してゆくが途中で猫のように身をひるがえして着地した。


「うーん。筋がいい。」


その着地した後ろに前野は立っており、足払いをかけて転ばせた。

陽太は床に倒れ、天井を見上げながら答えた。


「ハァ、ハァ、ハァ、マジすか」


「まぁ、人間の中ではかなりの腕前になったと思うよ」

「マジすか。あざっす」


「あ~。明日で終わりか。あれ? 明日はアッちゃん休みだからアッちゃんがいるって言ってたっけか」

「あ~。そうでしたね~」


陽太は寝ながら顔の汗をぬぐった。

その顔には笑顔。稽古を楽しんでいた。

腕や足は元より胸はかなりの厚みに膨らんでいた。


「あれ? 明日で終わり? なんでしたっけ?」


前野はフゥとため息をついた。


「本末転倒。鬼に狙われて暇だから武術の稽古してんじゃん」

「あ! そうでした!」


「ふふ。タケちゃんにも及ばないけど、アンタが持ってるDVDの人たちにも勝てるよ。まぁ普通の人間には空中殺法はできないだろうしね」

「あざっす。飛ばないことには前野さんについていけないんで。壁でも床でも机も椅子の足も使えるのはなんでも使いました」


「ふふ。立派。立派」

「しかし、鬼こないっすね」


「まぁ、次来たらウチも容赦しない。アンタも一緒に戦っていいから。倒しちゃおう」

「え? マジすか! 認められた」


「うん。前の時は狭いところでアンタを守りながら戦うのはちょっと自信なかった。夕方だし人目につくし。でも、次は一緒にやっちゃおう」

「ハ、ハイ!」


その日も何もおきずに終わった。



最終日の朝。

陽太、明日香、竹丸がキッチンに座り、前野の朝食を待つ。


「おまちどおさま~。」


みんな笑顔でいただきますとともに食事を開始した。


陽太はこの団欒が好きだ。

まるで家族のようだ。

前野が姉。竹丸が兄。明日香がハチャメチャな妹。

年齢は全く年上だがそんな気がする。


「今日で最後ですね。向こうが宣告したのは。アッちゃんさんとタマモさんの強さを感じて諦めたのかもしれませんが、まだ気は抜けません。最後ですから気を引き締めていきましょう」


竹丸さんの宣言に陽太は「ハイ」と返事をした。


前野は竹丸さんの横で黙ってトントンと指で机を叩いた。


「え?」


竹丸は前野の方を見た。

なにかの合図らしい。


「ダメですよ。今言ったばっかりじゃないですか」

「だって、アッちゃんが今日は守ってくれるんだって言ってたじゃん」


「うん。言ったよ。二人でデートして来たら?」


竹丸は余裕過ぎる明日香を見て手で顔を覆った。油断が命取りになる。二人にとってはさして強敵ではないのだろう。しかしその意識ではダメなのだと思ったのだが、すでに前野は立ち上がっていた。


「うん、ありがとう! 夕方には戻るから!」


そう言う前野に竹丸はうろたえた。


「そ、そんなぁ。ダメですよぉ」

「大丈夫だよ! アッちゃんなら。100人相手でもだいじょーぶ~」


「そーゆーこと」


と明日香はイスにふんぞり返ってハナをふふんとならして腕組みをした。


「ダメです。ダメです。今日は四人でいましょ!」


だがそう言った途端、竹丸はカクンとなってテーブルに突っ伏してクゥクゥと寝息を立てていた。


「ありゃ! タケちゃんどうしたのかな??」


どうしたのかではない。おそらく前野が何かをした。

一度陽太にも使った睡眠の術だ。しかし、前野は竹丸を簡単に肩に担いだ。


「ごめーん。ウチに連れて帰って寝かすね?」


バレバレだった。陽太にすらわかる。

竹丸はマジメだから起きたら戻ってくるだろう。しかし彼女は長い間二人きりになれなかったのでそこまでして竹丸を連れ出したかったのだ。


竹丸を肩に担いだ前野が出てゆく。

バタンとアパートの扉がしまると静寂が部屋の中を襲った。


陽太はすぐさまドアのカギをしめた。

そして、首を少しずつ動かして明日香の方に目をやった。


久しぶりの二人っきり。

意識してしまう。あの時の、陰陽和合。

またしてはくれまいかと陽太は期待していた。


「ん。ん!」


空咳をしてみた。


明日香は。


またマンガ見てる。


少しは興味を持って欲しい。そしてキスして欲しい。

仕方ないので、マンガ見てる明日香の横で、気を惹くための武術の形をしてみた。


ビュ!


ビュ!


ビュ!


ハァ――――!!


「ヒナタ」

「はい!」


「うざい」

「はい……」


仕方なしに自分もマンガを読むことに。

二人して会話もなくしばらく読書。


「この」

「ん?」


「このマンガの続きって、今週の木曜に発売されるんじゃなかったか?」

「あっ。そう言えば」


「そーだ。そーだ。ちょっと買いに行ってくるか。その間、タケに代わってもらおう」

「そう?」


明日香はスマホを取り出し、竹丸に電話をしているようだった。


「ああタケ? 起きたの? ふーんそう。来る準備をしてたのね。じゃすぐ来るのね。あたし少しの間マンガ買ってくるから。え? うんうん。大丈夫。大丈夫。カギ開けなきゃいいんでしょ? 言っとくから。しつこいよ。タケ」


電話を切って明日香は陽太の方を見た。


「タケがくるから暫時待て。決してドアを開けるでないぞ? カギはタケが持っているのであるから」

「ああ。ウン」


その瞬間、明日香の姿が消えた。

瞬間移動で消えた。マンガを買いに行ったんだろう。

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