第49話 お説教
目を覚ますと、明日香と前野は床にボウルを置いて、その中に入っているポップコーンを食べながらDVDを見ていた。
竹丸はキッチンのテーブルに向かって学校の仕事をしていた。
陽太はあのまま気絶のようになっていたらしい。全裸のままで上に毛布だけがかけられていた。
「ん、んー」
目覚めると、前野が声をかけてきた。
「お! 起きた。大丈夫かぁ?」
「だ、大丈夫」
「ゴメンね~。途中だったのに。タケちゃん、アッちゃんから合鍵もらってたから、開けたらさぁ」
明日香は前野に寄りかかって
「いや~、ホントに恥ずかしいもんだね~。参った。参った。」
と言いながら前野の長い髪をいじくった。
陽太はあんな姿を見られて恥ずかしい気持ちのまま足を伸ばして、下着を取り、毛布の中で着用した。
前野がニヤニヤしながら
「いや~。面白かった。へー。やっぱりそーなんだね~。二人とも」
とイシシと笑った。
「だって、二人は恋人同士だモン。ねーーー」
と陽太の方を見ながら「ねー」を合わせさせようとするが、陽太はそんな気分ではなかった。
その時竹丸が「コホン」と空咳をうった。
明日香はそれに「ん?」と返事して顔を向ける。
竹丸の表情は真剣そのものだった。
「お二人の生活態度は大変けしからんものです。教諭として忠告します。不純異性交遊をこのまま続けたらダメです! なぜ、お酒やタバコは年齢制限があるのでしょうか? それは大人として自制できる年齢だと考えているからです。責任が持てるからです。その行為も一緒です。あなたたちは、自分に責任を持てますか? ただれた生活は身の破滅を招きます! 以後注意するように! 自制できないならアッちゃんさんはタマモさんと暮らし、ワタクシとヒナタさんで共同生活をするようにします! 分かりましたか! いいですね!」
陽太は竹丸のまっすぐな忠告におずおずと「は、はい」と返事した。
だが、陽太のパートナーである明日香は口を尖らせていた。
「ふーん。なによぉ」
その態度に陽太の方がたじろぐ。
「アッちゃんさん!」
「分かったよ! もう!」
と、プッとふくれてみせた。
陽太はそんな様子をかわいいと思ったが、そんなこと思っている場合ではないと考えを改めた。
「以上、お説教を終わりにします」
そう言いながら、竹丸はまた机に向かって仕事を始めた。
そんな竹丸の肩に前野が抱きつく。
「ヒュー。カッコイイ! ね? そう思わない?」
前野に対して空気読めと思いつつも陽太は竹丸の横に立ち、もう一度頭を下げた。
「オレ、父を早くに亡くしたから。叱られて嬉しかったです。竹丸さん、ありがとう」
そんな陽太のために竹丸仕事を中断し、陽太の顔を見上げてニコリと笑った。
「今日は。何も異常はありませんでしたか?」
「うん。なかった。前野さんに武術の稽古をつけてもらったけど、あっという間にノックアウトされちゃった」
「そりゃそうでしょう。通常では勝てませんね。ワタクシもよく部屋で訓練してもらいますが、なかなか勝てません。ですからヒナタさんも、この期間中にきっと強くなれますよ」
「うん。ありがとう」
前野は厳しい師匠の目を陽太に向けた。
「素質はある。基礎がない。ま、明日っから鍛えてやるから。タケちゃん、すぐ直る傷薬貸しといて」
「あ、はい」
竹丸は、天狗の道具袋から二枚貝を渡してきた。
「天狗の秘薬です。打ち身、切り傷、骨接ぎによく効きます」
「タケの骨折は?」
明日香がそういうと、竹丸は折れた手首をグリグリと回して見せた。
「この通り。まぁ、痛みも消えるので。まだちゃんとは治ってはいませんが」
「へー。すごい。」
「で? そのイバラキとかホシナントカは?」
と、明日香は竹丸に質問した。教師の茨木と星隈のことだ。二人はどうなってしまったのか?
