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第50話 来訪者

夕方。明日香は下校の足でそのままバイトに行ったらしい。

陽太は前野との稽古でへとへとになっていた。


「さて。夕食の支度をするか」


と言って前野は、ぶっ倒れている陽太に背を向け妖艶に腰を振りながらキッチンに向かって行く。

陽太は、激痛走る体に竹丸から借りた膏薬を体中に塗りたくっていた。


「あー。……ホントに効く。この薬。痛みがスッと引いてく~」

「ふふ。天狗の道具はすごいね」


その時。ピンポーンとインターホンが鳴った。

陽太は薬のおかげで無痛となった体を起こし、玄関に向かって行った。


「はーい」


警戒しながらドアに向かって声をかけると、戻って来た返事。


「あー。オレオレ。遼太郎」

「結だよ~。遊びに来た」


陽太はホッとしてドアに近づいてドアノブを引こうとした。

そこに、前野が駆けてきて、陽太の手に己の手を重ねてを止めた。


「ちょっと」

「え?」


「開けてホントにいいの?」


そう言われてみればそうだ。竹丸が言っていた。

鬼が化けてくるかもしれないと。狙っているのは、鬼の腕と陽太の命。油断が一番の大敵たのだ。


陽太がのぞき窓から外を見てみてみると明らかに遼太郎と結だった。しかし化けてるのかもしれない。


「ごめーん。開けられない。ちょっと、風邪ひいた」


「ウソ。アスカさんから聞いたよ。武術の稽古してたんだろ?」

「そーだよ。ちょっとだけ練習風景みようと思って」


「あー。ゴメン。それで汗かきすぎてマジ風邪なんだわ。うつすとわりぃから、マジ今日はダメ」


「あっそ。まーいいけど」

「じゃぁー。また。今度ね」


「うん」


普通に帰るつもりだ。鬼ならゴリ押しして残るのでは?

やけにあっさりだ。本物ではないのか?

陽太が前野の方を見ると、首を横に振ってる。


やはりヤメておくことにした。


遼太郎と結の足音が遠ざかり、階段を降りていく音が聞こえた。


しかしまた戻って来た。一つの足音が走ってくるのが聞こえる。

陽太のアパートのドアをドンドンと叩く!


「ヒナタ! 開けてくれ! イバラキ先生とホシクマ先生だ! 急に襲ってきたんだ! 結が! 結が!」


覗き窓から覗くと、遼太郎の顔に血のようなものがべっとりとついている。

続いて結の声だ。


「キャーーー! あたしの腕が! 腕がぁ!」


「ヒナタ! 開けてくれ! 結の片手がちぎれちまった! 二人は異常者だ! こっちに向かってくる!」


階段を上るハイヒールのコツコツという靴音が聞こえてくる。


「ちょ、ちょっと待ってろ!」


陽太は施錠を外そうとしたその手にまたもや前野の手が置かれた。


「な、なに?」


前野は首を横に振り、外の二人に話しかけたんだ。


「アンタたち。茨木童子と星熊童子でしょ?」


わーわーと騒いでいたが、二人の声はピタリと止まった。


「………あんた誰?」


玉藻前たまものまえって言ってもわかんないでしょ? 蘇妲己そだっきと言えばわかる?」


「……ああ」

「キツネね」


「アンタたちが先に仕掛けてきたんだから。もう、やめなよ。勝ち目ないでしょ?今ドアをあけてウチがアンタたちを倒してもいいんだよ? でも、そうはしない。無駄な復讐はやめな。それがウチの情け」


「フン。勝手なことを」

「このババア」


「……何ですって!?」


「一族の恨み、そう簡単に忘れられっかよ! クソババア」

「言っとくけど、私達に誘惑の術は通用しないよ。女だからねぇ」


「なにが女だよ。オカマだろ? 男のくせに」

「はぁ? ババアのくせに」


玄関のドアを一枚挟んで内外でのやりとり。二人の鬼は挑発する。

その度に前野の顔が変貌していく。髪の毛が天を衝くように逆立ち、目が吊り上がって口には裂けたような隈取を塗ったような文様が出ていた。そしてキリキリと歯ぎしりをしたが無理に怒りを抑えるように耐えた。


「七日間、きっちりとアンタの腕は守り切るから。言っとくけど、こっちには強いヤツばっか。アンタたちに到底勝ち目はないから」

「そーみたいだね。アンタもそーだけど。もう一人もかなりの力の持ち主だ。だから、アンタらがいない時を狙うわ」


「どーかな? 絶対無理だよ。」

「絶対なんてありえねーから。アンタだって、いんが絶対滅びねーと思ってたろ? 鳥羽上皇の寵愛が一生続くと思ってたろ?」


「守り切って見せる。アンタたちになんか絶対に渡さないから」


「はは。ババアの鼻息だけは荒いね」

「年寄りの冷や水。せいぜい、長生きしてください。おばーさーん」


カツコツという足音が遠ざかってゆく。二人は去って行ったようだった。


「クソ!」


足音が聞こえなくなったと同時に前野は叫び陽太を睨んだ。

恐ろしい顔だ。まさに大妖怪降臨といった顔だった。陽太はアタフタとしながら必死に前野を褒め称えた。


「若い! 美人! カワイイ! いよ! 日本一! いや、世界一! ミスユニバーサル!」

「ウソ。おだてには乗らないよ!」


そう言いながら陽太に詰め寄ってくる。八つ当たりされてはたまらない。


「いやいや、ホント! バイトに初めて行った時、こんな美人見たことないと思ったもん。近づきにくいな~と思ってたら、今じゃオレの武術の先生! 料理は上手だし、もう、すごい。あこがれちゃう。竹丸さんに嫉妬してる」


前野は腕組みをしながらそれを聞いていたが、やがて天を衝いていた髪が徐々に下がり、隈取のような文様も消えニンマリと笑って陽太の背中をパンと叩いた。


「いっ!」

「まったく~。よく言われるよ? そんなこと。言われ慣れちゃって、ぜーんぜんおだてになってないから!」


そう言いながら鼻歌交じりにキッチンに向かった。


「うん。丁度良く煮えた。んふふ」


味見をしながら微笑んでいる。機嫌が直ったようだった。


陽太にとって前野がいてよかった。止められていなかったら危なかったのだろう。

おそらく鬼も恐れてるんだろう。前野のことを。だからこその挑発だったのだろう。


しかし、あのように化けるのだ。


茨木も星隈も先生に化けていた時はすごい美人だった。

それが、前野の話を聞く分には本当は男なのだ。


鬼は怖い。陽太はさらなる恐怖を感じたのだった。

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