第41話 茨木童子との激闘
その頃の男子二人。陽太は暇を持て余し刀の鍔を指でなぞっていた。
「遅いですね。苦戦してるのかなぁ」
「いやぁ。タマモさんだけなら心配ですがアッちゃんさんもいますしね。ひょっとしたらもう終わって帰っちゃってるのかも」
その時、竹丸のスマホにライン音。
「あ! タマモさんだ。え? え……」
「どうしました? まさか負けちゃったとか? ケガしたとか?」
「いや、全滅させたらしいんですが、二人で今からナンパされに行くって。ハァ……」
「え?」
「アイスおごってもらうって」
「なんすか? なんすかそれ」
「二人にとっちゃぁ、いたずらなのかもしれないけど、彼氏としちゃぁ複雑ですよねぇ」
陽太も同じ思いだった。体の力が一気に抜けてしまい二人してビールケースの上でうなだれてしまった。
「あれ?なんか声がすると思ったら」
陽太たちは、このひと気のない袋小路の入り口を見た。声をかけた者の方へ。
「なぁんだ。ホシクマ先生とイバラキ先生」
見ると二人の女教師が笑顔でこっちを見て立っていた。
「はは。このちょっと先で飲んでた。なぁんだ。三峰先生も一緒? みんなで飲みにいかない? 浅川くんにはなんか食べれるもの出してあげるよ?」
そう言いながら、スーツ姿の女性二人は腰を振りながらハイヒールの音を立ててこちらに近づいて来た。
「マジすか。いっすねぇ。憂さ晴らしに。ねぇ。タケ……三峰先生?」
竹丸は陽太の体をつかんで、グィっと自分の後ろに下げた。
自分が盾になる形だ。
「ふーん。やっぱ気付いてたんじゃん」
「こんな人気のない袋小路にいるなんて、袋のネズミとはこのことだよ」
女性二人は立ち止まり、妖しく笑った。ゾッとする笑顔。赤い唇が耳まで避けているように思えた。
「ヒナタさん。鬼です。たおやかな女の姿をしておりますがとんでもない。充分用心して下さい」
緊張が走る。いつも授業を教えてくれる先生が鬼?
陽太は何が何だか分からなかった。しかし女教師二人は声を上げて笑う。
「あは! なに言ってんの!」
「そうそう。アンタとイバラキ先生の力はほぼ互角。二人が戦ってる間にアタシが浅川を殺して、その後にゆっくり二人でアンタを嬲り殺す」
「どう? このプランで。天狗さん」
竹丸は身構えた。陽太にも二人の妖しさは充分に伝わった。
「果たして上手く行くでしょうか?」
「行くよ。こっちの方が戦慣れしてるもんね!」
といって、二人して持っていたバッグを投げつけてきた。
空中でそれが網になった。陽太たちを網で捕える形だ!
竹丸も、陽太もそれを横に避けた。
しかし、続いて今度は二人が履いていたヒールだ!
都合四つが弾丸のように飛んできた!
竹丸は、靴を避けてはそれに素早く横蹴りを連続で食らわせて撃ち落とした。
「へー。ちょこまかと。やっぱ動きはいいね」
竹丸は、前と同じように手をスゥと上げるとその姿が消えて行く。
隠れ蓑を着たのだ。
「わ! どこにいった!?」
「ホシクマ先生。慌てちゃだめだよ。匂いを嗅ぎな。どこかにいるはずだよ」
と二人は身構えて探しているうちに、星隈先生はポーンと夜空に向かって飛んで行ってしまった。
ハハーン。天狗の葉団扇だな……。陽太がそう思ったのもつかの間。
「そこだな!」
風の方向を見極めた茨木は、諸手を上げて何もない場所に襲いかかる。
しかし、そこには竹丸がいた。茨木の剛腕を両手を上げて防いだ。
「ふふふ、両手を塞がれては、風の術は使えまい!」
といって、茨木がフゥっと息を吹きかけた。
その息によって、枝豆が鞘から出てくるように竹丸の頭から肩が姿を現した。
「なんのこれしき!」
「ほほう。思った以上に力もあるようじゃのぉー。久々じゃ。少し楽しませてもらおう」
と言いながら、陽太の方を見た。
「逃げるなよ! 逃げたらすぐ殺す! こやつを殺したらその後でゆっくり殺してやるでのぉ……」
陽太は完全にブルってしまった。
そいつは普段の優しい先生の顔じゃない。本当に、本当に鬼なんだ。
ヤスツナのレプリカを持ったまま身動きができないでいた。
竹丸は必死に力で押し返そうとする。
「ググ。やるではないか。この程度ではダメか。では少し力を入れるとしよう」
「ぐぁ! くぬぅぅぅぅ!」
茨木の体はブワブワと膨らんでゆく、元の体の5倍ほど大きくなっていた。
筋骨隆々で、竹丸を抑えつける腕は大木のようだった。
竹丸は苦悶の表情を浮かべている。
陽太にできることと言えば心の中で応援するだけだ。
雷鳴の術はダメなのだろうか?
そしてハッとする。指を絡ませるポーズも必要なのだと。
今は両手を押さえられている。
だから道具も術も使えないのだと。
自分は何のために修行したのだ。この日のためではないか。
竹丸に頼るな。自分でやれ。
体中の震えよ止まってくれ。
そう思いながら鬼に、茨木先生に近づいていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その頃の女子二人。人通りの多い駅前のベンチに腰を下ろしていた。
そこに若い男が二人、声をかけてきた。
「あれあれあれ? めっちゃ可愛くない?」
「オレ達とどこか行かない?」
「えー。だって私達彼氏いるし」
「ごめーん。また今度ね~」
「いーじゃん。こんなカワイイ子ほっとくなんて、ひでー彼氏だよ」
「ホントホント。オレたちで満足させてあげるって」
「おにーさんたち大学生?」
「うんうん。いろいろ教えてあげるよ~」
「えー。どーするアッちゃん」
「ちょっとお腹すいちゃったって言うか。歌いたいよね~」
「じゃ、あそこのカラオケ屋さんとかどう?」
「えー。フツー」
「だっていきなりホテルのカラオケはダメでしょー」
「えー。このおにーさん。引く」
「ゴメンゴメン」
「ふふ。面白いね」
「ゴメンゴメン。おごるからさ」
「どうする? タマちゃん」
「ちょっとだけだよ?」
「うんうん。ちょとだけ。ちょっとだけー!」
話しがまとまって、カラオケ屋の電気に向かって歩き出す四人。
男たちは後ろに下がって親指を立て合う。
女たちは妖しく微笑んでいた。