「はい。案の定、学校には来ませんでした。しばらく休むという連絡があったようですが。詳細は聞けずじまいでした」
「そっか」
「きっと、あと六日で攻めてくるはずです。みなさんも気持ちを入れてお願いします」
それに対してみんなで返事をする。
「ふふ。人材的には勝利確実ですが、向こうも百戦錬磨。十二分に気を付けていきましょう」
そして就寝時間。
明日香は陽太より1000円の小遣いをもらい夜の街に出かけて行った。ゲーセンとかマンガ喫茶に行くらしい。パトロールという名目だが、夜の街でヒマつぶしをするのだ。
陽太はベッドで一人寝。
ベッドの下には、アツアツの恋人の二人。何もしないとは思うが。
だが陽太は先ほど明日香に術をかけられ、まだ体中がモゾモゾするから、この二人にどっかに行ってくれないかなと内心思いながら就寝した。
次の日。明日香と竹丸は学校へ。
竹丸が職員室に入ると、なにやら慌ただしい。竹丸は教頭先生に話しかけてみた。
「おはようございます。どうしました?」
「おお三峰先生。なんでも、伊吹組の組長以下、構成員が行方不明になったというニュースがでたんです」
なるほど。明日香が殴り込みで全員地獄に送ったというのは伊吹組という巨大暴力団組織だったのだと竹丸は思った。
教頭は、話を続けた。
「みんな消えてしまったんですが、その犯人というのが」
「え? 犯人?」
思わず、大声を出してしまった。
まさか、二人のどちらかが監視カメラにでも映ったのか? そう思ったのである。
「どうか、なさいましたか?」
「いえ。その犯人というのは」
「いえ、犯人ではありません。参考人というか、あやしいとされる人物ですな。それが」
ゴクリ。竹丸は息を飲んだ。
「イバラキ先生と、ホシクマ先生なんです」
「え?」
「ええ、屋敷の正面にある監視カメラにお二人が屋敷に入ってゆく姿が映っていて、数時間後に出ていく姿も映っています。その後にこの屋敷から人が消えた。お二人も休んでいる。妖しいと思いませんか?」
「ホントですね」
「これは、ミステリーですぞ!」
「まさしく」
二人はアジトに戻ったのだ。そしたら仲間が全員消えていて、驚き復讐を誓ってアジトを出た。
その潜伏先はどこなのか竹丸には分からなかった。
そして、陽太と明日香の教室。
明日香は遼太郎と結と話をしていた。遼太郎と結は興奮を抑えられなかった。
「すっごいミステリーだよね。暴力団員が全員消えちゃうなんて」
「ホントだよね。神隠しだよ。時空の歪みが生まれて、かくれ里に行っちゃったんんだ!」
大興奮の明日香の前ではしゃぐ二人。
「それに、ウチの先生が二人も絡んでるなんて。二人はきっと特別な力を持っていたに違いない」
「うんうん。時間と空間を開ける力? 別の次元のドアを開けられる……そんな能力? どう思う? アスカちゃん」
「うんうん。二人の言うことが真相だと思うけど、ちょっと二人と話したい。どこか静かなところないかな?」
「あ。うん」
といって、三人は結の部室。美術室へ移動。
だーれもこない。
明日香はいつもの口調に戻した。
「あの、暴力団消失のことだが」
「うん」
「余だ」
「え?」
「は? アスカちゃんが?」
「言ったではないか。ヒナタが鬼に狙われていると。その鬼の拠点が暴力団の屋敷だったのだ。だから、全員地獄に送ってやった。そして、生き残りの鬼が、ウチの教諭二人だ」
「イバラキ先生と、ホシクマ先生??」
「ご明算」
「えー! 死神やゾンビに続いて、今度は鬼かよ! どうなんてんだよぉ」
明日香は遼太郎のリアクションを見て、ふふっと笑った。
「怖いか?」
「見てみてぇーーー!!」
明日香は想像したのとは逆の解答が戻って来たので多少ズッコケた。
「はーはっはっはっは! お前たちは大したやつだ! ヒナタとは大違い!」
「そう?」
「うむ。あやつはいろんなところでうろたえるからな。それを見るのも面白いのだが」
「ヒナタ。どうしてる?」
「どーも、こーもない。健康そのものだ。休んでいる間は武術の稽古をつけてもらっておる」
「武術の稽古」
遼太郎と結の二人は顔を見合わせた。




