第44話 秘事
夜になった。陽太の部屋。
一気に慌ただしくなった。竹丸が自室に帰り寝具を運び入れる。
それは自分の仕事ではないと言って明日香はいつものように夜遊び。
前野と竹丸でテキパキと家具を片し狭かった部屋を広々と模様替えさせた。
「さて、明日に備えて寝ましょう」
との竹丸の号令の元、陽太のベッドの横に敷いた布団に竹丸。
……と彼の頭を自分の胸に抱き入れている前野。
「あの~」
「ハイ。なんでしょう」
竹丸がむくりと起き上がる。
「いや、前野さん」
「ん?」
「なんでいるの?」
「だってタケちゃんがこんな体で守ってるし、ウチも独り寝はさみしいし」
と、竹丸の胸板の上で「の」の字を書いた。
「だからって」
「まぁまぁ気にしなさんな。ウチの魅力に負けて襲いたくなっちゃぁダメだよ? 返り討ちにするからね?」
「いや、そういう問題じゃない」
「じゃなによ」
「あの~。オレの横でラブラブはしないでくださいね?」
「そんな。しませんよ。理性があります。元動物とは言え」
と、竹丸は言うが
「…………」
「もう一人は? なんでだまってるの?」
「するわけないじゃん。うるさいな! 早く寝ろよ!」
「わーこわ!」
仕方なく、三人で川の字になって就寝。
何事も無く、みんなでぐっすりと。
「うぐぐぐぐぐぅ……」
「んっふふふふふ」
「ちょ、ちょっとタマモさぁん」
「動けないでしょ? もうダメでしょ?」
「いーかげんにしてください! ヒナタさんが起きたらどうするんですかぁ」
「起きないよ」
「……まさか」
「うん。催眠の術をかけちゃったもんね~」
「うそぉ。あーんダメダメ。あーん犬になっちゃうぅぅ。犬になっちゃうぅぅ」
「ホラホラ、我慢しないでなっちゃいなって!」
「ダメダメ。痛い痛い。手が折れてるんですって。あーん。やめてぇ~~」
「ああん! カワイイ。カワイイ」
「あーーーん」
前野と竹丸が体を絡ませているころ。
茨木と星隈はあのヤクザの屋敷にいた。
「ウソだろ? 酒呑のオヤジがそう簡単に」
大きな屋敷。広い畳の上にたった二人だけ。辺りを見回すが人っ子一人いない。
「茨木童子。どこにもオヤジも熊童子も、虎熊童子も、金熊童子もいない。全滅。全員消失だよ。どうなってんだ!」
「私たちが三峰と浅川と戦ってる頃、やつらの別働隊に狙われたんだろうね。きっと。とんでもない力の持ち主だよ。星熊童子」
「どうする?」
「ちょっとまて」
「ん?」
「酒呑のオヤジの思念を感じるよ。こっちだ!」
二人が長い廊下を進んでゆくと、そこは明日香が全員を地獄送りにかけた大広間だった。
「ここだ。オヤジはここで酒を飲んで。いい感じで酔った頃に、突然の来訪者が現れた。一人? いや、二人だ」
「ちょっと待ってよ。なんで、ここまで二人で到達出来るわけ?」
「うん。相当な力を持ってるんだろうね。しかも、兵を殺しもせず、傷も負わせずってのが解せない。でも、オヤジはここで、そいつに斬り掛かった!」
と、茨木は刀を振り下ろす形を真似した。
「でも死ななかった?」
「そうだね。逆にみんなまとめて、そうか。誰も殺されちゃいない。地獄だ。地獄に送られたんだ」
「マジ?」
「そうだ。すごい力だ。こいつには敵わない。オヤジが最後に言ってる。オレだ。オレの名前だ。鬼の穴を開けてくれ? そうか!」
「鬼の穴? 大江山の?」
「ああ。地獄へ通じる穴。そこからオヤジ達をもう一度地上に戻せば良い」
「ふふ。なるほど」
「でも、穴をあけるには印を結ばなきゃならない。両手が必要だ。だからその前に浅川と三峰を殺し、腕を奪い返す。そして大江山に行って鬼の穴をあけて一族を救う」
「よし! それでいこう!」
「あやつら、許せん!」
二人は恨み言を言いながらその場所から姿を消した。




