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第43話 凱旋

その頃の女子二人。

若い男たちにナンパされ、カラオケ屋に入っていた。一人の男は軽く盛り上がる今時の歌を歌っている。

前野はチョコレートソースがふんだんにかかったパンケーキをペロリと平らげていた。明日香は大きなフルーツパフェを食べて口元を白く汚していた。


「あーん。もうスペシャルイチゴサンデー残っちゃう~」

「だから無理って言ったじゃん! 5人分だって言ったじゃん!」


「だってぇ~。食べれると思ったんだモン」


そう言いながらパフェを長いスプーンでつつく明日香の元に男が腰を滑らせて近寄ってくる。


「ホントに可愛いね~。アッちゃん。一緒に歌わない?」

「いいよ~。童謡? それとも軍歌?」


「ぐんか? 何それ。昭和? 最近の歌知らないんだァ」

「うん。外国にずっと住んでたから。いろいろ教えて」


「いいよ。いろいろ教えてあげるよ」


男は明日香の白い五本の指に自分の手を重ね、優しく握り合わせた。そして真剣な眼差しを送る。だが明日香はサッパリ見ていなかった。……と男が明日香を誘っているところで、前野はわざとらしくスマフォを見た。


「あ! 彼氏からライン来てた。帰んなきゃ!」

「アン。マジ~。」


と言って、二人は立ち上がって素早くドアをあけて出ていってしまう。


「あ、ちょっと待ってよ!」

「ちょっとちょっと!」


男たちは驚いて、歌もマイクも入力機器も放り出してドアを開けて二人を追いかけた。二人がドアを出た方向を見ると……行き止まりで誰もいない。


「あれ?」

「こっちに行ったよねぇ?」


「なんで消えた?」

「ウソ。マジかよ。」


「ゆうれいか?」

「軍歌って言ってた。戦争で死んだ?」


ナンパ大学生の二人はお互いの青い顔を見つめ合った。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



その頃、陽太は竹丸に肩を貸してアパートへの道を急いでいた。


「無様だね」


竹丸は陽太から離れて彼をかばうように身構え、声のする方を睨みつけた。


「なに? 負けちゃったの? 何人に?」


前野だった。竹丸は、ホゥと安堵のため息をついた。

そして、一筋涙をこぼした。


「タマモさぁ~ん。ワタクシまだまだでした! 不甲斐ない自分に腹が立ちます!」


「カワイイ……」


「え?」

「いや、なんでもない」


前野が赤い顔をしているその後ろからコツコツと靴音を鳴らしながら御大登場。

笑顔の明日香大先生だった。


「ふーん。まだ生き残りがいたのかなぁ? それとも別の?」

「ええ。ウチの学校の教諭のイバラキとホシクマという二人です。正体はうすうすは気づいてはいたのですが、直前まで鬼とは気づかず。結局片手首を折られてしまいました」


「ふーん。ドンマイ。ドンマイ」

「ですがヒナタさんが、そいつの片手を切り落として、こうやってワタクシが持っています」


「なんと誠か! ヒナタ。でかした! 褒めてつかわす!」


話し方を変えながら明日香は喜んで陽太に抱きついた。顔が赤くなる陽太。


「それについて、作戦会議を開きます。まずはヒナタさんの部屋に参りましょう!」


竹丸の言葉で、四人は陽太の部屋に全員集合。

明日香はいつものイスに腰を下ろした。


竹丸は前野に支えられながら絨毯の上に。

陽太はキッチンからイスを引っ張り出して、竹丸を中心にしてみんなで座った。


「さて、そちらの話しからまず聞きましょう」


「うん。私とタマちゃんで100人くらい相手したよ。アッちゃんは誘惑の術で混乱させて、ウチは全員地獄に送ってやった」

「ねー!」


陽太も竹丸も軽く言う明日香の言葉に驚いた。


「それって、殺しちゃったってこと?」

「ううん違うよ。地獄の扉を開いて全員そこに入れちゃったの。地獄のどの辺かは分かんない」


「すごかった。アッちゃんの指にキューって吸い込まれちゃうの」

「親分みたいのもいたけど、そいつも一緒に。なんてことなかった。手応えゼロ」


自分たちは相当苦戦したのに、全く手ごたえを感じていない明日香に男二人は驚愕の二字だ。


「やっぱり、アッちゃんさんはすごいです」

「まーねー。ヒナタぁ。飲み物~」


とイスの上でふんぞり返った。陽太は召し使いのようにそそくさと冷蔵庫から麦茶を取り出し、人数分コップを用意して手渡して行った。


「ワタクシたちの方には鬼が二体。ワタクシの学校の同僚教諭でした。それが普段着の感じで近づいてきたんですが、そこから死闘です。一人は葉団扇で吹っ飛ばしましたが、もう一人はかなりの強敵です。両手を塞がれると道具も術も使えず。守るはずのヒナタさんがいなかったらワタクシはダメだったでしょう。本当に助かりました。ヒナタさん」

「いーよ。いーよ」


「つまり、どちらも生き残ってるってことか」

「はい。鬼は期日を指定しました。腕を7日間の間に取り戻しに来ると! 執念深いですからね。ですが、そこを迎え撃ちます」


「タケちゃん、そんな体でできんの?」

「天狗の秘薬でなんとか痛みは消えてます。あちらなんて腕がないのですから。ワタクシよりもダメージは大きいです」


「ダメだよ。ウチも手伝う!」

「タマモさん。ありがとうございます。敵の狙いはこの腕とヒナタさんです。妖術で監視しているでしょう。ヒナタさんには7日間、必ずこの部屋にいてもらいます」


「え? 学校は?」

「風邪でお休みになって下さい」


「風邪って?」

「そーだよ。ヒナタ。たまには休みな。私がノートとってきて上げるから」


と声をかける明日香。陽太の中に一抹の不安。一番頼りになる明日香が側にいない。これでは命の危険が増す。そこに竹丸が追い打ちをかける。


「ごめんなさい。ワタクシも学校に行きます。仕事なんで。夜はワタクシが守りますので」

「えー。竹丸さんもいないの~?」


前野はグイっと陽太に顔を近づけた。


「なんだよ。ウチだけじゃ不服?」

「い、いや、そんなことは」


「ヒナタ。例えればタマちゃんは地獄にくれば、おそらく私と同列くらいの魔力持ってる大悪魔だよ?」


そうなのだろうか? あまり戦うイメージがなかった。誘惑の術で男を落とすイメージばかりだ。


「いやぁ、アッちゃんほどハンパねくねーし」

「タマモさんは地上の中ではおそらく最強ですよ。大天狗様と同じかそれ以上」


「いやぁ、銃には敵わない。でも、うれしい。二人とも。あっはっはっは」


前野は、楽し気に笑い陽太の背中をパンと叩いた。


「っい!」

「大船に乗ったつもりでいたまえ! か弱き少年よ! はっはっはっは」


みんなが盛り上がる中、陽太の中には信用のないメーカーの製品を買わされた気持ちだけがあった。

なにしろ前野はこのメンバーの中で一番陽太に情がないのだから。

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